#2
「......」
「......」
...なかなか返事出さないな、この殿下。
「すみません。いきなりこんなこと言われたら困ってしまいますわよね」
少し上目遣いをしながら殿下の顔を覗く。
まだ幼いながらも整った顔に少し見とれながら、目を細めてみたりする。
....殿下が何を考えているのか全くわからない。相手に自分のことを読ませない所は流石王太子!と褒めたいけど、8歳でこのスキル....うわぁ...そりゃ感情が乏しくなりますわ。
....おっと。哀れみの目にならないように注意しないと。
「まずは実演しないと、ですわよね。
どうか、これから起こることに驚かないでくださいね」
一度姿勢をただし、ゆっくりと目を閉じた。
頭の中でスイッチをオフするように気持ちを切り替え、目を開く。
『こんにちは、殿下。聞こえていますか?』
精一杯の微笑みで言葉を放つ。
目の前にいる殿下が信じられないものを見るような、面白いものを見るような、そんな顔をした。
それもそのはずだ。日本語とこの国の言葉の切り替えができる代わりに、日本語の時の私の目は黒く染まる。
殿下的に今の私は、【聞いた事の無い言語を話す上に瞳の色が変わる謎の女】なのだ。
「.....成る程。」
状況を理解し、落ち着いたのか殿下は満足そうに笑う。
ちなみに、話すことは出来ないけど、聞くことはできる。便利なものだ。
だけど、会話が成りたたないから一応言語を切り替える。
「どうでしょうか?やはり、知りませんか?」
「えぇ、全く。ちなみにどうしてその言葉を知ってるの?それに、瞳の色が変わるのはどうしてかな?」
「企業秘密です」
実は私、前世の記憶がありまして...。
....なんていえるか!!どこの変人だよ。
答えにくい質問は全てカットで。
そこ代わり、満面の笑みで答えてあげよう。
「どうし「企業秘密です」
凄く失礼だけど殿下の言葉は遮らせてもらう。これ以上詮索しないでよオーラを出しながら。
私の気持ちを悟ったのか1度ため息をついた後、殿下は...真っ黒な笑みを浮かべた
「どんな手品か知らないけど、とりあえず教えてもらおうかな」
とりあえず聞きのがしてくれたけど、何、考えているんだろうか。
....黒い笑みは見なかったことにしよう。
「えぇ、わかりましたわ。
この言葉は日本語、と言います。」
隅の方で私達を観察...いや、監視をしている侍女に合図を送り、紙とペンを用意してもらった。
「まず、初級...ひらがなから始めましょう。」
紙に、"れおん・めいでい・ぐろーふぇす"と出来るだけ丁寧に書く。
その紙を殿下の方に回して、差し出す。
「これが、ひらがなで書いた殿下の名前ですわ。」
まじまじと文字を見る殿下。
なんか商品...博物館の絵を見定めている芸術家みたい。まぁ、文字もある意味芸術品ではあるけど。
笑顔が崩れそうだったのでばれないように戻す。殿下はまた何かを考えているのかほぼ真顔だった。
「殿下...?」
探るように言葉を放つと陛下は私の目を見つめながら笑顔になった。
「さっき君は、初級って言ったよね?」
「え、あっ、はい。」
「じゃあ、中級や上級は?」
あら、勘の鋭い人は嫌われるわよ?
「ひらがなが終わってから後程。
すぐにすぐ教えてしまって、覚えてしまわれては面白くないと思いませんか?」
口元を袖口で隠しながら上品に笑ってみる。
物語の最初の殿下は、夢中になれる、面白いことをずっと探していた。
沢山の転生令嬢もので、殿下がアンドロイドにならないのは主人公(転生者)が面白いから。
ただ、あの子達のように天然でそんなこと出来ないし基準がわからない。
なんせ、前世で友達なんかほぼいないに等しいからね。
「とりあえず殿下、あいうえお(文字と発音)を教えますね」
「...えぇ、よろしくおねがいします」
こうして、とりあえずこの日は平和(?)に過ぎてくれた。