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嘘つき預言者は敵国の黒仮面将軍に執着される  作者: 花月
1.嘘つき預言者の目覚め
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11 噓をつくな ⑤

ピュロス=ダーリン♡ みたいなものです。


苦々しい思い出だが、それも過去の事だ。

ニキアスはそう思う事にしていた。


(それよりも…)

必死でこちらを見上げるこの女は本当に()()マヤ王女なのか?

何度もこの疑問が湧き上がってくる。


きちんと編み込まれた蜂蜜色の艶やかな金の髪、不安そうに揺れる海を写した鮮やかな碧い瞳、滑らかな白い肌と可愛らしい桃色のぷっくりとした唇を改めて見ると、もう十年以上も前のことなのに当時の事を否応なしに思い出して、ニキアスは小さくため息をついた。


――マヤ王女から気持ちを切り離さなければいけない。

(そうでは無くとも、もう自分には関係の無い女なのだ)


マヤの腕を引っ張ったゼピウス国の男は微動だにしないニキアスを睨んだ。

「…本当にお前の奴隷なのか証明しろよ?奴隷証書はあるのか?一体本当はどうなんだ?」


挑戦的に大声を出す男が気になるのだろう。

通行人や宿の宿泊者がチラチラと横眼でこちらの様子を伺っているのが見える。


ニキアスは男を見下ろしながら考えた。

(…この男よほどマヤを気に入ったのか)

何としてでもマヤを連れて帰りたいという気を隠そうともしない。


やはり面倒なことになった。


しかしここでこの男を殺す事は得策ではない。

ゼピウス国の首都が占領されたとは言え、この村はゼピウスの住民の多くすむ地域だ。


まだ全くアウロニア帝国の影響が及んでないゼピウス国の自治だ。

(…下手な行動をすると村全体のリンチに会うかもしれんな)


するとマヤがニキアスを見上げて口を開いた。


「…もう誤魔化すのは止めましょう。ピュロス」


******************


 ニキアスは自分の耳を疑った。

(彼女は…今、何と言った?)


「もう嘘をつくのは無理だわ。本当の事を言いましょう」


――『ピュロス』


古い言葉だが、今も良く使われる『愛しい人』という意味の言葉だ。

恋人や夫婦間の間で使われる事も多い。


(何故俺をピュロスと呼んだ?)

思わずぽかんとマヤを見つめるニキアスをマヤはさも愛し気に見上げた。


そしてニキアスの左腕にぎゅっと抱きつきながら、ゼピウス国の男に言った。

「本当はわたしたち…夫婦なの」


ぽかんとする男を見ながら、マヤ王女は続けた。

「あなた、先日アウロニア帝国がゼピウスの首都を落としたのは知ってるかしら?」


男は目をむき、前のめりになりながらマヤに尋ねた。

「いや…やっぱり噂は本当だったのか?」

「…ええ。聞いた話だと首都の宮殿は燃やされて…王や王妃達は皆…」


マヤは頷きながら、一度下を向いたが続けて言った。

「皆死んでしまったそうよ」


冷静に語るマヤの話を聞きながらニキアスは複雑な気分になった。


「あの非道なアウロニア帝国の軍隊の男達は、気に入った女がいれば夫婦だろうとゼピウスの女を無理やり連れて行ってしまうらしいの」

 

(そんな事は許していない。あくまでゼピウス国王軍と王宮の奴隷だけだ)

ニキアスは胸の内で思ったが完全掌握できている軍ではない。

実際は闇で住民を攫ったり殺す蛮行が横行している可能性もあるため、マヤのつくり話に更なるリアリティを添えているのは確かだった。


「反対に一緒にいた夫に身代金を請求してくる事もあるらしく、あえて家族連れの女を狙う事も多いと聞いた事があるの。だからわたし達…夫婦という事を言わない様にしているのよ。狙われたら危ないでしょう?」


ニキアスはマヤの適当な与太話を呆れながら聞いていた。

(よくもまあ…そんな話をでっち上げられたものだ)


実際にそんな事はあり得ない。


ゼピウスの民に身代金どころか普通は攫われたらそのまま戻ってこないものなのだが、田舎に住んでいる男は情報に疎いらしく適当にうそぶくマヤの言葉を信じている様だった。


「ほお...」

男は興味深そうに呟いた。


「だからわたしの身体のどこを捜しても奴隷の印は無いし、書類も無いってわけ」


そこまで言うとマヤは潤む瞳でニキアスを見上げ

「ね?ピュロス、そうでしょう?」

とわざとらしく微笑んだ。


その微笑みを見て、ニキアスの中にまたイラッとする感情が湧いてきた。


「…そうだな、悪いな」

とニキアスはゼピウスの男ににやりと笑いかけると、ニキアスはマヤをぐいっと抱き寄せた。


「奴隷の証明はできなくて申し訳ないが…彼女が俺の女だという証明なら出来るぞ」


彼女(マヤ)の小さな顎を持ち上げると、マヤ王女は驚きに目を見開いた。

彼女の瞳の中に、自分の姿が映っているのを見て何故かニキアスは満足した。


そして顔を傾けてそのままマヤの柔らかな唇に、自分のそれを重ねたのだった。

お待たせしました。


読んでいただきありがとうございます。

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