#3
「おはようございます。ユリア様」
小鳥のさえずりが聞こえ始めた今日この頃。
今日もメイド達が紅茶と少しのおやつを持ちながら私の目覚めを促す。
.....うん。慣れない、馴染めない。
せめて起こしにくるのは一人でいい!って思ってるんだけど、私には専属の従者(今の年齢だと見習いとかかな)がいないからね。大抵何も喋らないし、下を向いて顔もあまり見えないけど、起きて、着替えて、今日の予定を聞いて...って作業を大勢に見られるのは物凄く恥ずかしい。(寝起きの顔とか、着替えの最中とかね!
だから、あのイベントまで少し時間があるし、専属の従者探しだ!
確か、乙女ゲームのユリアにはいなかったんだよね。原作と違うルートにいくって言うのも令嬢転生ものの定番だしいいでしょ!
まずは、出来るだけ急いで朝食を食べてから、髪をポニーテールにしてもらった。
赤色の薄いワンピースをきて、端からみればとても侯爵令嬢には見えない格好になった私は、隣に同じような格好をしたメイドを一人連れて街へ出ることに。
(本当は一人が良かったけど身分を考えると流石に無理そうだし)
お父様に、街に遊びにいってもいい?と無邪気な娘を演じながら上目遣いで交渉しに行ったら、すこし悩みながらも了承してくれた。
さて、街についたのだけれど私の目的は賑やかな街の中枢ではなく、端の方...いわゆるスラム街という所だ。
この場所の問題は私には解決出来そうにないから置いといて、私はスラム街の中にずかずかと入っていった。
何人か盗賊のような人が絡んで来たけど、私がなにか言う前にメイドさんがやっつけてくれた。本当、頼もしいわぁ。
暗くて狭い道をかなり進んで到着したのは、今はもう使っていない教会.....今は孤児院となっている場所だった。
外で遊んでいた子供が私達を見つけた途端、笑顔がふっと消え深刻そうな顔をして中に入っていった。
少しして出てきたのは、一目で分かる理想的な優しい祖母のようなシスターだった。
「あら、お客様でしょうか。位の高いお嬢様方がなぜこのような場所へ?」
頬に手をつきながら不思議そうに問い出すシスター。
「突然のご訪問で申し訳ございません。私はユーリともうします。
今取り組んでいる事業(従者探し)の事で、教会の子の素直で貴重な意見が欲しくて参りました。
少し皆さんのお時間を頂いても大丈夫でしょうか?ご迷惑とあれば帰りますので....。」
私の言葉を聞いて、目を丸くしながら考え込むシスター。
そんな私達の様子を見ていた子供たちがばれないように少しずつこちらに近付いてくる。
そして、シスターの後ろからピンクツインテールの子が警戒しながら顔を出しこちらを睨んできたので、微笑んでみた。
「あっ。こらっ...!
す、すみません...。いい子達なんですよ...本当に、すみません」
微笑みに気づいたシスターが素早く頭を下げ、謝罪する。『この子達は悪くないんです。私の責任です。』と必死に訴えている姿に、階級の違いを実感して...他の貴族の対応が目に浮かんできて、心が痛んだ。
「大丈夫ですよ。頭をあげてください。こちらから訪れてのことですから気にしてませんよ。それに...」
「それに?」
先程よりもシスターはさらに目を丸くしている。
まずは私が安全だ、ということを知ってもらわないといけない。もっと笑みを深くして、なおかつ貴族っぽく...。
「それに子供らしくて可愛いじゃないですか。貴女の事が大好きだということが伝わってきて....本当にここは子供達にとって、とても大切な場所、大切な人が沢山いる場所なんだなと少し羨ましくなっちゃいました」
ふふ、と軽く笑う。
ここのような場所がこの国に沢山できるといいな。レオン様方登場人物、他の学院生達にとって学園がそんな場所になればいいな。
...おっと。危ない危ない。余計なことまで言ってしまった。
更にシスターが固まってしまったではないか。
お、おーい。聞こえてますかー?
暫く固まっていたシスターは、私のことを2度見した後、「.....達と......位よね...?」とみたいなことを呟いている。
「ええーっと...よろしければ日を改めてまた伺った方がよろしいでしょうか?」
シスターを下から覗きこみながら確認する。大丈夫かなぁ?
「え、あ。いえ。汚いとは思いますが、どうぞゆっくりしていってください。」
その言葉を聞いて、すこしガッツポーズをしたことを許して欲しい。
何とか入れてもらった孤児院の中は、見た目よりも広く、綺麗な場所だった。
「お茶を出しますので、少々お待ちください」
そういって、シスターは奥の部屋へと消えていったのを良いことに、私は近くにいた子供達に話しかけた。
「手入れがしっかりされていて、綺麗な場所ですね。皆様、シスターのお手伝いをしてるの?」
子供達は少しの間何かを相談した後、その中で1番背が大きい、赤髪の子が代表して答えてくれた。
「そうたまよ!君はお手伝いしないの?」
すると、後ろの方に立っていた黒髪の男子が皆に聞こえる最小限の声で呟いた。
「貴族のお嬢様がお手伝いするわけ無いでしょ。」
「そ、そうだよね!」
黒髪の子が呟いたことで子供達が1歩離れたのに気が付いたのか、舌打ちをしている。
「あの子は?」
気付かれないように、子供達に聞いてみる。
「えっとね、ルナくんっていうんだ。すこしまえからいるんだけど、こわいまじょとおなじまほーが使えるからあまりはなしたことないんだ。」
「へ~...。教えてくれてありがとう。」
その子にお礼を言うとルナという子に向き直し、あえて席を立ちゆっくりと近づいて微笑む。
「貴方、ルナっていうんですね。」
「....それが何か?」
明らかな警戒体制で睨んでくる。
それもそうだろう。あちらがわからしたら、皆から恐れられている魔女と同じ魔法が使える
「魔法が使えるって本当?」
「....使えたら何?」
この場合、警戒をされ拒絶されないようにするためには素直な感想を述べた方が感情に敏感な子供に伝わりやすいだろう。
だから、思ったことは素直にいうことにした。
「使えるとしたら、格好いいわね。正直、とても羨ましいわ.....」
「....は?」
前世で見慣れた黒瞳を見開き、なにいってんだこいつ...と瞬きを繰り返している。
私は、彼を専属の従者候補にするべく微笑みを深めた。