色々楽しみになってきました
ロベルテ家の食事は情報共有をしやすくするため可能な限り一緒に食べることになっている。
しかし今日は父と兄は夜会のためおらず、母エマティラとの夕食となった。
「お母様、会話の主導権を握るコツなどないでしょうか? 上手くいかなくて困っているのです」
「……貴方が主導権を握れないなんてことあるの?」
エマティラは驚いたとばかりに手を止めてサウティナを見る。
「どうしてそのような驚いた顔をされるのですか。わたくしが受身体質で聞き上手なのはご存知でしょう?」
「誰のことを言っているの、私の娘は一人しかいないはずよ? 時々抜けていますが好奇心を抑えられない自由奔放なじゃじゃ馬娘で、こちらが思ったような会話になることの方が少ないじゃない」
「お母様、我が家でも隠し子疑惑は勘弁してください。夕食の時に話されても困ります」
(そう隠し子。リーデルテ宰相はさておき。侍女として聞いて回った時に、マリアーネ様の実母は体が丈夫でないとはなくマリアーネ様が学園に通い始める時に亡くなり、そこにリスティーナ様が家に迎えられた。マリアーネ様と父の冷え切った関係が余計顕著になり、当時は陰謀の妄想をしていたものね。でも、リスティーナ様自身がどう見てもマリアーネ様を大事にしていたから、使用人たちの信用も経て上手く家を掌握していた。けど、ルールス殿下と二人で馬車に乗るのはマリアーネ様を無碍にしかしてない。家を制御できなくなった? なら侯爵家の夜会で聞こうにも口を閉じてしまう可能性が高いわね)
思考の海に入り、にやにやし始めたサウティナを見て、エマティラは頭を振った。
「……そういうところよ。詮索されないという意味ではこれ以上ないのであまり言ってこなかったけど、貴方が聞き上手というなら聞き上手しかいませんよ」
エマティラはため息をついて、いいですかと前置きをする。
「興味ないことにも笑顔で頷いて相手の言葉を汲み取って繋げられるのが聞き上手というのよ。しかし我が家ではお茶会の主催になることもないので、経験が積めなかったこともあるでしょう。それを今すぐに出来るようになれとは言いませんが、自分の興味ばかりが先を言ってしまう貴方は少し場を繋ぐことを意識した方がいいわ」
サウティナは、なるほどとうなずく。
「それが主導権を握るコツなのですね。確かに直接多くの情報を引き出せば動かしやすいかもしれません」
「……はぁ。なんでこうなんでしょう、結果的に間違ってないけど。いつかボロが出るのではと思ってしまうわ」
「ご安心してください、お母様。秘密を悟られるような動きはしてませんよ」
うんうんと首を動かすサウティナから、レベナへと目を移すエマティラ。
「……何がいけなかったと思う? やはり一回くらいは主催でさせるべきかしら?」
「そうですね、奥様。私も少々不安になってまいりました。派閥関係なくお呼びになれば、問題も少ないのではないでしょうか」
「そうねぇ。中立という意味では夜会の方が大勢呼べて偏りも出ないけど、今の情勢で派閥関係なく招待してそれをいきなり御すなんて、ねぇ……? お茶会も似たようなものだけどまだ良いかしら。引き延ばしにしても情勢が良くなるのはまだ先、なら今のうちに場数踏ませるべき、ね」
エマティラとレベナは不安という顔を隠さずに話す。
「私達みたいにサウティナが話を聞いていつも微笑んでる令嬢ではなく、それが別のこと考えて笑ってるのに気がつかれる前に手を打つべきよ」
(なんだか酷い言われような気がするわ。話を聞い微笑んでいるのは間違いないのに)
「お母様が不安に思うような失敗はしませんわ。悟られずに多く情報を引き出せば良いのでしょう? お任せくださいな」
「……うーん。そうね、もうなるようにしかならないわ。侯爵家の夜会の三日後くらいがいいかしら、招待する人は貴方が選び報告して問題なければそれでいいわ」
「わかりました」
(お茶会の主催か。多くて5人? それ以上となるとどうしても質が落ちそう。誰に声をかけるべきかしら)
まず噂でなく直接情報を聞き出したい相手、そして中立であること。
後は失敗しても流しくれる人が良い。
(ロゼート様なら何度もご招待いただいてるしおそらく大丈夫)
第一王子側だけ呼ぶと肩入れになりかねないので、第二王子側からも出来ればロゼッタ様と同格の方を招待したいところ。
(となるとマリアーネ様かしら? 夜会で話せないこともあるでしょうし、保険を兼ねる意味合いでも都合がいいわ。クリスティーナ様も声をかけた方がいいわね。しかし、格上の家ばかりを呼ぶのも中立と言いつつ尻尾振っているようにしか見えかねないので、同格くらいのものも呼ぶべきかしら)
できれば派閥闘争していなくて口が固いものがいい。次点で表立った闘争をしていないそれぞれの派閥のものになる。
(こちらは特に直接情報が欲しい相手もいないしその時の流れでいいかも)
「お母様。ロゼート様、マリアーネ様、クリスティーナ様にまずはお声がけして、それ次第で他の方を決めようと思います」
「……場数を踏ませるという話で、なぜそのような人選になるのですか。いえ、貴方の考えていることはわかりますし納得もできます。もう、やれるというならやってみなさいな。レベナ、当日含め色々頼むわよ」
「はい。かしこまりました奥様」
本当に大丈夫だろうかと、使用人たち含め夕食の空気も重くなるロベルテ家。
お茶会での会話がどのようになるのか、サウティナの夕食は美味しかった。