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44「地底魔王サザンフランネル」

「……暇だな」


 ダンジョンの入り口前でアタミはボーっとしながら空を眺めていた。


「そういやヴェロニカのやつ伝言聞いたかな。まさかここまでは来ないだろうな」


 空が青い。


 こうしてのんびりとひとり空を眺めることなど人生の中で幾度あっただろうか。


 アタミはダンジョンの見える小高い丘に移動すると落ちていた草の茎を咥えてしゃがみ込みながら空を飛ぶトンビの鳴き声に耳を澄ませていた。


「お、おおお?」


 だが、その平穏も長くは続かなかった。


 アタミのいた丘は地震でも起きたかのように、ぶるぶると震えると突如として活火山のように隆起し、地がみしみし鳴って爆裂した。


「なんだよ。人がせっかく平和なひとときを楽しんでいるのに」


 爆裂した穴からぬっと現れたのは異常なまでに巨大な生物であった。


 土竜である。


 見た目は土竜と聞いて誰もが想像する丸まっこくて円筒形の胴体に短い手足を兼ね備えたソレであるが、全身から迸らせている魔気は尋常なものではない。


 常人であるならば、その気を浴びただけで卒倒するほどの強力な生体エネルギーを保持した土竜は、あくまで泰然としていた。


 その頭には金色に輝く王冠を被っており、アタミからすればその唯一の装飾はどこか道化染みるていて滑稽の一語に尽きた。


 土竜の王は世界の裏側まで繋がっていると思われる大穴から無数の眷属を引き連れ悠然とあたりを見回している。


(連れてるのはエビルモールやクリケッタ―。上級魔族に相当する地下モンスターか)


 アタミはギルドで斜め読みした討伐モンスターの一覧表を脳内で繰った。


 巨大な土竜の親玉の背後から、地中で生存するのに適した粒揃いの種族ばかりである。それらは各自、剣や槍を装備しておりやる気に満ちあふれていた。


 アタミがそうしている間にも地上には数百近いモンスターが姿を現した。


 やがて土竜はアタミを見つけると、すぐそばに這い出たやや大きめの土竜の個体にボソボソと囁いた。


「おい、ニンゲン。キサマはこのあたりの村の者だな。我は地底魔王陛下の側近にして知恵袋のエウスタキオなるぞ! おまえは運がイイ。陛下は小休止をご所望だ。村を上げて休憩所と慰安婦を用意すれば、特別にオスだけは奴隷として連れ帰りこの場で殺すことは許してやるとの仰せだ。わかったらとっとと村に戻って支度をするのだ。それほど待てぬぞ」


「ちょっと待った。よく喋る土竜だな。ことの次第がよく呑み込めないので、もうちょっと突っ込んで教えて欲しいんだが」


「この――ッ!」


「エウスタキオよ。このニンゲンはどうもどこか鈍いらしい。だが、このような者のほうが我らが地獄の軍団の恐ろしさをニンゲン世界に喧伝するには格好の駒になるやも知れぬ」


「ですが地底魔王さま! ……わかりました」


 青っぽい肌を持つ土竜の魔獣エウスタキオはぴょんと飛び跳ねると、背後に控えた。


「ニンゲンよ。我は思った以上に奇襲作戦が成功していい心持ちだ。よって、どこか足りぬおまえに対して噛み砕いてことの次第を説明してやろう」


「短めに頼むぞ」

「キサマ、地底魔王さまに対してなんという無礼な」

「よい」


「――はっ」


(そのやり取り面倒だからやめてくんないかな)


「ニンゲンよ。我らが助力する真魔王ことパール・ライチが貴様らが自称する王国を潰すため戦闘をはじめたことくらいは知っておろう」


「はぁ」


「我は地底を支配する由緒ある家柄であるがパール・ライチはある意味、前魔王を超える逸材だと我自身感じておる。よって一族十万を上げて全力で合力するため、まずは奇兵を持って西の主要都市であるストラトポンを攻めに参ったのだ」


「え、マジで?」


「ここはニンゲンたちが兵を配備する前線の内側。我はまず最初にストラトポンの城内に撹乱のための機動部隊を送り込んだ。それからこの村にあるダンジョンの最奥にある移動魔法陣――ここより真魔王率いる本軍を召喚し、一気にストラトポンを落とす。さすればニンゲンどもの戦意を挫き、殲滅することは至極容易になる」


「えええ、それって結構ヤバい状態だよな」


 アタミは顎に手をやるとブツブツと呟き出す。


「ククク。わかったかニンゲン。地底魔王さまは、おまえを滅びゆくニンゲンどもに対して絶望をこんこんと説く語り部に選んだのだよ。理解したのならば、疾く、我らの接待の準備をだな」


 アタミに手をかけようとしたエウスタキオの上半身がボンッと異様な音がして爆ぜた。


 拳――。


 差し上げたアタミの右拳が動き、瞬時にエウスタキオの身体を破壊したのだ。


 腰から下だけが残ったエウスタキオはびゅくびゅくッと血潮と臓腑を振りまきながら、地上に立ったまま絶命した。


 地底魔王の側近を自負するからには相当な実力者であったのだろうが、アタミの鉄拳の前にはひとたまりもなかった。


 これには自信に満ちあふれていた地底の軍団にも素早く動揺が走り、あちこちから怒号と悲鳴が津波のように走った。


「なにをしやがるっ」

「我らが軍師に向かって」

「ぶっ殺したる」


 無防備に見えるアタミに向かって地中に棲息するモンスターたちが一斉に飛びかかる。


 が、アタミはほとんどその場を動かずにあくびをしたまま右腕を振り払った。


 地底魔王が選りすぐった軍団だ。


 弱者など一命もおらず勇敢でありその戦闘力も折り紙付きだ。


 しかし元勇者であるアタミの拳から打ち出される破壊力は群を抜いていた。


 アタミからすればじゃれつく仔犬を振り払うようなものである。


 モンスターたちは中空に吹っ飛ぶと粉微塵に弾けて霧散した。


「な、にを――?」


 地底魔王が巨体を揺らしながら視線を下ろして来る。


 アタミは落ちていたモンスターの長剣を拾うと担ぐようにして肩を叩く。


「魔王の残党くらい王国の兵士がチャチャッと片づけてくれると思ってたんだが、どうやら世の中そう甘くはないみたいだな」


 アタミが纏っていた気を解放する。地底魔王サザンフランネルは眷属を踏み潰しながら即座に距離を取った。


「キサマ――エウスタキオを一撃で仕留めるとは。何者だ?」


「通りすがりの事務職員だ」


 サザンフランネルが必殺の勢いでのしかかるように襲いかかって来る。


 アタミは腰に手を当てたまま首を左右にコキコキと鳴らすと、いつもと変わらぬボーッとした表情で地底魔王を迎え撃った。





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― 新着の感想 ―
[良い点] あ おきてたw よく寝なかったな~えらいえらいw [一言] さ ちゃっちゃと片付けよw
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