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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
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59 神の怒り ②



「何を言おうとしたのかしらね…あの子は」




雲一つない青空が果てなく広がっている。


その中で遠く遠雷が微かに鳴り響いた。



空は晴れて明るいのに、何故か太陽の場所がはっきりと分からない。


そしてその下には青々した艶やかな葉が茂った大樹が湖の中央に立っている。


湖は鏡の様に水面が動かない。


こんなに立派な樹であるのに、そこで憩う鳥達の姿は見えない。


その大きな樹だけが静かに存在感を放っていた。


大樹はいくつもの細い幹が混沌と絡まり、一つのとてつもなく太い幹になっているようだった。



その大樹の回りに他の植物は見当たらない。


いや――水面の下に草の様な植物が一面に見えている。


全く動かない湖の水面下で、丈の短い草は強風に吹かれている様にうねっていた。



不思議なのは、この大きな樹はその根も無数に枝分かれしているが、全て水に沈んでいるのだ。


この大樹は地に生えていなかった。


全て動かない水面の下から養分を吸い上げているのだ。



そして――大樹の太い枝の一つにブランコが引っ掛かかっていた。


木の蔓で出来たその小さな古いブランコが、彼女の玉座だった。


ブランコを小さく揺らしながら座る彼女は、簡素な白いローブを羽織っている。


海の様な蒼い瞳と若々しく蜂蜜色に輝く金髪の老婆だった。



「あの男は…厄介だわ。早く死ねばいいのに」


彼女は呟くと、背後に佇む大樹を見上げた。


この樹はしばらく花をつけていない。


(昔はあんなに咲き乱れていたのに)


そしてそのまま彼女の足元も見つめた。


動かない水面の下でうねる草は苦しむ人間の姿にも見える。


(…まだ大丈夫。大丈夫よ)


()()の『亡国の皇子』のルートに戻せば少なくとも――。


(あの子が――ニキアスが全てを握っている)



女神は静かにブランコを揺らしていた。



遠雷すら消え静まり返った世界の中で、彼女が揺らすブランコの鳴らす音だけが微かに響いていた。



***************




「お休み、マヤ。良い夢を」

ニキアスはわたしの額に優しく唇を落とした。


何故か分からなかったけれど、ニキアスがわたしの部屋を出た時に嫌な予感がしたのだ。


「…ニキアス お願い。寂しいから早く帰ってきて」


わざと駄々っ子の様に言葉に出したのは、わたし自身が不安で仕方が無かったからかもしれない。


ニキアスの美しいグレーの瞳がわたしをじっと見つめると、少し微笑んでから逞しい腕でわたしを抱きしめてくれた。


「帰ってきたら今度こそ…君を俺のところに戻してもらう様に兄上にお願いする。必ず――約束する」


ニキアスの優しい言葉にわたしは彼にしがみついて、ただ頷く事しかできなかった。

「…気を付けて。ニキアス 行ってらっしゃい」


遠ざかるニキアスの背中を見つめながら


(どうしてこんなに不安になるんだろう)


わたしは自分の不安の原因が分からず、不思議で仕方が無かった。


******************



ニキアスが帰った後、わたしはニキアスの言葉を思い返していた。


『兄上に俺に家族がいると言われて…』


あの質問した時に、ニキアスには話を上手く反らされた感があったが、もしニキアスのお母様が本当に生きていたら――。


それが良くも悪くも

(ニキアスに何等かの影響があるかもしれない)


けれど――それを知っているのは一体誰なんだろう。


(陛下…?)


わたしはガウディ陛下を思い出したが、ブンブンと首を振った。


(教えてくれる訳が無いわ)


リラにも一応尋ねてみたけれど

『陛下とその御兄弟についての全ては厳しく秘匿されていますので、わたしにも分かりません』

と予想通りの答えが返って来た。


わたしはため息をつきながら考えていた。


(それはそうよね…)

あと…知っていて、教えてくれそうなのは誰だろう。



その時わたしは閃いた。


(バアル様だわ!)


バアル様なら知っているかもしれない。


何と云っても同門と云うか――ニキアスが信仰するドゥーガ神の預言者だ。


(ニキアスを可愛がっている雰囲気もあったわ)


ニキアスの事が心配で…と相談すれば、何等かの情報を教えてくれるかもしれない。


自分の閃きに気を良くしながら、わたしはリラにバアル様に手紙を送る様に頼んだ。


**************


「…マヤ様、申し訳ありません。出来ません」


わたしはまさかのリラにダメ出しをされてしまった。


「ど、どうして…?」


「預言者間でのやり取りは基本的に禁止されております。どうしてもというのであれば、陛下に直接お願いするしかないと…」


リラは申し訳なさそうにわたしへと頭を下げていた。


「あ…そうだったわね…」


自分がすっかり皇宮内での預言者のルールを失念していたのだ。


「ごめんなさい…わたし、忘れていたわ」

「すみません…それにバアル様の行き先は多分陛下しかご存じ無いと思います」


「そうなの…」


それではどちらにしろガウディ陛下に面会をお願いしなければならないという事ではないか。


(陛下に断られる予感しかしないわ…)


段々と自分の気分が重くなるのをわたしは感じた。


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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