狂人の日記 第一話
読みづらい作品ですが、思いが籠った作品に為ったと思います。
宜しければ最後までお付き合い下さい。
勿論、こういった作品が苦手な方は無理をしないで下さいね。
後書き。凡人でした。からし。
医者 病気 別の地球 老人最後の言葉 学者
『狂人の日記』そう書かれたレポートが筒島大学付属病院の筒島教授の元に送られてきた。筒島教授は、モーニングルーティンの珈琲を飲みながら、昨日の夜にでもファックスされたのであろう、その用紙を手に取り、軽い気持ちで流し読みしていたが、途中で思わず珈琲を、吹き出す程驚嘆した。慌てて老眼鏡を掛けてつぶさに1文字1文字食い入るように読み始めた。何枚も敷き詰められた字で埋まったそのレポートとやらを読み終えた時には、正午の鐘が為っていた。途中で、軽食を取りながらも、それ以外の時間は微動だにせず読み耽っていた。
読み終えた筒島教授の顔は赤らんで蒸気しており、目が爛々と光っていた。
『たまげた!此れは傑作だ!』プハァっと息を吐いた後に教授は言った。慌てて、デスクの椅子から飛び降りるようにして降りて、
『学会に報告じゃ!』と叫んで廊下へと走って行った。
その手記の内容が此方である。
『狂人の日記』
私は、狂人である。如何せんそうなのだからどうしようもない。此処にその証拠を記して人生の幕を閉じようと思う。もし、狂人という証明が出来た暁には。体系だって論理的思考で狂人とは何かをつまびらかにしていきたい。故に、今からこの脳みそを自分の手で解剖していく。診察台に横たわる体の頭蓋にメスを差し込んだ。どうも、脳みそが萎縮して、歪な形をしている。薄々感じていた通り、左脳側が縮小しているようだ。この縮小は、こめかみの左側の違和感と共に日々感じていた。此れは、私の意識や思考が偏った隔たりを持って現れていた事にも合致する。喜怒哀楽の波が緩やかに低下していった過程に起こった現象又は、その結果と見られる。一つつついてみよう。あはっ。笑みが零れた。此れは、情動を司る海馬であるな。この海馬部分が変色しているように見られる。気になるのが、記憶を司る部分と認知を司る部分である。シナプスが絡まり、上手く機能していないのではないか。そして、言語やの部分が張りがなく、ゼリー気質に為っているな。とりあえず、脳の外観の様子は掴めた。後は、この内側がどうなっているかだが、此れは言語やをフルに活用する事で、まず確認しよう。
一応、五体満足な身体は維持しているのは、明らかだ。五感はどうか?嗅覚に以上は感じずらない。この嗅覚の感知度は、日頃困窮する事が無い処を見て問題なしとみる。次は、味覚だが、此れも嗅覚にしかりだ。成育過程において、多少嗜好の変化は起こったが、それは通常の認識と一致しており、他者の認知とも特に隔たりは無い。
次は、触覚だが、此れもやはり特に以上は無い。次は視覚だが、此れは近視傾向にあり、又極めて正常と逸した特徴が見受けられると認識している。それは、今こめかみに走る頭痛に近い、嫌それに伴う左目の視野の縮小である。どうも、左目側が外側に対する視野角が狭まっている。此れは、成人してからストレスに起因する左脳側の圧迫に類する、伴う現象のように感じる。眼球運動の反射速度も、やはり右目よりも低下しており、頭上方向に眼球を移動させた時に招じる重み、負荷、引力も異常なレベルと思われる。又、瞼の開閉も両目で差があり、此れも明らかに右目より左目に負荷を感じる。この原因が何かをつまびらかにしていきたい所だ。この違和感の正体は、今感じている左脳側の冷却感であろう。つまり、左脳の不活動化だ。右脳が働くエネルギー量より、左脳の働くエネルギー量が年々落ちていっている。此れは、看過出来ない事態である。瞼の開閉に当たり、招じる顔面の筋肉に対する負担も右目より多く、違和感がある。此れは、成人し始めてから感じ始めた左方ないし、左首筋、左耳、顔の左側面に対する懲りに付随する、筋肉の硬直によるものと見受けられる。
これら全ての現象に対する原因は、鎖骨の骨折にあると見受けられる。それは、私が命を投げ出した事への罰でもある。
その骨折により、均衡を失った身体の荷重が左側にのし掛かっており、顕著に現れているのが鎖骨部分にある静脈の著しい肥大化と硬質化である。それが、肩のこり、首のこりの原因でもあり起因でもあり、由縁でもあり、逆説でもある。それらのストレス負荷が、脳に影響を与えており、脳梗塞、脳溢血の前兆と見受けられる脳の冷えや血管の破裂しそうな痛みをストレス時に感じさせているのだ。
