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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
2.『vice versa』アウロニア帝国編
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53 皇帝陛下への上申 ②



ニキアスは赤い絨毯の敷かれた通路を大量の資料を持つミケウスと共に歩いた。


両手から溢れそうになる程の資料の一部がミケウスの手元から床に落ちた。


「あっ」


「これは俺が持とう」


かがんで拾おうとするミケウスをニキアスは手で合図すると、自らが屈んで拾い集めた。


「あ、ありがとうございます。レオス将軍」


「少々君に訊きたいのだが…」


あわてて礼を言うミケウスへ、ニキアスは立ち止まって尋ねた。


「アポロニウス君は…優秀な天文学者なのだろう?」

「そうですね。我々の中では断トツで優れた才能を持っています。

ですがお父上様が…」


「なかなか認めてくれないと云ったところか」

続けたニキアスの言葉にミケウスは深く頷いた。


「そうです。アポロニウスのお兄様はクセナキス将軍(お父上)様の軍で働いていらっしゃる軍人の方ですので、余計に彼と較べられてしまうのでしょう。

よく『父と兄から軟弱者と言われる』と彼自身がこぼしていましたから」


「…彼も苦労しているのだな」


「最近仕事がとても楽しそうでしたのに、こんな事になって…」

『残念です』とミケウスは少し悔しそうに言った。


「そうか…」

ニキアスは思わず眉をしかめた。


アポロニウの自宅謹慎の理由の一部を自分が担ってしまった事に多少の責任を覚えたのだ。


その表情を見たミケウスはニキアスがアポロニウスに同情していると思った。


「…僕も本当に気の毒だと思います」


マヤがニキアスの恋人だと知らないミケウスは話し続けた。

「レダの預言者様のお手伝いが出来ると、あんなに生き生きとしたアポロニウスを僕は見たことがありません」


****************



絨毯が敷かれた通路の真ん中を通った向こう端に、現アウロニア皇帝ガウディ=レオスが皇帝の椅子(ソリウム)に座っていた。


トントンという規則的なリズムを刻む音が聞こえる。


ガウディ皇帝が指先でいつもの通り椅子のひじ掛けを叩いているのだ。


ニキアスとミケウスは衛兵達に資料を渡すと、一礼し頭を下げたまま片膝をついた。


「アウロニア帝国皇軍『ティグリス』が将軍ニキアス=レオス参上いたしました」

「第三評議会天文学学者代表ミケウス=カレ参上いたしました」


トンという音が止むと同時に


「ニキアス、ミケウス、ごくろう。面を上げよ」


ガウディ皇帝のひび割れた声が頭上から降って来た。




「…今回の『皆既日食』の件についてですが、周期的に起こる現象と天文学者から証明がされたようです」


ニキアスが報告すると、ガウディは頷いた。


「ふん、そうか」

「こちらの羊皮紙に書かかれているのが日蝕の周期表になります」


先に預けた資料の中から、ミケウスは皇帝ガウディの近くに立つ近衛兵に丸まった羊皮紙を差し出した。


それを受け取け取り羊皮紙を伸ばしたガウディは目を通した。


書面を確認したガウディはまたそれを雑に近衛兵に返すと

「…つまり完全な形にでないにしろ、この『太陽が隠れる現象』は18年11日毎に一回は起こっているのだな」


「その様でございます」


ミケウスが答えた。


「…ではレダの預言者の神託は真実か」

「その様に検証されました次第です」


ミケウスの返答を聞いた皇帝ガウディが、深くゆっくりとため息をついたのをニキアスは気付いた。


(何のため息だ?)


疑問に思ったニキアスは、そっと顔を上げて皇帝を見た。


すると次の瞬間、ニキアスが自分を見つめるのに気付いたガウディはすっとニキアスを見返した。


真っ黒な光の無いガウディの瞳を久しぶりに正面から見つめる事になったニキアスは、思わず目線を下に避けた。


ガウディは暫く面を下げたニキアスをじっと見つめていたが、

「…では、どの様な策が元老院から出たか具体的な話を聞かせて貰おう」

とざらついた声で続けた。


******************


皇帝ガウディは椅子にだらしなく座り、また肘掛けを指で叩いていた。


「――成程。下手に世間で災いだと騒がれるよりは、その『天体の見世物』的に処理した方が良いだろう。

実はメサダ神の神殿では既に神託が降りて、日付と共に皆既日食が表に発表されたようだ」


「陛下は既にメサダ神の神託をご存じなのですね」


「以前メサダの神殿に問い合わせた結果は、既に余と元老院で共有しているからな」


ニキアスとミケウスに皇帝は告げた。


「事前に知った事で、短い期間でも少ない混乱で今回の現象とやらを乗り切れる筈である。

レダの預言者の答え合わせは見事であったが、必要なのはこれを帝国全土に伝える事だ」


そしてこれが『凶兆のしるし』とやらで無いのを世間に知らしめる事だ、と続けた。



ガウディ皇帝は、ニキアスを見下ろし重々しく告げた。


「その役目と人心の安定の為、主要な周辺都市の警備も兼ね、ティグリス軍ニキアス=レオス将軍とパンテーラ軍ヤヌス=クセナキス将軍に植民市と属州の警備を命ずる」



*****************


ニキアスは片膝を着いたまま、呆然と皇帝ガウディの言葉を聞いていた。


アウロニア帝国は元々自国の領土だった自治州と、その近隣の同盟州があり、ほとんどがその場所の中にウビン=ソリス(太陽の都)の様な主たる政治的主要都市が幾つかある。


先日陥落した北のゼピウス国や、クセナキス将軍が落した南のベルガモン国、そして小さい領土だが景国は植民国扱いになる。


そしてその国々が治めていた土地は更に属州扱いとなる。


(…またも国()での警備という任務になるのか)


アウロニア帝国に戻ってきたばかりなのに、また以前の敵国とその辺境地の警備の任務という話しになるのだ。


「帝国内の自治州と同盟州の警備と情報の伝達は既に『レオ』軍デュカキス将軍、景国近くは『ウルサス』軍ストラトス将軍に命じてある」


(もう事前に決まっていたという事か)

だからクセナキス将軍が、わざわざニキアスに一言言いにきたのだ。


青ざめたまま呆然と命令を聞くニキアスに無表情にガウディは言った。


「先日出陣したばかりで落ち着かないだろうが――これは、()()()()()()()()で無ければ任せられぬ故」


ミケウスは皇帝ガウディとニキアスを交互に見較べて慌てながら

「あ、あの、僕は…」

とガウディに尋ねた。


「お前はニキアス=レオス将軍の軍と共に補佐に回れ」

ミケウスの問に答えると皇帝ガウディは、にっと口角を上げた。


まだ衝撃で声も出せずにいるニキアスを、その真っ黒い光の無い両目を月の様に細めて見下ろした。


「…どうした、ニキアス。

余の決定に不服でもあるのか?」


お待たせしました。m(__)m


読んでいただきありがとうございます。

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