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ココア

作者: エンピツ✍

 市販で購入したパックを開けカップの中に粉末を入れお湯を注ぐ。その後、よくかき混ぜれば出来上がり。

 たったこれだけで誰でもおいしく楽しくこの味を楽しむことができる。大人になっても変わらない癒しの味。そう、あの時からずっと。

 それは私が小学校の頃中学への受験。勉強を毎日部屋で頑張っているときのことだ。扉がたたかれる。


「入っていい?」

「なに?」


 扉を開けて入ってきたのは私の母。手元にお盆を持ちその上には湯気が立っているマグカップ。


「頑張っているご褒美。はい、どうぞ」


 母はそれを机に置いた。


「これなに?お母さん」

「これはねココアっていう飲み物。あったかくて飲むと元気が湧いてくるの」

「へぇ~」


 熱いマグカップを両手でゆっくりと持ち上げる。ふぅふぅと冷まして一口。暖かさと甘さが調和して癒しをくれる。


「お母さん、これおいしい!」

「そう、よかった」


 そう言って母は退出した。みなぎる力と集中力。これでなんでも頑張れる気がした。

 それ以来ココアは彼女の好物になった。勉強中でも休日でも寒い冬でもそして高校受験でも。

ココアを欠かしたことはない。

 それから30年の月日が流れた。この日もあの中学受験を頑張っていた日と同じくらい厳しい寒さが岡山を襲っていた。一家は夕食を食べ終え、一息ついていた。

 私は台所で洗い物をした後、温かいココアを入れていた。

 市販で売っているココアだが、店では買えない愛という隠し味を入れる。


「はい、どうぞお母さん」

「ありがとう」

「はい、あなた」

「おう、悪いな。ありがとう」


 お互いに一口。二人に笑顔が現れた。


「いつ飲んでもお前のココアは絶品だな」

「ありがとう。じゃああの子にも持っていくわね」

「えぇ。きっとあの子も喜ぶわ」


 階段を上っていく。扉を開け部屋に入る。そこには我が娘の真剣な眼差しが参考書やノートに注がれていた。


「勉強中失礼」

「どうしたのお母さん?」

「はいこれ」

「あっ、ココアだ。ありがとうお母さん」

「じゃあお邪魔するわね」

「うん、ありがとう」


 再び机へ。そんな頑張る娘を扉の向こうから見つめ、頑張ってと小さくガッツポーズを作った。


                            ~FIN~


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