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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
157/260

70 ルチアダ大神殿で ③


「まだ続きますので、どうぞお座りになってお楽しみください」

「まぁ…まだ曲があるのですか?」


「もう一曲あります。楽しい曲なので是非。とは言え、陛下が来られた際は大抵最初の一曲だけ聞いて、お帰りになられるのが常ですが」


「え?…陛下が?…陛下がルチアダ大神殿(此処)へ来られるのですか?」


(――わざわざ陛下が…?何故?)


余りにも意外なロレンツィオの言葉に、わたしは驚き思わず尋ねていた。


「時折ですが、お忍びでガウディ陛下とドロレス執政官様お二方が聞きに来られます」


当たり前の様に答えたロレンツィオは、小首を傾げて不思議そうにわたしへ質問を返した。


「あの…本日マヤ様がこちらへ来られたのは『陛下の代理』と皇宮からお伺いしておりましたが、もしかして間違っていましたでしょうか?」


「え!?」

(――わたしが陛下の代わり!?)


「…あ、いえ…そうなんです…か?」

「『そうなんですか』とは?…私どもはその様に聞いておりましたが…」


ロレンツィオと疑問符を付けたまま二人で顔を見合わせていると、二曲目の前奏が始まってしまった。


「…とりあえず、また後程お話をしましょう」

「そ…そうですわね」


ロレンツィオの言葉にわたしは頷いて、ベンチへと座り直した。

(取り敢えず後でもう一度、ロレンツィオに訊いてみよう)




二曲目は一曲目と打って変わって、アップテンポの協奏曲だった。


アレクシアはベンチに座ったまま、大きなハープから縦笛に楽器を変えていた。


楽し気なメロディが一気に沢山の楽器から演奏され、太鼓と共に演者と信者、見物人が同時に手拍子をし始めた。


すると――いきなり客席側から、露出の多い艶やかな衣装を着た踊り子や美しい肉体の美青年らが飛び出してきて、踊り始める。


(わあ…すごいわ…!)


一体感のある手拍子のリズムと、演者がそれぞれに楽器がかき鳴らす音楽と、美しく躍動的な踊りが相まって、まるで以前の世界で見た事のある最高に盛り上がる壮大なミュージカルのハイライトの様だ。


締めの音が鳴り終わると、皆が一斉にスタンディングオベーションで拍手をする中アレクシアがスッと立ち上がった。


拍手が止まり、シーンと空気が静まりかえる。


アレクシアがおもむろに口を開いた。


「今日はこの様な中、皆この神楽祭に来てくれて…感謝します。

皆も知る通り、ここ一年程『ルチアダ』神の『神託』が降りてこない状況が、わたくしのみならず、全国各地の預言者の中で起こっています。


何故この様な事になったのかを各神殿にて調べてはいますが、未だはっきりとした原因は不明です。


けれど――たとえこのままお返事が無くとも、それは全て女神『ルチアダ』の御心のままです。


わたくし達は女神の御心やお言葉を直接感じなくとも、自由に歌い踊り…表現する事が既に生活の一部の民です。

いつも通り表現する事を愛し、楽しんでください。


その一番重要な心があれば常に女神様と通じあえるという事を、我々は忘れてはなりません」


アレクシアが美しく張りのある声で高らかに宣言すると、先程のスタンディングオベーション以上の歓声が上がった。


*****************


アレクシアは、縦笛を持ったまま美しい顔を紅潮させて、白いチュニックとトーガを翻してわたし達の所に戻って来た。


「今日の演奏も楽しかったわ、ロレンツィオ神官長。女神様の息吹はまた感じられなかったけれど」


そのままロレンツィオに軽くハグをすると、自分の持っていた縦笛を渡して、くるりとわたしの方を向いた。


「ようこそいらっしゃいましたお姉様。直接お話できて嬉しいですわ」

「お…お姉様?」

「『ルチアダ』神にとって『レダ』神は姉や母と同じ存在ですから」



そしてロレンツィオに『飲み物をお願いします』と頼むと

「…失礼して座ってもよろしいでしょうか。お腹が少し張っている気がするんですの。お腹の子に良くありませんから」

と言って、アレクシアはすぐにさっと近くの長椅子へと腰を掛けた。


(え…?)

「…お腹の子?」


わたしの呟く声を聞いたアレクシアは軽く頷いた。

「はい。今ちょうど五ヶ月目に入るところですわ」


「…えっ…!?」

(五ヶ月目って…まさか…)


「ええ。わたくし今…妊娠しておりますの」


ただただ驚くわたしに向かってあっけらかんと言ってから、アレクシアは花が咲く様に微笑んだ。


****************


「アレクシア様…ご、ご懐妊していらっしゃいますの??」

いきなりの爆弾発言に、わたしは呆然として呟いた。


「お…お相手は…いえ、あの…その前に失礼ですが、アレクシア様…ご結婚されていました?」


「いいえ、未だ独身ですわ。お相手の方とは身分が釣り合わないので、子供はひとりで生み育てるつもりです。臨月になったら皇宮からお暇して、神殿に戻るつもりですから」


しっかりとした彼女の言葉の端々からすると、どうやら見た目よりもずっと逞しい女性の様だった。


(――身分が釣り合わない?…)


アレクシアの言葉を聞いて、わたしはあの第三評議会と預言者達が集まった時の、やたらにアレクシアに気を遣う陛下を思い出していた。


(もしや――陛下の御子…なのかもしれない)


あの時のフィロンも、訳の分からないヤキモチオーラを出していたではないか。


何だかここに来て次々と色々な事実が発覚し、わたしの頭の中はパンク寸前になってしまった。


(どうして…こんな大変な事を知る羽目になっちゃったのかしら…)


ニキアスの家族の事を陛下に尋ねたら、ルチアダ大神殿(此処)へ行く事になって、陛下はこの神殿に定期的に通っていて、預言者アレクシアが妊娠していているのは――実は陛下の御子かもしれない…。


(ニキアスの家族の事を訊きたいが為に来たのに、正直…知らなくていい事まで知ってしまったわ…)


この神殿を訪れた事を少し後悔し始めたわたしは、今や完全に無言になってしまった。


俯いたままのわたしに何か不気味なものを感じたのか、水の入ったカップを持って来たロレンツィオ神官長は、アレクシアにそっと耳打ちをしていた。


「まあ…マヤ様、申し訳ありません。色々と事情をご存じなかったのですね」

「…はぁ…ええと…色々と知りませんでした。何と言うか…すみません…」


わたしはそれ以上何とも言えず、モゴモゴと答えた。


それから少し咳払いをして、ようやくアレクシアへと向き直った。


「本日わたしが伺ったのは、申し訳ありませんが陛下の代わりではありません。実は…皇軍『ティグリス』のニキアス将軍のご家族についてお聞きしたくこちらへ伺いました。

アレクシア様…何かご存じありませんか?」


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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