33 預言者の評議会 ③
「アレクシア、預言の報告ご苦労だった。ここからはそなたは出席せずとも構わんがどうする?」
「はい、有り難いお言葉ですわ。それではお先に失礼させていただきます」
ルチアダ神の異変を伝えたアレクシアは、第三評議会の委員とわたし達預言者にまた優美な一礼をすると、また何故かわたしの方を向いてニコッと微笑んだ。
(え?)
確かにわたしの気のせいじゃなかった。彼女はわたしに対して笑いかけたのだ。
(知り合いでは無いと思うし…)
何だろう、彼女との接点が見つからな無さ過ぎて分からないわ。
陛下は兵を呼んで、彼女を部屋まで丁重に送るように伝えた。
そして心なしかいつもより柔らかい声音で一言添えた。
「気を付けて帰れ。ルチアダ神の事はともかくも、そなたの身体はそなた自身で気遣えよ」
あの陛下にしては余りにも丁寧な対応と優しい言葉で、佇む第三評議会の面々まで驚いた表情をしていた。
わたしも内心驚いた。
やたら身体が…とは言っていた気はするけれど
(あんな風に気遣う?というか、普通の対応もされるのね)
その時、わたしの隣にいるフィロンが何か小さく言ったのが聞こえた。
声が小さすぎてはっきりとは聞き取れなかったけれど
「あの女が……」
と一言、呟いた気がしたのだ。
***************
アレクシアが謁見の間から退出すると、少しため息をついた玉座の陛下は、椅子に肘を付き片膝を立てて座った。
そして椅子の肘掛けを規則的に指でトントントン…と叩き出した。
「…では、本題の消える太陽の件についてクイントス=ドルシラ、頼む」
クイントス=ドルシラはずいっと前に出て歩き、フィロンの前に立った。
同じ緑のトーガを纏った、羽根ペンと羊皮紙のようなメモを持つ書記官のような二人の男性も、後へと続く。
「ではもう一度にはなるが…コダ神の預言者から神託を伝えていただきたい」
いつの間にかガウディ陛下は、身体を斜めに傾け、今や完全に姿勢を崩した状態で座っている。
一度自身の耳に入っている内容だとは言え、とても大事な会議なのに
(この方…本当に真剣にお聞きになる気があるのかしら)
良く見たら――小さく欠伸までしているではないか。
わたしがまじまじと陛下を見つめると、ふいにこっちを向いた陛下と目が合ってしまった。
陛下の光の無い黒い目が猫の様に細められるのを見て、慌ててわたしは下を向いた。
(欠伸してた事を見ていたの…見つかってしまったわ)
すると、フィロンの流れるような声がわたしの耳に聞こえてきた。
「……コダ神からの神託は『太陽が消えるのは帝国崩壊の合図である』とだけでございました。以上です」
ドルシラがフィロンに次々と質問をしていった。
「その現象の時期は申していたのか?」
「いいえ、仰っておりません」
「ありがとう。コダ神の預言者フィロン」
ドルシラは傍らの書記官と共に書かれた羊皮紙の内容を確認し終わると、今度はわたしの前に移動して来た。
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{では次はレダ神の預言者に伺う。神託の内容を伝えていただきたい」
(…あ、しまったわ)
陛下に気を取られて、またもフィロンが最初どういう風に始めたのか聞いていなかった。
「ゼ、ゼピウス国第二王女マヤです。レダ神の預言者です。宜しくお願いします」
と慌ててわたしは軽く一礼した。
「なんと…この場でゼピウスの名前を出すなど…」
評議会の委員達の方から小さく失笑する声が聞こえた。
わたしはそのまま『預言』(というか小説情報で知っている)の皆既日食の件を、第三評議会員達の前で伝えた。
「…コダ神と同じ神託になりますが、太陽が完全に消える現象『皆既日食』というものがこれから起こる様です」
フィロンの顔が一瞬ピクッと動いた。
陛下とバアル様は先日話してあるので、彼らの表情は変わらない。
けれど、第三評議会の委員等は一斉にざわつきだした。
「このコダ神とレダ神の神託内容であれば、真にアウロニア帝国存亡の危機という事か…」
「神託が二つ重なることなど滅多にない。ではやはりその現象は起こるべくして起こるものなのか」
「しかも『帝国崩壊の合図』とは…元老院に直ぐ報告せねばならぬな」
クイントス=ドルシラも厳しい表情で頷きながら、傍らの書記官と共に羊皮紙のメモを覗きこんでいる。
(あ!いけない!とても大事な事を付け加える事を忘れてしまっていたわ)
「あのっ…すみません!」
わたしは思わず声を上げて、ドルシラに挙手をしていた。
目の前のドルシラが、わたしの方を再び向いた。
「何かね。レダの預言者よ」
「あのですね…皆既日食で帝国は滅びません」
わたしは第三評議会の委員達から、一斉に注目を浴びてしまった。
****************
「…この事でアウロニア帝国は滅びません。時間にして数分の出来事ですし、ただの現象ですから」
白いマントの小柄な彼女が、はっきりとした声で緑のトーガを纏う大柄な評議会員の面々に訴えている。
ガウディはトントントン…と肘掛けを規則正しく叩きながら、彼女を王座から見下ろしていた。
ゼピウス国第二王女マヤ姫。
――レダ神の預言者、レダの娘。
(全く不可思議な女だ)
ガウディは幼い頃から神々を信仰しなかった。
前国王はメサダ神を信仰していた。
父親は信心深くは無かったが、ルチアダ神の元には良く通っていた。
母はレダの娘で預言者だった。
(この国の神を信仰する者のなんと多い事か)
何故ここまで神という存在は、人に干渉したがるのか。
人は神無くして、生きられないのか?
神の力に頼る事無く、常に自分自身の力で『世界をより良いものにする』為に取捨選択してきたつもりだったが――。
耳元で囁く少し舌足らずな自分の母の声を思い出す。
「…ね、これは内緒よガウディ。レダ様がそっと教えてくれたの」
神々の様々な思惑の交差する糸で創られた
――美しい織物の様な『予定調和』。
「知ってる?この世界には『亡国の皇子』って物語が存在するのですって」
お待たせしました。m(__)m
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