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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
165/260

78(幕間)引き金 ③


ガウディは林の中を歩いていた。


今更ながら母の痕跡を探しても、数日たった今では何も見つからないのは分っている。林の中をただひとり宛ても無く歩き、小さな湖のほとりまでやって来た。


湖には薄い氷が張っていて、ガウディは試しに片足を乗せた。

キシキシと軋む音がする。


確かにこの上を大人の体重で歩けば、この薄い氷など簡単に踏み抜いてしまうだろう。


ガウディが目を凝らすと、湖の一部に割れた様な後がある。

(…母上はあそこから落ちてしまわれたのか)


『どうして母は何故あんな場所に行ってしまわれたのか?』

『ゼノは何故母を連れ出したのか。本当に連れ出したのか?』

『一体何故母は死ななければならなかったのか?』


かつて無い程の悲しみと共に、疑問ばかりがガウディの中で湧き上がっていく。


(側妃らの対応と父の行動を考えると、どう考えても…)

確信めいた考えが頭の中を過るが、なにせ証拠は何も無い。


すると遠くからがやがやと数人の男達の話す声が、ガウディの耳にも聞こえた。


ガウディはとっさに見つからない様に、木立の陰に自分の身を隠した。


どうやら――三人の男が連れ立って時折林の茂みをガサガサと揺らし、何かを確認しながら歩いている様だった。


「おい…あったか?」

「…いや、今のところ何もない」


ガウディの耳に男達の話し声が徐々に聞こえてきた。


「…なんでいつも俺らが毎回坊ちゃん達の尻ぬぐいをしなきゃなんないんだい」

「仕方が無いだろう。それがお館様の御命令なんだから」

「何故あんなに節操が無いんだろう。いつもゼノ様達の後始末をしなきゃいけない俺らの身になって欲しいよ」


「そんなのある訳がないだろ。今回だって大奥様に乱暴しようと追いかけて、結局追い詰めて湖に落ちたのを、お館様に泣きついてどうにかしてもらおうと思っているんだからよ」

「流石にあの目は天罰だよなぁ…いい気味だぜ」

「あれは抵抗した大奥様に刺されたんだろう?」

「…さあてね、俺らには関係の無い事だ。さあ…ぶつくさ言っていないで、早く御命令通りゼノ様達の痕跡を探して消すぞ。()()ガウディ様が怪しんでいるらしいから、何か見つかったら面倒な事になる」

「ははっ、そうさな…。早く処分して帰るべ…」


笑いながら話す男達の姿は、木立の中へと消えていった。

ガウディは、それを隠れたままじっと身動きをせずに聞いていた。


 *********


(…やはりそうだったのか)


ゼノ達が――母上を死なせたのか。

しかも父上もそれを知っていて、我が子可愛さにそれを隠そうとしているのだ。


あの時、自分は迷ってはいけなかった。

側妃の井戸に毒を投げ込もうとする母を止めるべきでは無かったのだ。


ガウディは木にもたれ両手で自分の顔を覆いながら自らの甘さを呪った。


(あの時に確実に仕留めておくべきだった)

そうすれば母はゼノ達から危害を加えられ死ぬ事は無かったのだ、と悔いの念ばかりが沸き起こった。


しかし、もう遅い。

母上はもう既に死んだ。


そしてもう一つ分かった事がある。

それは『殺られる前にやらなければこちらが殺られる』という現実でもあった。


ガウディの脳裏に幼い頃の艶々とした大きなマンティスの姿が蘇った。

そいつが大蜘蛛の籠の中で抵抗も出来ない状態で横たわる姿を。


そして同時にあの日の

『ガウディ…約束してくれる?』

と聞いた少女の様な仕草の母の姿も。


()()()()


そう小さく呟くとガウディはそのまま林の元来た道を戻った。

無表情のまま、もう湖の方を振り返る事はなかった。


その左耳の赤い宝石がチカリと鈍く光りを放った。


 *******


エレクトラの遺体が無い事から葬儀は親族内でひっそりと行われた。

親族と言えど、ガウディと父のみであったが。


流石の父親も自分の側妃とその子供らの参列は遠慮させたのだろう。


母親方の親族は、彼女の両親の子供はエレクトラだけで共に高齢で既に亡くなっていた為に、殆どが参列しなかった。


レダ神の神殿からの神官等が形式的に邸宅を訪れて、代わる代わる父とガウディに向かって哀悼の意を唱えて帰っていったが、それだけだ。


通常であれば別れの宴を開き、沢山の人々に囲まれ見送られるのが常であるが、エレクトラの身体自体が湖に沈んでいる事と、()()()()()()()()()()()()()()()父の考えで、その催しも完全に見送られていた。


彼女の墓だけは豪華につくられてはいたが、『大公閣下の正妻』と言う地位の割に驚くほどひっそりと寂しくガウディの母は埋葬された。


参列者が全て帰った後、ガウディは誰も居なくなった墓の前でひとり誓った。


『母上の残した仕事はやり遂げます。そして貴女が気にかけていた少年を…』


 *********


ここはバザールからの香辛料の香りや人々の喧騒が聞こえる下町の裏手である。

据えた匂いの立ち込めるスラム街の一角にガウディはひとり佇んでいた。

母が手に入れた毒薬を売っていた売人と会う約束をしていた為である。


「…随分とこんな危険な場所までご足労頂けましたなあ。ガウディ様」


ほっほっと笑いながら、白髪交じりの小汚い風体の初老の男が何処からともなく姿を現した。


ガウディは無表情のままで短剣を持ち上げた。

それにはガウディ自身の物では無い血液が所々にこびり付いている。


「小蝿の数匹は追い払ったが、問題ない」

ガウディは初老の男に向かって言った。


「…先日こちらが返した毒薬と新たに痺れ薬を注文したい。痕跡の残らない物で頼む」

「ほうほう、それはそれは。何故とは…ご事情を聞かん方がよろしいでしょうな」

「…聞かない方がいいだろうな」


ガウディは初老の男を見て薄笑いを浮かべた。


「それではご用意できたら連絡致しますゆえ」

「では頼むぞ」


ガウディは踵を返しかけて、ふと初老の男に尋ねた。


「何故この様な汚い場所で、お前は闇医者をやっているのだ」

「汚いとははっきりお言いになりますな」


初老の男はまた少し声を上げて笑った。


「…儂の医術の殆どがヴェガ神の神殿からの教えに因るもの。それは大抵の人々に嫌われますのでな」

「そうか、それは勿体が無い。お前が持つヴェガの秘術は貴重なものなのに。それにお前は裏社会にも繋がりがある様だな」

「それは鋭いご指摘…その通りでございます」

「ふふ、俺はお前が気に入った。これが上手くいった暁には、お前を王宮へと呼んでやろう」


ガウディは薄笑いを浮かべて初老の男を見つめた。

「…お前は俺の事を裏切るな、エシュムン」


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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