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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
168/260

81(幕間)共犯者たち ③

 *夾竹桃は、花、葉、枝、根など全ての部分に、青酸カリよりも毒性が強いと云われるオレアンドリンという有毒物質を含んでいます。


「あっ、貴方は…」

尻の持ち主が小さく声を上げた。


「ああ、吃驚した…ガ、ガウディ様じゃないですか…」

小太りの少年は少し安堵する様に肩を揺らした。


ガウディは無言で小太りの少年と少年の持ち物を見た。

汗で顔をテカらせている少年の顔にガウディは見覚えがあった。


(たしかゼノと同い年くらいだったか…)

多くの貴族の少年を集めて剣の稽古をつける師範の元でなかなか剣技が上達できず、居残り授業を受けている少年だ。

運動神経が今一つなのか常に置いていかれてるのを、ガウディは何度も見た事がある。


授業自体は良家の子息のみが集まるから皆名家の子弟の集まりであるのは間違いないが、稽古をつける先生の責任も問われる為如何せん出来が悪いと生徒は居残り稽古を受けなければならなくなる。

少年はいつも居残りをさせられる組の一人でもあった。


反対にガウディは一度指導された事は直ぐに覚えるので、殆ど少年とは接点が無い。

何故ガウディが少年の顔を覚えていたかと言えば、義弟ゼノがこの少年に絡んでいたところを一度声を掛けた時があったからである。


ガウディは小首を傾げた。

(…こいつの名前が分からんな)


「此処でお前は何をしていた?」

ガウディは短剣を構えつつ少年にゆっくりと近づいた。


「あれ?ここはゼノ様のお宅になるのですよね。何故ガウディ様がここに…?」

少年は不思議そうに呟いたが、ハッと気づいた様に外の音に聞き耳を立てて、ガウディへと慌てて言った。


「た、大変です。ガウディ様…隠れて下さい。僕がこの屋敷の中で潜んでいたら、突然黒装束の男達が入って来て…」

「……」

「…あれ?ガウディ様のその恰好は…」


また『あっ』と息を吞んだ小太りの少年は、ガウディの顔を見上げてまじまじと見つめた。

そしてそのままじりじりと後ろに下がりながら、震え声で言った。


「あの…僕、絶対に誰にも言いません」

「嘘だな。何故そう言い切る事ができる?」


油汗をかき始めた小太りの少年の言葉に、ガウディは薄笑いを浮かべた。

少年に向かって少しずつにじり寄り、持っていた短剣を構える。


「それは――僕が来た目的が同じだから…です」

手に持っていたものをぎゅっと握り締め、少年はガウディへと言った。


***************


ガウディは小太りの少年の台詞には答えず、ふんと鼻を鳴らした。

ふくふくとした少年の手に握られているものに目を落とす。


「お前が持っているもの…それは夾竹桃の枝だな」

「そうです…水甕の中に入れてやろうと持ってきました。実は向こうに袋が置いてあって、その中にもっと沢山入っています」


そう言うと、少年は暗がりの崩れた鍋が散乱する辺りに目をやった。


「僕…ゼノ様が憎くて…憎くてしょうがなくて…我慢が出来なくて…」

『酷い事をされたんです、だから…』

少年は俯いて震えながら同じ言葉を繰り返していた。

ガウディはゼノに声を掛けた時の少年の様子を思い出していた。


ガウディは小さくため息をついて短剣を鞘に納めると

「ここから離れろ」

と少年へと言った。


「厨房の裏口なら今は人がいない筈だ。運が悪くない限り見つからん。その夾竹桃の枝はお前が持って帰れ。燃えると有毒な煙が出るし、後で見つかると色々と面倒だ」

「分かりました。な、成程…この邸宅を燃やすのですね」


『邸宅を燃やす』とは直接的に言っていないが、震えながらも少年は察し良く頷いた。

どうやら頭の回転は悪くは無いらしい。


「…見逃して頂いてありがとうございます、ガウディ様。

僕…何かあれば必ずガウディ様のお手伝いをします」

少年は鍋の転がる暗がりから一抱え出来る程の袋を取り出すと、口早に言ってぺこりと頭を下げ厨房の裏木戸から出て行った。


迷いのない少年の足取りを見るに、事前に地図を見ていたのか側妃宅の庭を分かっている様だ。

袋を背負う後ろ姿を見たガウディは

(あれなら直ぐに庭を抜けて見つかる事は無いだろう)

と木戸を施錠した時、丁度エシュムンが様子を見に来た様だ。


「何やら派手な物音がしましたが…いかがしましたか?ガウディ様」

「――何でもない。鍋が勝手に倒れただけだ」


ガウディは自身の弟を手に掛けた事も厨房の侵入者の事もエシュムンに言わなかった。

ガウディの様子を見たエシュムンも特にそれ以上は追究しない。


「…そうですか。こちらの細工は終わりました。油は撒き終わりましたか?」

「撒き終えたぞ」

「ではそろそろ火を着けます。殆どの家人は炎よりも先に煙でやられるでしょうな」

「そうか…では引き揚げよう」


ガウディは再び黒仮面を着け闇夜に紛れて側妃の邸宅から引き揚げた。

そのまま泥酔するゼノの巨体をガウディ宅の庭の林の中にある完全に凍った湖の畔まで運んでもらうと、エシュムン一行は馬車に乗ったまま姿を消した。


ガウディは持って来た大きな斧を両手で持ち、凍った湖に立った。

ゼノが目を覚ます前にやっておかなければなければならない事がある。


ガウディは真冬なのに全身に汗を搔きながら、ひたすら凍った湖へと斧の刃を振り上げた。


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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