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45「暴食」

「じいいいっ。チョコマカと逃げやがってえええ!」

「アニキぃいいい! いでええよおおっ!」


 ヴェロニカは自分の身体を噛み砕かんと襲いかかって来るサメ魔人フライディーの顎先を長剣で深々と切り裂くと素早くその場を飛び退いた。


 床板へと縦横無尽に亀裂が走り、細かな石片が飛び散って粉塵を上げる。


 冒険者ギルドにおけるヴェロニカと二体のサメ魔人の攻防は終局に近づきつつあった。


 巨大な両腕のドリルを旋回させて動き回るヴェロニカを貫こうとヒックス兄弟は巧みな連携プレイを見せるが、スピードに勝るヴェロニカはそれをすべて無効化した。


(とはいえ、このままでは貴重な時間を浪費するのみ)


 戦場においてもっとも重要なものをヴェロニカはこれ以上サメ兄弟のために費やすことはできないと判断した。


「シャシャシャシャ! さすがS級だぜ。おれたち相手にここまでやるとは予想外だ!」


「カッ、アニキィ。でも最後に勝つのはおれたちだぁね!」


「勘違いするな」

「あ?」


 ヒックス兄弟が脚を止めてジッとヴェロニカに視線を合わせる。


「今まで私はいかに力を温存しておまえたちを処理しようかと考えていたのだ。だが、もうそれはやめた。技を温存するよりも、この事態をあのお方にお伝えするほうがずっと人類にしてみれば効率的だ。今すぐ、戦いを終わらせる」


「なにをワケのわからんことをブツブツいってやがる」

「女ァ!」


 ヴェロニカは長剣を構えるとエルフ語で詠唱をはじめた。同時に、ズンと周囲の空気が鉛のように重たくなりヴェロニカの足元が濃い黒で満ちる。


「なんだ、その黒いもんはよ?」


 サンディーがその異常さに気づいて動揺する。しかし、すでにときは遅かった。ヴェロニカの足元から這い出る混沌はたちまち池のように広がってギルドのロビー全体を漆黒で覆った。


「私がなぜ『暴食』の二つ名で呼ばれているか教えてやろう」


 混沌は闇の溜まりから音を立ててヴェロニカの頭上に寄り集まると、巨大な蠅の影を形成した。


「かつて私は地獄の王と契約した。この魔剣の力をしっかりと魂に刻みつけろ」


 暗黒に満ちた強大なエネルギーが耳障りな羽音と共に膨れ上がる。

 ヒックス兄弟が慌てて地底に逃げようと背を見せるがヴェロニカが剣を振りかぶるほうが早かった。

 渾身の力を込めて振るった剣先から漆黒の闇が膨れ上がり爆発した。


暴食(ベルゼビュート)!」


 現世に受肉した蠅の王は異様な風切音を響かせて逃げ惑うサメの魔人に襲いかかった。


 そして一方的な破壊と殺戮がはじまった。


「ヒ、ヒイイ! なんだぁこれはああっ!」

「助けてアニキィ――ッ!」


 巨大な黒の波動に囚われたヒックス兄弟の身体は蠅の王のアギトにかけられると、肉という肉がついばまれ腐食しながら、地上から存在を消してゆく。


 サメの魔人の腹に喰らいついた蠅の王は腸を噛み破り即座に消化してゆく。


 生きたまま身体を消去される恐怖にヒックス兄弟は悲鳴を上げるが蠅の王の食欲は増すばかりで留まることを知らない。


 ヴェロニカが魔剣の主である地獄の王とかわした契約によりヒックス兄弟の肉体は闇の供物として捧げられたのだ。


 この『暴食』という技の恐るべき効果は捉えられた対象者の血肉を一片も残すことなく現世から抹消する部分にあった。


(地獄の王の機嫌を損なえば私自身も喰われかねない)


 ほどなくして――。


 ヒックス兄弟をはじめとするギルドに攻め込んで来た異形の軍団は一兵残すことなく平らげられ、地上から完全にその存在を奪われた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 嫁X号 強いな。暴食せよってやつやな
[良い点] この技は… 某水色のポワンポワンしたものが使っていたのに似てるなw(その本読んでたのでw)
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