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40「カタカタ村」

「で、ここが依頼書にあったカタカタ村だな」


 酷く殺風景な農村である。


 戸数三十七

 人口一五六名

 牛四頭

 馬八頭


 モジャコ連合王国の平均からいっても極めて特徴のない寂れた農村である。


 ストラトポンからやや離れた場所にあるこの土地は極めて平穏であった。


「これは、ちょっと寂しい村ですね」


「田舎田舎田舎。ちぇ、お宝もなさそうジャン。つまんな」


 クリスティーンとユゲットが鄙びた村の田畑に視線を送りながらそれぞれの感想を述べる。


「アタミ殿。アタミ殿はこういった静かな農村はお嫌いか? 私が育った実家は垢ぬけてはいないが魚だけは新鮮で自慢だぞ。そのうち私の両親にも紹介したいのだが……」


「アデライドさん。そういう個人的な会話は依頼が終ったあと、アタミさんとふたりきりになったときに話してくださいね。あ、クリスティーンさん、アレがスライムの湧いているダンジョンじゃありません?」


 地図を予め読み込んでいたモルガーヌが今回の依頼の肝となる突入ポイント素早く見つけ出した。


「うし。じゃあ、ここで俺は待機しているから健闘を祈るぞ」


「うむ、それでは私もアタミ殿とここで待っている。みなも頑張ってくれ」


「アデライドさんも行くんですよ」

「あ、おいっ? アタミ殿ッ」

「そんな切羽詰まった声出さないでください」


「ほどほどに頑張れよー。骨は拾ってやるからな」

「アタミ殿ッ、アタミ殿ォ!」


 クリスティーンは力強くアデライドを引っ張ると暗いダンジョンに乗り込んでいった。


「んでんでクリスっち。ウチら今回何匹くらいスライム倒せば許されるん?」


「ユゲットさん。ここに来る間何度も説明いたしましたよ、もう。村人たちの話ではスライムたちは全部で三グループで、それぞれ四、五匹といったところらしいですから、だいたい一五匹を目安にしておけばまず間違いはないと思います」


 クリスティーンがガサゴソとダンジョンの地図を松明の灯で照らしながらいった。ユゲットは肩越しに地図を覗き見るとフンフンとうなずいている。


「ん。よしゃ。それほど難しくなさそーじゃん。そのかわりお宝もないみたいだけどね」


「あのねユゲットさん。ちょっとは真面目にものごとを……だいたいスライム程度といっても油断をすると命取りになりかねませんよ?」


「けどさ、モルっち。スライムなんてゴブリンと同じでモンスターの中じゃ最弱の部類っしょ。こう見えてもアタシはスライムスレイヤーって故郷じゃ恐れられてたんよ?」


 ユゲットはナイフを両手のひらで交互に持ち替えながら不敵な笑みを浮かべる。


「スライムスレイヤーって。ま、今の私たちにはアデライドさんがついてますから。戦闘に関してはとっても心強いですわね。って、アデライドさん?」


 モルガーヌが振り返るとアデライドは青白い顔でガタガタと震えながら虚空に視線をさ迷わせてみなについてゆくのが精一杯という体たらくだった。


「あの、アデライドさん。どこか調子が悪いのですか? お顔が真っ青です」


「う、うるさい。だ、だいじょうぶだ」


 クリスティーンが駆け寄って声をかけるとアデライドは力なく手を振った。


「ぜんっぜん平気そうに見えないんですけど。おいおい、生きてるー」


 ユゲットが顔の前でひらひら手を振るとアデライドは杖にしていた剣もろともぐらりと状態が崩れて転びそうになる。


 すかさず上背があるモルガーヌがはっしとアデライドを抱き止めた。


「ちょ、ちょっと。洞窟の入り口までは大丈夫だったじゃないですか。いったい、なにがあったというんですか?」


「じ、実はな。生来、私は暗くて狭いところが嫌いで、このような空間に入ると、ほーんの少しだけ調子が悪くなって本来の力が出せなくなってしまうのだ」


 ガックリとアデライドは首を折ると「うう」と小さく呻いた。


「ほーん。だから、あんだけの剣の腕があってもほかのパーティーに馴染めんかったワケね。なーる」


 ユゲットはその場に座り込んだアデライドの頭を拾った棒先でツンツンつつく。


「あの、アデライドさん。それほど気分がお悪いのであれば、一旦外に出ましょうか? 精神的なものでしたらきっとわたしの治癒も効果は望めないでしょうし」


「いや、いい。それにモンスターが出ればシャキッとするはずだ。悪いが、敵を探り出すのは任せていいか。この程度、きっとダンジョンに潜っているうちに慣れる」


「でも……」


「ねね、クリス。アデライド本人もそういってるから頑張らせてあげよーよ。斥候はアタシに任せてよ。それに……こんくらいで依頼を投げ出したら、なんか悔しいじゃない」


 いつもおチャラけているユゲットが真剣な口調でいうのでみなが静まり返る。


「アタシさ。ちっちゃいときから親ナシで、ずーっと盗みで食って来たんだ。ま、ショボい仕事ばっかである程度は目こぼしされてたんだけど、それにも限界があってね。ンで、積もり積もった罪で罰として、市が所有する永続的性交奴隷にこないだ落とされるとこだったんだ。でもさ、アタミはちょっとした縁なのにアタシをかばってギルドに入れてくれたんだ。アイツがいない今だからいうケド、こんなアタシでも恩って言葉くらい知ってる。だからみんなと頑張って強くなって、アタミに恩を返したいって今なら思えるんだ。正式な武術は知らないけど、目端はガキのころから利くからさ。そのあたりは任せて欲しいかな。アハハ、急に自分語りして鬱陶しいね」


「ユゲットさん……」


 モルガーヌが長いまつ毛をしばたかせてユゲットを見つめた。


「モルガーヌっち。こないだはゴメンね。アタシ、盗人でも娼婦や性交奴隷になるのだけはどうしても嫌だったからさ。だから、アンタのセクシーな感じが理由もなしに受け入れられなかったんだ。だから初対面のときにあんなふうにいっちゃったんだよ。ゴメンね。アタシは自分が一番嫌な言葉を人にぶつけちゃって。でも、ちゃんとアンタに謝ってこれからは仲よくなりたいんだよう……」


「い、いえ。あなたとアタミさんにそんな過去が。私こそ狭量でした。本来ならば一番年上の私が度量の大きさを見せなくてはならなかったはずなのに。こんな私でしたら、末永くおつきあいしてくださいな」


「へへ、それじゃ、今度暇なときにアンタとアタミっちの馴れ初め聞かせてよ。アイツのことだから、また妙なお節介で知り合ったんだろ?」


「いえ、彼とは合コンで知り合いました」


 ユゲットのいい話はモルガーヌの現実にあっさり破壊された。


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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ… イイハナシダッタノニナー
[一言] 合コンか~いw
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