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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
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76 後始末



「これは酷いな…」


ゼピウス国首都までの道のりは、その首都へと向かう程そこかしこで死臭が強く漂っている。


時折死体に群がるカラスの鳴き声を聞きながら、ニキアスは陰鬱な気分になっていた。


馬上で首を後方へ巡らせると、後ろに続く軍の皆の殆どが口元を覆ったり不快な光景を目に入れない様にしている。


兵の多くは殺戮に慣れているとは言え、これだけ腐敗の進む遺骸の中を進むのは地獄だった。


アウロニアまで連れ帰るのが手間だったのか、公道の多くに打ち捨てられているの多くは、着衣の様でゼピウス国の兵と奴隷だと解る。


ユリウスもまた青ざめながら、自分のハンカチで口元を覆っていた。


通りすがりの村の建物は焼け崩れ落ちて、修復されている様子も無く、人々がいる気配すら無かった。


「…この村は完全に捨てられてしまったのだな」


ニキアスは村のそこいらで、埋葬されずに鳥、鼠、蝿や虫に集られながら朽ちる死体を見下ろしながら言った。


一度馬から降りると、ニキアスは後ろの兵等に命じた。


「近くの死体だけでも集めて火で燃やせ。このままだと流行り病の原因になるからな」


********************


その光景は、恐ろしい事に首都ゼピウスに入ってもまだ続いていた。


一見そのまま都市の形として残っている様だが、城下街の殆どが略奪されたまま放置され、道路の端でぼろ布の様に倒れている住民がそこかしこで見られ、悪臭や腐臭にまみれている。


時折弱々しい呻き声も聞こえているが、人々が健康的に生活をする事が出来る環境では無いのだろう。


藁の様に高く積まれる死体の中でも、比較的新しいものは体力や抵抗力の無い老人や子供の類だった。


「…ここを我が軍の陥落後管理していたのは誰だ?」


ニキアスは傍らで馬を進めるユリウスへと尋ねた。


********************



陥落後の首都ゼピウスを管理していたのは、ニキアスの後に入った皇軍レオのペトロス=デュカキス将軍の軍隊である。


今回はアウロニア帝国の首都(ウビンソリス)廻りの警備を任された将軍でもあった。


ライオン将軍の異名を取る猛々しく冷酷で容赦の無い将軍である。

また熱心なメサダ神の信者でもあった。


因みにヤヌス=クセナキス将軍は彼の旧知の仲で、その性格も良く似ていた。


今回の『皆既日食』の警備は首都周囲で活動する事になったから、もしかしたら戦後の後始末の途中で陛下に呼び戻されて、仕事が中途半端になった可能性もあるのだが…。


(…分からんな。ペトロス将軍は強烈なメサダ神信者だから)


特に教義上で明らかに異なる部分がある訳では無いのに、何故かメサダ神とレダ神は古来より対立する事が多い。


(レダ神の信者が多いゼピウス国のへの対応が辛くなっても仕方が無いとは思うが)

略奪跡と共に累々とする屍の光景を見ながら、ニキアスは考えていた。


(だとしてもこれは…)

悪手としか言いようがない。


復興しゼピウスを植民地として統治するにも時間がかかる上、占領されたゼピウス側の民の憎しみもアウロニア帝国により強く向くだろう。


ニキアスは出来るだけ戦死者への弔いを行いながら、首都の中心に向けてゆっくりと行軍していった。


******************


「良くいらっしゃいました。ニキアス将軍閣下」


ゼピウス国の会議を執り行う議事堂だった場所で、元ゼピウス国政治家の一人であるクレメンスはニキアスを出迎えた。


クレメンスは、ゼピウス国陥落後の投降者の窓口となった政治家の一人でもある。


「戦後の処理が色々と追いついていない様だな、クレメンス」


「戦死者の埋葬がなかなか人手不足で進まなくて…申し訳ない…」

ニキアスよりもずっと年上であるクレメンスはようやく答えた。


ゼピウスの埋葬とは土葬なのだ。


「衛生面で不安が残る。死体をそのままにしておくのは様々な病の元になるぞ。せめてそれだけでも早急にやらなければ」


「その通りですが…我が国の兵らの殆どは逃亡したり、投降した兵もペトロス将軍に言われなき罪で斬殺されたりして、なかなか統制できず…」

「…成程な」


やはりそうであったかとニキアスは頷いた。

(復興と埋葬に掛ける人員が足りてないのだろうな)

取り敢えず死体を邪魔にならない様にどかして、まとめて置いておくのが精一杯なのだ。


この現状では『皆既日食』云々を伝えるどころの話では無かった。

「クレメンス、お主と詳しく話がしたい。これから起こる空の事象についてだが、まずは都市の…戦後の後始末をしながらになるがな」


*****************


ニキアスは、行軍に連れて来たミケウス=カレをクレメンスへと紹介した。


「これから起こる事象についての詳細を彼がしてくれるだろう」

「…事象ですか?」

クレメンスは怪訝な顔でニキアスを見た。


「よ…よろしくお願いします。

アウロニア帝国立天文学省のミケウス=カレです」


累々とした死体の光景と臭気とやられたミケウスは、ハンカチを口元で覆い青ざめながらもクレメンスへと礼儀正しく挨拶をした。

「これから私が起こる空の事象について、説明させていただきます」


「取り敢えず首都内とその周辺の修復を早急に行いながら、事象については少しずつ広めていこう。日蝕までに間に合うかどうかは分からんが」

ニキアスはクレメンスへと言った。

お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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