耳の懲りや耳鳴り、メルニーニョ病に類するような症状もそれが起因でもあり、又併発的に伴った症状と見受けられる。
此れまでが、私の外的病状の手記である。尚、此処に記載した事項は、全て私が認知している現象を主観で捉えられる範囲の事を書いた物だ。専門知識を体系だって学んだ訳ではない。1患者が自身の病状や身体が感ずる現象を今まで触れてきた知識の中で汲み取ったに過ぎない。私が医者に掛からないのは、医者の言うことが信じられなく、又全てを説明する事が困難であり、自身の生活に支障をきたすと思う故である。確かに、私はこのまま行けば、何かしら困る事になり得るのかも知れない。それは、脳が使い物に成らなくなるという事だ。
しかし、私の脳は私の物だ。誰にも弄らせはしない。私は、この脳みそを飼い慣らして見せる。広げてみせる。もっと活発化させてみせる。それが個人の意思であり、自由だ。ある程度、自分にとってのストレスを把握しており、回避の仕方も心得ている。しかし、私も人間だ。もし、危うい時は貴方方のお力をお借りするし、心変わりもするかもしれない。この話しは此処までとする。
此れからは、やっともって私が狂人であると証明する作業に移る。
今、私の脳みそは、やはり左脳側の顔面全体に及ぶ筋肉の硬直に伴い、情動を損失しつつある。しかし、右脳の活発な働きにより、認知と思考と言語のプロセスは問題なく作動している。別に悲観しなくても良い。何故なら、まだ私は仕事から帰って来て、風呂には入ったが一睡もしてないだけで、休眠をすればある程度まで左脳側の機能も回復する。そして、左脳側の低下した今だからこそ、論理的に自己を分析出来ているのだ。此れも、私という特殊性がもたらす恩恵である。
では、往くとしよう。狂人の世界に。
まず、もって狂人を証明するには、通常の狂人で無い者というものが何かを証明しなくては為らない。それは、普通の思考をするまともな脳みそを持った人間という事になる。難しいね。押並べて、普通の思考とは何かという事になるし、諦めよう。では、狂人とは何か。それは、逸脱した者だ。面倒だ。省こう。
私が自身を狂人と思う理由は、たがを外す事が可能だからだ。恐れていないからだ。それを。正確には恐れている。しかし、性のようなものがそこに踏み込ませるのだ、自分を。
夢を見た。人を撃ってしまう夢だ。夢を見た。高いところから飛び降りる夢だ。人を撃つ時私は何て思っていたと思う?
ザッザッザッザッザ。
現実世界で私の先輩である男が銃を突き付けられて、岩肌と海面に囲まれた細い藪道を進んでいる。道の先は、行き止まりでそこからは蔦を伝って登る以外に道は無いようだ。その、私に親しくしてくれている先輩は、少し頭が良いところがある。海の氷が溶けはじめていることに気づいた先輩は、一目散に走り出し海へと飛び込んだ。海の氷は海面を覆う白い泡となり、水深の浅い海を先輩は姿を隠して必死に陸まで泳いだ。陸地はジャングルのようなとこだった。銃を持った初老の深みのある顔をした殺し屋は海面に向けて銃を何発か発砲するが、先輩には当たらなかった。私は、なるほど!と感心しながらその映像を見ていた。
場所は移る。とある村の警備やら護衛を仰せつかっていた俺たちは、小さな小隊でその任務に当たっていた。あるいは、只の村人の自警団みたいなもの。その村にギャングか盗賊団がやって来た。
それぞれ散り散りになり、敵と遭遇したり、策敵や護衛をしていた。
わたしは、1人、いや仲間の女性と一緒に倉庫のような場所に待機していた。そこに、運悪く盗賊団の二人が現れた。先に現れた女が何やら、分電盤のような物の前でこそこそと何かしている。私は、銃をいつからか敵から取り上げていた。盗賊団の女ががちゃがちゃやっているのを尻目に、棚から身を乗り出して、奥の女がいる扉か分電盤のような物の反対にある、針が揺れて目盛りを示す小さな計器の付いた分電盤目掛けて何故か発砲した。試し撃ちだ。
今、思い出したが、その分電盤には見覚えがある。この夢の前のシーンである。わたしは、テントが並んだような箱形の宿舎の一つに、会社の寮に入居したような気持ちでいた。外には、同じ造りの建物が玄関を開けると並んでいるのが分かった。
