二人組
喫茶店でテーブルを挟み、ソファに座り向かい合う男が二人。
「俺、幼稚園生のとき五人の女子から告白された」右手をパーにして、手の甲を見せるように、五という数字をドヤ顔と共に強調する。
「赤木……お前それほんとかよ!?すげぇなおい!」
そんなクソみたいな自慢話に感心するな。
近くのカウンターで小倉トーストのセットを食べているのは、三十代の女だ。聞くとは無しに背中の側から彼らの話が耳に入ってくるので、どうしても突っこんでしまう。
彼らはずっとこの調子だ。
二人組はどちらもいい歳をしていながら、小学生のような話ばかり垂れている。
赤木と言うらしい男は、先ほどからしょうもない嘘しかつかないし、もう一方の白井と言ったか、白井は毎回、微塵も疑わずに赤木の話に驚いている。
つい先程も『一等宝くじを二回当てた』だの、『人を殺したことがある』だのと、次から次へとくだらない出まかせを言っている。
「まあ今の話嘘なんだけどな」
「またかよぉ!」そう言うと白井は大げさに頭を抱えた。
嘘はついても、その後に必ず嘘だと付け加えるのがまたよく分からない点だ。
「さっきから嘘ばっかりだな、毎度ガッカリする身にもなれよな」
毎度騙されるお前も悪いだろうと、心の中で呟きながら女はコーヒーをひと口飲んだ。
「まぁ、今の話嘘なんだけどな、全部」またもや赤木の決まり文句が飛び出した。
「それは聞いたよ!はぁ。もう騙されないからな」
「違うんだよ。嘘って言ったことが嘘なんだよ」
「はいはい」
「いや、ほんとだって」
白井は分かりやすく顔をしかめてみせた。
「じゃあ、本当の本当に一等宝くじは二回当てたし、幼稚園生のとき五人の女子から告白されたってのか?」
「そういうことだよ」赤木はそう言って黙ったままだ。
一拍おいて、女は考えた。