43 元老院会議 ①
お待たせしました。
「ふん…提案と言ってもな」
相変わらずドロレス執政官は
(女狐のいう事は信用ならない)
と言いたげな渋い表情をしている。
ドロレスがこの話題に上手く興味を持ってくれたらいいんだけれど。
(何か無いかしら…)
懸命に考えるとふと思い付いたことが一つあった。
若干? …いや、かなり陳腐かつ無理矢理的な内容だったけれど。
それは
(昔の日本の神話になぞらえたのはどうかしら)
というものだ。
この小説の世界の中では、まだ自然現象が『神々の仕業』と考えている人がたくさんいるのは事実だ。
それを利用する。
わたしが以前いた世界には何と云っても、有名な――あの天の岩戸に神様が隠れてしまったという神話があるではないか。
(――確か『天の岩戸伝説』よね)
世を照らすアマテラスの神は、弟スサノヲの神の乱暴に怒ってとうとう天岩戸に引き籠ってしまった。
その為世界は暗闇に包まれて災いが起きた。
それを何とかする為神々が集まって、岩戸のまわりでどんちゃん騒ぎをし、それが新しい神が来たお祝いだと伝えられたアマテラス神が気になって覗いたところを引っ張って、外へと連れ出した。
するとやっと世界に光が戻った――という伝説である。
陛下にアマテラスを岩戸から引っ張り出す役――天手力雄神をやってもらうのだ。
「…いっその事『ガウディ陛下のお力で隠れた太陽を暗闇から引っ張り出す』というストーリを付けても良いかもしれません」
とわたしは言った。
「はあ? 何なのだ。そのバカバカしい設定は…」
ドロレス執政官は半ば呆れた様に言い返した。
しかしそれを聞いたアポロニウスは
「いや、でも…それを完全に見世物として見せるなら、面白い志向だと思いますけれどね」
とわたしの言葉に小さく呟いた。
「確かに陛下の御威光が高くなりそうではある。しかしメサダ神の怒りは買わないだろうか…」
何故かクイントス=ドルシラもわたしの意見に反対しなかったが、理論派で現実的な彼でも『神』に対して畏怖の念は強いらしい。
(それだけこの世界での神様の存在が大きいのだわ)
という事はわたしにも理解は出来た。
わたしはその様子を横目で見ながら
「お願いします。これが上手くいけば単なる『皆既日食』の予告だけでなく、『太陽すら動かせるアウロニア皇帝』として今まで以上に陛下の御高名を帝国全土に知らしめる事が出来るかもしれません。そうすれば自然にドロレス様のお力もより強くなのでは?」
『~ドロレス様のお力もより強くなる』の件で、ドロレスの眉が意外に大きくピクリと動いたのを、わたしは見逃さなかった。
「アウロニア帝国の更なる安定を目指す…とドロレス様がお考えになるなら、せめて一度元老院会議にかけてみていただけませんか?
どうぞご検討をお願いいたします」
ここぞとばかりわたしはドロレスへ畳み掛けてお願いをした。
わたしの言葉を聞いてドロレスは、渋い顔のまま棒立ちで考えていた。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
暫くしてからドロレスは口を開いた。
「…まあ会議に掛ける程度ならよかろう。結果は分からぬがな」
「本当ですか!?」
「ただ会議中は、第三評議会員はともかくレダ神の預言者殿には部屋の外に出て頂く」
ドロレスもこれは譲れないといった口調だ。
「え…」
(立ち合っては駄目なの…?)
思わず後ろに立つニキアスを見上げた。
わたしを見下ろすニキアスは、無言のままで表情は変わらなかったが、わたしの肩に置いた手に力が入ったのが分かった。
「……分かりました。宜しくお願いします」
前を向いたわたしは、ドロレスへと頷いた。
**************
会議の行方が気になり、議会堂の扉の側で立っていたわたしの耳には参加する議員等の話し声や時折怒鳴り声――そして木槌を激しく叩く乾いた音が聞こえてきた。
一時間程リラとその場に留まって終わるのを待っていたけれど、思っていたよりも大分白熱したものになっているらしく全く終わる様子が見えない。
会議の行方が気になるのはもちろんの事だけど
(このまま、またニキアスと会えなくなってしまう…)
わたしはウロウロと歩き回っていた。
するとその様子を見ていた衛兵が苦笑しながらわたしへと言った。
「会議が終わる迄あと数時間、いや半日程かかる可能性もあります。
そうなれば、会議自体がまた後日に持ち越されるかもしれませんから、どうぞお部屋にお戻りください」
「え…半日も!?」
そう云われてしまうと、ここでずっと粘るわけにもいかない。
(…確かにここで待っているのをドロレス執政官に見つかるのは、大分心証が悪いかもしれないわ)
それに付け加えてリラが
「父も議会に参加している筈ですから、それとなく聞き出して見ますわ」
と気遣ってくれて
(せっかくニキアスに会えたのに…)
せめてもう少しゆっくり話をしたかったのだけれど…と思いつつも。
結局わたしはスゴスゴとその場を退散せざるを得なくなってしまった。
お待たせしました。m(__)m
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