飛び火しないことなら楽しみたい
投稿してからなんだか読みづらいなと、改行を直すこと多々。難しいですね。
学園の中庭。サウティナはご令嬢達の噂話に花を咲かせていた。
「サウティナ様、ロゼート様のお茶会に参加するというの話を聞きましたわ」
「えぇ。昨日の今日でよくご存知ですね」
「まぁ、お誘いは昨日のでしたの? わたくしはリテラ様が殿方とそのように話しているのをお聞きしましたわ」
「リテラ様が? その殿方とはどなたでしょうか」
近頃の話題の渦中のご令嬢、リテラ・フィーラ男爵令嬢。
婚約者のいる男性をたぶらかすのはお手のもの。何人のご令嬢が涙を堪えていることか。そのため、女性のお友達は婚約者の居ないものばかり。男性の方の交流はもはや誰とあっても驚きは出ない。
「誰かまでは存じ上げなかったのですが、あまり良い雰囲気ではなかったですね」
(アゼルノトル様にも興味を持つリテラ様が偶然あの場を見た、と考えるべきでしょうか。それにしてもそれを良くない雰囲気で殿方と話すのはリテラ様らしくない。いえ、でもロゼート様なら? それとなく探りを入れてみるべきかしら? そもそもリテラ様ならあの場にいたなら直接言いに来るような気もするし……)
思考の海に入り始めるサウティナを置いて令嬢達の話は進んでいく。
「あのリテラ様が殿方といらして雰囲気が悪いなんてあるのですね」
「ええ、あの方を前にした殿方の方々の顔と言ったら」
「でもロゼート様が関わるなら、納得というものでしょう?」
「まぁ、確かに。そういえば聞きまして? なんでもルールス殿下とクリスティーナ様が、同じ馬車にお乗りになっていたそうよ」
「では、クリスティーナ様が婚約者になるのでしょうか」
「あら? 先ほどマリアーネ様とルールス殿下が、楽しそうにお話しているのを見ましてよ」
「そういえば私も見ましたわ、ではどちらになるのでしょう?」
「わかりませんわね。マリエッタ様を応援したいのですが……」
(待て待て。リテラ様のおかげで感覚がおかしくなってきてたけど、婚約者とは楽しくお喋り程度での噂でその妹とは馬車を一緒に? やはり第二王子も残念なのか、それとも元平民らしいクリスティーナ様もリテラ様の素質があるのか。姉妹で同じ殿方なんて家の中ギスギスがすごいのでは?)
「そうですわ。リエッタ様とルールス殿下はお互いに愛しあっているようにお見受けられましたのに」
「婚約の破談も増えてまいりましたし、やはり殿方の心とは移りゆくものなのでしょうか」
(少し前から、クリスティーナ様との交流が増えてきてたのはわかっていた。でもそれは婚約者を無碍にするようなレベルのものではギリギリなかった。馬車を一緒はいくらなんでも普通じゃない、普通じゃないはず? クリスティーナ様は貴族相応の振舞をきちんとされる方だし、何よりマリエッタ様大好き! を全身であらわすため、確かに一線は引かれていた。それで、実母の亡くなられたマリエッタ様の家でのお立場が保たれていたようなもの。でも、そのバランスが崩れたタイミングで侯爵家での夜会? ある意味とても楽しい夜会になりそうね)
その後もご令嬢達の花は咲き続けた。
放課後、まずは影響のほどが予想しずらいリテラ案件を確認に直接見に行こうとした。
「あっ、サウティナさん。ロゼートさんのお茶会行くって本当ですか?」
どうやら先手を打たれてしまった。
元は平民として過ごしていたリテラはロゼートからの再々注意を受けるほど、貴族としての振る舞いが未だに出来てない。
それでもその距離の近さと言うべきかそのわかりやすい表情が、男性の心を掴むらしい。
サウティナとしては、お忍びで平民のお店を歩く際の参考にこれほどぴったりの人はいないと思う反面、ロゼートや婚約者のいるご令嬢は不快感を持つ相手なので距離の測り方には気をつけたい。
個人的にはリテラのお陰で、上司の財布を緩ませることが出来ると歓迎しているところもある。
「あら、サウティナ様。ご機嫌よう。えぇはい、ご招待頂いたので」
「どうしてですか?」
リテラは少し頬を膨らませて上目遣いでサウティナを見る。
(相変わらずぐいぐい来ますね。それとその上目遣い、パパ様に使えそう)
「美味しいお菓子をいただけるそうなので」
「……お菓子。それだけですか?」
「紅茶もですね。ステンレン公爵家のは茶葉もさることながら煎れ方良いのでしょうね。とても美味しいのですよ。特にレモンティーなどそれはそれはーーー」
「ずるいです。サウティナさんだけ。私呼ばれてないのに」
サウティナの言葉に被せるようにリテラはさらに頬を膨らませる。
……でしょうね。とはさすがに言わず。
「では、聞かれてみては? わたくしから聞ければよいのですが、わたくし以外の分も用意しろ。なんてさすがに言えませんので。知っての通りわたくしの家あまり裕福とは言えでないのでお金のかかる事は受け身でありたいのです」
(ロゼート様のがこちらに飛び火するのは避けたいところね)
「……はぁ、サウティナさんってそういう方でしたよね」
膨らんでいた頬が見るみる萎んでいき、半目でため息をつくリテラ。
(今の話のどこにため息をつかれる要素があったの。どちらかと言えば作法的にはこちらがため息つく側では?)
「私もサウティナさんとお茶会したかったです」
しゅんとして僅かに目を濡らすリテラ。
「ごめんなさい。伯爵家なのにお茶会も出来ないほどで……」
中立なので参加することはしても、ロベルテ家は誰かを呼ぶというのは公にはしていない。
さすがにお茶会ができないほど財政が困難なわけではないので、ロベルテ家のお断りの言葉の十八番だった。
「いえ、いいんです。私こそごめんなさい。その代わり明日お昼一緒にどうですか?」
リテラは少し目を潤わせてはずたが、それがすっと消え小首を傾げる。
(これが小悪魔というやつか。庇護欲を誘った後に断りづらい空気を作る。これでは殿方は、はいとしか言えないだろう。わたしくしも言えませんが)
「明日ですね、いいですよ。学食のテラスで待ち合わせで良いでしょうか?」
「はい! 約束です!」
ぱっと花が咲いた笑顔を向けられて転がされている気がするけど、悪くない。そう思わせる笑顔、サウティナも思わず微笑んでしまう。
しかし、本来の目的の殿方と話していたことの探りを入れる流れにもできそうにないので、明日にしよう。
「ええ、では。わたくしはそろそろ帰らないといけませんので」
「あっ……はい、そうですよね。明日楽しみにしてます!」
(リテラ様との会話、主導権を握るのはやはり先手を取らないと何度話しても難しい。明日のランチこちら側が見つける流れをまず作らないとね)
明日からは一本づつになると思います。