家族が家に来てくれた。母と弟だ。嬉しかった。慣れない土地と生活で不安だったのだろう。嬉しい反面怖かった。二人が去った後、孤独が去来するのが。時刻は夕暮れだっただろうか、朝方だったかもしれない。
やはり、家族は去っていった。玄関から出てそれを見送ったわたしは、部屋に戻ると息苦しい位の孤独を感じて不安に為った。だから、外の空気を吸いたくなり、部屋の窓を探した。奥の狭い小物や揺りかごのようなタンスなんかが置いてある部屋に窓があった。
それを開けると、外には無機質な分電盤がズラッと並んでいた。
その右端に、電灯に照らされたデスクが一つ置いてあった。
(守衛さんでもいるのかな?)そう思った。
分電盤を何故か試し撃ちしたら、それが盗賊団の求めていた暗号の在処であることが彼らに分かってしまい、盗賊団の女が扉を開けてしまった。そこは、金庫と為っていた。いつのまにやら、顔が風船のように膨らんだ男が合流しており、壁の向こうで何やらやっている。
私は、もう一人の仲間の女性の側まで来て、棚で身を隠すようにしてしゃがみ込んでいたが、倉庫だと思っていたそこは武器庫であり、棚にあった黄金色のライフルを手に取り、近くにあった薬莢、弾薬を詰め始めた。弾薬箱は、何種類もあり、手当たり次第につめていった。
風船顔の男にいつのまにやらその黄金のライフルを奪われた。銃を向けられる。私は、恐ろしかったが、手で払いのけて銃を掴み、その男と奪い合いに為った。腹が立ったのだ。俺がせっかく弾を詰めたライフルなんだぞ!っと。男の腹に持っていた小銃を突き付けた。
周りの者が辞めるよう説得している。相手の男が撃てるものか!っと挑発してくる。腹が立った。見下されていることに。撃てないと思われていることに。
バンッ
わたしは、男の脇腹に弾丸を放った。そこなら死なないだろうと思ったからだ。
悲鳴が響き渡った。男の脇腹に丸い穴が空いており、ドクドクと血が流れ、その穴は真っ赤に染まっていた。
わたしは、とてつもない事をしてしまったと後悔と恐ろしさに震えた。
男は、鬼の形相を此方に向けて仰向けに腹を押さえている。
私は、全てを捨てて逃げた。仲間の女も。
走りに走って、小さな小屋にたどり着いた。ジャングルの密林の村外れの隣に川が流れる小屋だ。
隊長が避難していた。私は任務報告をした。先輩も仲間の女ももう此処には辿り着けないと言った。
隊長は、悲嘆にくれるようにして、脱出するぞ!みたいな事を言っていた。その目の前にはノートパソコンがあり、文字が浮かんでいた。そこには、このような事が書かれていた。
『隣の男がさっきから何やらぶつぶつ囁いている。
何を言っているのかさっぱり分からない。
状況はどうなっているんだ。』
私は、寒気だつ思いをしながらうっすらとボケやる頭でその文字を、隊長の顔を呆然と見詰めていた。物音がした。気配がした。
後ろを振り向くと、納屋があり鉄骨やら何やらの隙間からあの男の顔が赤い大玉のように大きく為って此方を見ていた。戦慄した。
銃をその大きな頭に向かって乱射した。男は隠れた。俺と隊長はそれを追った。男はどでかいアタマのまま空を飛んでいた。
俺たちはそれを追った。楽しかった。物凄く悲しくて楽しかった。もう追われる側じゃない、追う側なんだ。俺たち。もう一人じゃない、今度は隊長が就いてるぜ!物凄く悲しくて楽しかった。
撃ち殺してやるよ!仕留めてやるよ!物凄く悲しくて楽しかった。
どでかいアタマの男はみるみる逃げていく。俺たちは、馬みたいな変な生き物に乗っていた。仲間も増えていた。俺だけはあぶれて走っていたけど。
途中で、ジャングルジムみたいな、縄が絡まった高い櫓があった。
俺は、恐る恐るいや、ワクワクしながら天辺まで登ったよ。
すげぇ気分だった。めっちゃめっちゃワクワクしながら、ぬぐい去りようが無い絶望が襲ってきてたよ。
天辺から見た景色は絶景だった。この世の物では無かった。
見たこともない大きな赤い鳥が沢山飛んでいた。島を覆うように。
岸辺には、沢山の人がいた。皆、何か重いものを運ぶように働いていた。
それは、地獄の光景だった。少なくとも私は、地獄に来てしまった、地獄に落ちてしまった。そう、その圧倒される景色に看取れながら思った。
絶望がそこにあった。泣くことも出来ない悲しみがそこにあった。
読んでくださって、本当に心からありがとうございます。
後書き。大口を叩いた気分で候う