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内緒話は周囲を見てからにしましょう

学園の中でも喧騒の少ない木陰にサウティナはいた。


(レベナの心配性も困りものね。あの後手紙を書かされるとは思わなかったわ)


『お嬢様のことですから、流れで直接誘えればいいなんて思っていらっしゃるでしょう。しかし直接誘う順番というのは肩入れの順番そのものになります。まして今回の方々は色々あるので、事前に手紙で招待する方がどなたかをそれぞれにお知らせしその上で誘わなければなりません。……今お書き下さい、今日中に届けますので』


(次の日には流れで誘うと思われているなんてね。まだ他の人の宛も決まってないのに)


「やっと見つけた。ちょっとサティナ、リテラさんがランチするって言っていたけど本当?」

「あら、ユタリナ。本当、昨日流れでそうなったの」


ユリタナ・サーサ。サウティナと同じ伯爵令嬢で何かと縁があり、親しくしている。


「すごい嬉しそうにしてたわよ、リテラさん。ただでさえ貴方、八方美人のイベリス姫なんて言われてるのに、気をつけないとリテラさん側だと思われて周りのが目が厳しくなるわよ」

「なにその名前? 初めて聞いたけど」


(八方美人は最近言われたような気がするけどイベリス姫とは)


「そのまんまよ、だからイベリス姫なんて言われるの。それよりもロゼート様との仲拗らせないようにね」

「……うーん? まぁそうね、気をつけるわ」


(そうだ、ユリタナにお茶会のことを相談するのはありなんじゃないかしら)


「ねぇユリタナ。今度お母様に言われて、場数を踏むようにとお茶会をすることになったの」

「へぇ。貴方が主催なんて初めてじゃない? 誰呼ぶの、貴方のなら誰でも喜んで来そうだけど」


ユタリナは興味深そうに、サウティナを見て微笑む。


「ロゼート様とマリアーネ様とクリスティーナ様、それとーーー」

「ちょ、ちょっと待って。場数を踏むのになんで最初からそんな荒れるのにそれ以上のない人選なのよ!? どう考えても、楽しいものになんてならないのわよ」


思わずと声を上げ微笑みはすでにどこかに消え、サウティナの言葉を遮ってユリタナは言う。


「え? いや絶対楽しそうでしょう。それで後一人か二人招待するつもりなのだけど、誰がいいかなって」


当然とばかりに頷くサウティナを、信じられないとばかりに目を見開き見つめるユタリナ。


「誰でも来るって言ったけど、その地獄に来る人はいないわ。そしてその3人が招待することを伝えずに誘うのもやめてあげなさい。誘われたご令嬢、当日笑顔のままいきなり泣いちゃうわよ」


(いくらなんでもそこまででは。でももしそうならちょっと見てみたい)


ユリタナは息を深く吐き、諦めたとばかりに言った。


「……はぁ、いいわ。その顔ろくなこと考えてない。私が参加するから他の子に声かけるのやめなさい」

「本当に!? ありがとう。後で正式に招待するわ」


サウティナとしては思わぬ提案に、にこりとする。


「ーーー何に招待するんですか?」


声の方に二人して振り向くと、そこにはリテラがいた。


「……貴方がどうして、ここに?」


ユタリナは絞り出すように、声を震わせた。


「えへへ。サウティナさんとのランチが楽しみで迎えに来ちゃいました」


はにかみ、ひかめな笑みを浮かべるリテラ。


(いったい、どこから聞かれていたの)


お茶会のことはまだユタリナ以外、そもそもまだ招待すら正式にしていない状態。

ロゼッタ様が関わるかもしれないとわかれば、さもロゼート様を招待をしたように周りに広げられるかもしれない。


(手紙を朝のうちに読んでもらえていればまだ良いけど、そうでなければリテラ様を使って外堀を埋めるような事になってしまう)


「それで、なんの招待ですか? もしかしてサウティナさんのお茶会ですか?」


こてん、と小首傾げるリテラを横目にサウティナとユリタナは視線を一瞬交わす。


(ただ察しが良い、と考えるべきではない気がするわ)


ユリタナは慎重に口を開く。


「そうよ、でもまだやるのかも決まってないの。サティナからどうしようかと相談を受けて、なら私が参加して少しでも負担を減らせたらと思ったのよ」


情報を意図的に省いたが嘘は何一つ言っていない。

リテラからカードを切らせるまでこれ以上言う必要もない。


「なら私も参加したいです! いいでしょうか!」


ノーと言えば当然、なぜと聞かれる。

公爵、侯爵、伯爵のお茶会に男爵令嬢を呼ぶ。ロゼート様は貴族としてのマナーを重んじる方、明らかに爵位が違うものを呼ぶのは普通に考えても無礼であり、それは主催の責任。

断りたい。けど、断って外堀を埋められるような動きをされ、その上でリテラさん本人も参加する流れを作られるのが一番悪い。


そして参加者を知った上での言葉だとしたらさらに困った事になる。


手紙を出したことを知っている可能性があるから。それを聞いてなければまた別の日に、お茶会をすればいい。しかし、知った上でなら今ここで言う必要はなく、リテラはただロゼート様に同じお茶会ですねと言ってしまえばいいだけ。


リテラはカードを出す場にすら立つことはない。


(ロゼート様とのやり取りは見てきたけど、自分がされるとこうも身動きが取れなくなるものなのね)


サウティナはリテラの目から、僅かな情報を溢さないように真っ直ぐ向き合う。


「ええ、いいですよ。日付が決まったらお伝えします。ですがわたくしの家の都合もありますので、ご予定が合わなければ無理にとは言いません。今回だけということでもないのですから」


(けど、こちらも同じ場所に立つことはできる)


侯爵家の夜会の三日後とは手紙に書いてはあるけどそれも本決まりではない。都合が合わないこともある。

何よりリテラ様に日取りが知られる前に、リテラ様に他の家のお茶会など用事があるようにすればいい。


(とにかく同じ日のお茶会でさえなければ、こちらも喜んで誘うこともできる)


「はい! 大丈夫です! サウティナさんのお茶会なので絶対に行きます!」


リテラは身を乗り出すようにして両手で拳を作る。


「えぇ、わかったわ。ありがとう。迎えにきてもらて悪いのだけど、少し先に行ってもらえるかしら。ユリタナとお茶会の内容相談したいの。リテラ様には当日を楽しみにしてもらいたいわ」

「わぁ、そうなんですか。わかりました。すぐ来てくださいね、待ってます」


リテラの背中を見送ってから、ユリタナがゆっくりと息を吐き、口を開く。


「多分、本当に絶対来るわよ。言ったでしょ、貴方のお茶会ならみんな参加したがるって」

「そういえば言っていたわね」

「ええ、私基本的に撤回するような言葉を言わないようにしているけど、短い時間に二回目ね。場数を踏むのになんで最初からそれ以上のない人選、と言ったけどもっと上があったわ」


(それにしても、わたくしとしたことが妄想する余裕がなかったわ……)


サウティナにやりと笑みを浮かべて、ユタリナを見る。


「なら三回目はないのかな」

「そうね。ちゃんと付き合うわよその地獄」




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