64(幕間)不穏
お待たせしました。
ちょっと後半15Rになります。嫌な方お気つけ下さい。
アウロニア帝国の植民地の統治の基本は、ほぼ分割統治である。
北に位置するゼピウス王国は人種的に殆ど同じではあったが、東の景国や南のベルガモン国・バスキア王国はそれぞれ全く異なっている。
そして、アウロニア帝国に侵略された後のそれぞれの国の扱いは異なっていた。
元々のアウロニア王国の自治領地とその周囲の同盟国は、アウロニア帝国として纏まった今となっては、他の国とは格段に優遇された扱いを受け、その差は歴然である。
帝国市民とされればその市の選挙の参加は勿論、職業選択の自由や相応の教育を受ける事が出来た。
しかし、その他の植民地の市や州は帝国と全く同じ扱いはされなかった。
特に多くの奴隷階級や外国人と認定された者については、職業選択は勿論の事、他の市への自由な移動や選挙への参加も許されなかった。
また宗教も――『レダ神』や『メサダ神』を始めとした七兄弟神のうち、『エイダ神』『ルチアダ神』『コダ神』『ドゥーガ神』は一般的で許されていたが、『ヴェガ神』は忌むべき宗教と差別され、信者らはひっそりと隠された神殿に通うのだった。
普通の王であればこれらを数十年かけて征服し、統治するものだが、皇帝ガウディは即位してものの十年で、このアウロニア帝国の基礎を作り上げた。
恐るべき手腕であったが、強引な手口にその綻びがそこかしこで見え始めるのも否めなかった。
****************
自身の黒い愛馬に跨り、黒い甲冑を着たニキアス=レオス将軍は、皇軍『ティグリス』を率いて街道を北上中であった。
前回のゼピウス国攻略後の凱旋より、それ程時間が経たない蜻蛉返りとも言えるこの命令に、一部の兵からは不満の声も聞かれたが、殆どが大人しく従った。
休暇という形でウビン=ソリスに残った者以外は、給料の払いも良い事から参加する者が多かったのだ。
今回は明確な目的が戦闘では無く、『皆既日食』に対し、各国で混乱とそれに乗じた反乱が起こらない様にする『規律』が目的の、帝国のガバメント作戦の一環だからかもしれないのだが。
しかしながら、前回率いてきた軍隊よりは少ない数ではあるとは言え、アウロニア帝国の正式な軍旗を掲げている事には変わらない。
ゼピウス王国の首都『ゼピウス』へと向けて、皇軍『ティグリス』はゆるゆると軍隊の行進を進めて行った。
アウロニア帝国寄りの街道沿いの村や街の風景は、ニキアス等が帰った後と殆ど変わらずのどかである。
「ニキアス将軍閣下」
副官補佐であるユリウス=リガルト=ダナスが、馬を寄せ近づいて来た。
まだ成人として認められる十六歳にはなっていないが、副将軍である父親の許可と本人の強い希望にて、ニキアスの正式な副官補佐として帯剣をし、今回の遠征に付いて来る事が許されたのである。
「後続の部隊の移動も順調です」
「そうか。ご苦労、ユリウス」
ニキアスはユリウスに優しく微笑みかけた。
ユリウスは思わずニキアスの姿に魅入ってしまった。
(何て美しいんだろう、ニキアス様は)
前回の遠征には付けていた黒仮面を、ニキアスは最早つけていない。
左額から瞳に掛けての痣は、もう既に薄い茶色位に変わっている。
その場所以外は、黒子一つない滑らかな象牙色の磁器の様な肌である。
秀でた額から続く高く繊細な鼻梁と凛々しく眉、その下の濃い睫毛に囲まれた美しいグレーの瞳は、硝子細工の様に煌いている。
少し厚みのある唇は何とも言えない色気があり、束ねた艶のある長い黒髪は風になびいている。
甲冑姿のニキアスの堂々とした姿は、まるで美しい一枚の絵画の様だった。
以前に比べて自信に溢れてカリスマ性すら発揮しているのに、時折ひとり考え込んでいる理由をユリウスは分っていた。
(マヤ様の事だろう)
今回の『皆既日食』とやらの予測と彼女の見解は、今までのアウロニアの歴史の中では明らかに異質である。
その意見と今回の対策の責任を将軍であるニキアスが負う程、ニキアスはマヤ王女を大切に思っている。
(…それらが裏目に出ないといいのだけれど)
ユリウスは軍の先頭で指揮をするニキアスを見つめながら、何故だかそう思ったのだった。
***************
女の喘ぎ声が聞こえて、暗闇で目を覚ました。
(…ここは何処だ?)
此処は自室だった筈である。
(そうだ。その筈だ)
なのに何故――。
(自分の目の前で全裸の女が跨っているのか?)
その女は小さく喘ぎ声を漏らしながら、白い肌に汗を薄っすらと滲ませていた。
豊かな胸と足を大きく広げた腰が、目の前で規則的に揺れている。
女の白い顎が上を向いてのけぞり、身体が大きくビクリと痙攣する。
その後は力が抜けた様に、蜂蜜色の長い髪が自分の胸の上にしな垂れかかった。
「………」
女が自分の名を切なげに呼ぶ。
大きく息を切らしながら倒れ込んだその女の髪を掻き揚げると、情欲で潤む扇情的な碧い瞳が現れて、自分をじっと見つめた。
「…もっと…」
女の腕を掴んで、乱れた金髪の隙間から顔を見ようと引き寄せる。
すると女は――顔を伏せて、いきなり身体を小刻みに震わせ始めた。
それは自身を責めるような鋭い声だった。
「…どうして助けてくれなかったの?」
突如雰囲気の変わった声音に思わず上体を起こすと、女はいきなりその顔を自分へと近づけた。
美しい碧い瞳がみるみるうちに落ちくぼんで、黒い穴の様に変わる。
ぷっくりとした桃色の唇から出る声は、驚くほどしゃがれていた。
「――お前は早く死ね」
跨っていた女はそう言うと、顔の部分だけが骸骨の老婆へと変わった。
お待たせしました。m(__)m
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク・評価いつもありがとうございます!
なろう勝手にランキング登録中です。
よろしければ下記のバナーよりぽちっとお願いします。




