プロローグ
我は、とある年寄りである。
この場合「なんであるか」という問いは意味をなさない。
我は我であり、それ以外の者ではない。
年古りた命ある者、ただそれだけである。
この世が生まれたその日から、じっとこの世の在り様と、生ける者たちの姿を見続けてきた。
「とうとう貴様を見つけたぞ!」
「ここで会ったが百年目。いざ勝負だ、オークの帝王!」
「遂に貴様を倒す日が来た。覚悟しろ、醜き魔王め!」
今日も今日とて小さき者らがかよわき声を張り上げ、それぞれの得物を手に我に挑みかかってくる。
物理攻撃と「魔法」攻撃。
我は細心の注意を払いつつ、最小限の身体の動きで攻撃を避け、ついと指をふる。
無駄な殺生は好まぬ。それゆえなるべく不殺を貫くのだったが、なにかの拍子にふいと命を取り落とす者もいる。
すると彼らは激昂するのだ。
「貴様っ! よくも……よくも俺のアリアナを!」
「おのれ、よくも私のカリアードを!」
「許さぬ!」
「許さない、絶対に許すものか……!」
口々にそのような言葉を叫んで。
その両目から滴り落ちる塩辛いものの意味がわからぬ我ではない。喉から迸る慟哭も。だが、こればかりはどうしようもない。
彼らの言う「魔法」によって体のあちこちを苛まれ、動きを封じられたうえで放つ攻撃は、手元が狂いがちなものだ。
それよりも、答えて欲しい。
我の指先ひとつで放つ攻撃にすら耐えられぬそなたらが、なにゆえ我を討伐しようなどと希求するのかを。
そなたらに見つかるたび、我は住処をかえてきた。それを毎度わざわざ探し出し、「討伐」という名で攻撃する。幾度かようなことが繰り返されてきたことか。
飽くなき行動力は賞賛に値するのかも知れぬが、我にしてみればただただ迷惑なだけである。
それとも、みずから攻撃を始めておきながら、小指の先ほどの反撃もするなと申すのか? なにゆえ?
いくらそなたらが脆弱な存在だとは申せ、我はわざわざそなたらのために、我が命を虚しく地に撒こうとは思わぬ。この命なくば喪われる数多の命が、この世にはまだ存在するゆえに。
なにゆえ斯様なことに唯々諾々と従わねばならぬのだろう。
理不尽にも「貴様は死ね。悪であるがゆえ。醜き姿であるゆえ」などという奇怪な理屈によって。
兎にも角にも、納得がゆかぬ。
ただそれだけのことなのだ。
連載開始しました。
試験的な作品ですが、よろしかったらお付き合いくださいませ。
基本的には毎日更新をしていく予定です。