29 潜入 ③
カーラが所属する盗賊団に名称がついています。
『アドステラ』天上の星というラテン語です。
そこからは怒涛の如く変わってしまった。
前国王派の元老院の議員らはガウディ新国王に寝返るか、反抗し厳罰を受けるかもしくは投獄されるかだった。
そして投獄された議員等の多くは、生きて自宅に戻る事は許されなかったのだ。
(お父様もきっとそうなったのだわ)
幼いオクタヴィアの父親も多分同じ運命を辿ったのだと、彼女は理解した。
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十三歳にすでにレオス家当主に就いたガウディは、十六歳で成人し元老院へ入るとたちまち頭角を現し、十八の歳には元老院議員長――執政官まで上り詰めた。
その間に少しずつ反国王派閥を纏め上げていたのだ。
元老院関係の有力貴族の娘とも精力的に婚姻関係を築き、亡き王弟侯の息子という立場も相まって、瞬く間に一大勢力になっていた。
ガウディの気味の悪い所は、あの若さにして元老院を崩壊させるクーデターの直前まで、前国王に立てつくようなそぶりを一切見せなかった事にある。
表ではむしろ国王を賛美したり擦り寄るような言動を見せていたが、裏での活動の全ては封印されたかの様に完全な秘密裡にて行われた。
『あのアルカイックスマイルは悪魔の笑いだ』
過去に誰かがこっそりと、ガウディの笑いを揶揄した事があったが、やはりその通りだったのだとオクタヴィアの親戚は皆口々に言った。
『ガウディを筆頭とした悪魔達に父の命とギデオンの王座は奪われた』
オクタヴィアはそうやって現政権を恨んだまま、十二の歳を迎えた。
そしてその年に再び『アドステラ盗賊団のアナラビ』
――ギデオン元王子に再会する事ができたのだった。
「――い!おい、そこの女!そこで何をしている!?」
その声に、カーラは回想からいきなり現実に引き戻された。
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「おい!そこの女!一体そこで何をしている!?」
背後から聞こえた大声にカーラはびくっと大きく揺らした。
丁度選定された植え込みの隙間から、同じ様な下働きの奴隷の服を着用した大柄の男がカーラに向かって呼びかけながら、こちらに向かって近づいてくる。
「なにを仕事をさぼっているんだ!」
「申し訳ありません。何分広い宮殿なので道に迷ってしまいまして…」
カーラは下を向き、必死で言い訳を口にしていた。
下働きの男がカーラの近くまで来て怒鳴った。
「お前は何処の仕事場なんだ」
「ハイ、洗濯場でございます」
「別方向じゃないか。元の通路へ戻ってから右だろう」
「どうやら迷って別の道に入り込んでしまったようです…」
カーラがちらりと顔をあげてダナス副将軍の方向を見ると、副将軍はこちらに興味なさそうに向こう側へ通路を歩いていた。
奴隷が何をしようがされようが、この殿上人等には関係がないと言わんばかりだ。
しかし次の瞬間、カーラは心臓が飛び上がりそうになるのを慌てて抑えつけた。
ダナス副将軍の息子ユリウスがこちらを見ていた。
一瞬だが目も合ってしまったのだ。
慌てて顔を伏せてユリウスからの視線を外したが、カーラの心臓は早鐘の様に鳴っていた。
あのユリウスとやらが、やたら小賢しい知恵の回る少年だとは聞いている。
実際自分がニキアス陥落に失敗をし、彼に父親――ダナス副将軍のテントに連れて来られた時には
「残念だったね。上手くいかなくて。まあ父上のお相手頑張ってください」
としっかり嫌味を言われたのだ。
「送って頂きありがとうございます」
その場ではにこやかにユリウスへ礼を言いながらも、カーラの胎の中は怒りで煮えくり返り『なんて生意気な少年なんだ!』と心中で罵っていたのだから。
カーラは、ユリウスが彼女をじっと見ている気がした。
「申し訳ありません。直ぐに元の道へ戻ります…」
まだユリウスの視線を感じつつも、慌てて大男に頭を下げると、カーラはそのまま顔を隠す様にして小走りでその場を去った。
廊下を元来た道方向へ速足で歩きながら、カーラは冷や汗が背中を伝うのを感じた。
(危なかったわ。バレてしまうかと思った…)
カーラは場所も考えずに昔の思い出に浸った事を今更ながら後悔していた。
十分に気を付けて行動しなければならないのよ。
わたしは今オクタヴィア=カタロンではなく、『アドステラ盗賊団』のカーラなのだから。
お待たせしました。m(__)m
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