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42「本日はサメ」

「は?」


 地上にサメ。

 非常にシュールな光景だ。


 見上げるような巨大な体躯を持つ二体のサメは、おそらく地下を掘り進んでギルドに到達したのだろう。


「シャシャシャ。おれたち無敵のヒックス兄弟がニンゲンどもの本丸に一番乗りでェ!」


「さすがサンディーのアニキ! カッコいい!」


「我が弟フライディー! おめぇも相当にイケてるぜ!」


 二体のサメの魔人の両腕には巨大なドリルが螺旋を描きながらドルルルッと異様な轟音を放っている。


 ヴェロニカが察するにサメのモンスターが魔術的適合手術を受けた結果、あのような異形に変異したのであろう。


 ヒックス兄弟には二本の脚が生えており、一見したところかなりシュールである。


 しかし硬い岩盤を掘り進めて、都市の中央部に位置する冒険者ギルドまで侵入したことから、その実力は明らかであった。


(ストラトポンの周囲にはかなり広範囲に渡る結解が張られていたはずだ。無論、地中にもその効力の余波はある。それを突破して地下を掘り進んで来たとなると、あのサメの魔人は実力は相当なものだ)


 ヴェロニカは反射的に壁へと身を隠した。モンスターを恐れたわけではない。ここで不用意に戦って貴重な時間を浪費することを恐れたのだ。


(やるのか。やらないのか?)


 飛び出していけないのは、自分の心が定まらないからだ。


 アタミに会う以前の自分ならば確実にこの場を放棄して援軍を呼び各個撃滅を目指しただろう。


 それくらいには、目の前に出現したサメのモンスターの脅威度は肌で感じ取れた。


 エルフ種族独特の特性だろう。


 ある程度に強さが極まれば、互いの力量の差など瞬時に読み取れる。


(一体ずつならば、あるいは)


 確実に仕留められただろうが、二体はマズい。

 激戦が予想される。


 それに真魔王軍と戦うのであればアタミをサポートする自分は間違いなく『魔王』そのものと対峙することは目に見えていた。


 そのための奥の手は、可能な限り残しておきたい。

 戦士としての本能のようなものだった。

 ヴェロニカの中で警鐘が鳴っていた。


 ここまでゼロコンマの逡巡であったが、事態は当然のことながら彼女の心境を汲み取ってなどくれない。


 床には巨大な穴がぽっかり開いていた。そして開口部からは続々と土竜のモンスターたちが槍や剣を構えながらギルドに侵入して来る。


 冒険者ギルドにはヴェロニカを除くS級はおろか、A級B級の姿もない。穴より這い出る魔族やモンスターたちは逃げ惑う職員を追って傍若無人の限りを尽くしている。


 あまりの惨状にヴェロニカは一瞬だけ我を忘れ、その場に立ち尽くした。






「や、やめてっ。やめてくださいっ。助けて、助けてっ」


 長い黒髪を掴まれ宙吊りにされているのはラシェルという受付の女性であった。土竜のモンスターでもひと際大きな身体をした者が鼻先の髭を震わせながら、ガッガッと牙を剥き笑っている。


「ああん? たかがニンゲンのメス風情が最高に強いオレさまちゃんになーに意見してんの? 潰すよ」


「わ、わたっ、わたしっ。ただの受付です。民間人です! 逃げ遅れただけなんです。魔族さまに逆らおうなんて露ほども思ってません」


 ラシェルは美人系であるがやや釣り目で受付対応もキツメめで知られていた。その気丈な誰にも媚びない接客は男性の冒険者たちにもコアな人気を得ていた。


 だが、その彼女も巨大なモンスターの前では小娘のように泣き叫び命乞いをせざるを得ない。


 圧倒的な暴力の前ではすべてが無力であった。


「逆らおうがなにしようが関係ないポンよ。オレさまちゃんたち素敵に無敵な魔族の力の前ではニンゲンなど無力なのだァ。ってワケで、おまえはプチプチ潰して殺してやるゥ」


「なんでもっ。なんでもしますからっ。命だけは、お願いッ。わたしには妹がいるんですっ。わたしが死んだら、エリーゼがひとりぼっちになっちゃう!」


 このままならばラシェルは土竜のモンスターに捻り殺される運命だったのだが――。


「お、おいっ。ラシェルさんを放しやがれっ!」


 それを救うべき現れたのはジェイコブというC級の冒険者であった。


(く、ピンチを転じて福となす。こんなときにでも頑張らにゃラシェルのようなイイ女は俺の手に入らねぇ)


 赤ら顔の青年ジェイコブはまだ十八歳の若き冒険者であった。実はラシェルは二十六でありこの世界では結婚適齢期を過ぎていたのだがジェイコブにとってはそんなことは関係なく、女神でもあり彼の冒険を癒す生き甲斐のような存在だったのだ。


「ああん? なんだ、このニンゲンのガキは?」


「ああっ、そこのあなた。誰だか知らないけど助けて!」


(誰だかわかんない程度の認知度か。けど、こっから俺が華麗にラシェルを助けて好感度爆上げだぜ!)


「このクソ土竜が。ギルドにその人ありといわれたジェイコブさまが相手だぜ!」


「あーん?」


 土竜の巨体を目にしたジェイコブは咄嗟にスピードならば勝てると思い込んだ。


(端からこんなバケモンと真正面からやり合う気はねぇ。とにかく動きとフェイントで撹乱してラシェルを助けるんだ。そのあとは、なんとかふたりきりになれる場所でしっぽりむふふと行けば。くくく、所詮は女なんぞ一度抱いちまえばこっちのもんだぜ!)




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[一言] なんだろう、かっこいいのに漂う残念感
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