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33「そこにある脅威」

 天井の穴は未だあり続ける。

 当然だ。

 ギルドの寮は個室である。


 そして、よほどの雨漏りでもない限り寮の管理人も天井裏など確認しない。


「仕事でも行くか」


 これ以上考えても結論が出ないとアタミは判断した。


 ぎし、と音を鳴らしてベッドから起き上がるとキッチンにはすでにホカホカのコンソメスープとチーズを挟んだサンドイッチが用意されていた。


 目玉焼きもアタミが好きな半熟でオレンジの目玉がいい感じである。


 添えられたナイフとフォークはよく磨かれており、卓にかけられた白いテーブルクロスは清潔感あふれて朝のさわやかさなひとときを演出していた。


「おはようございますアタミさま。今、茶を入れますのでしばらくお待ちください」


「あいよ」


 背後からヴェロニカが声をかけて来た。


(まったく気配に気づかなかった。なぜだ)


 なにかを考えるのが面倒くさくなったのでアタミは無言で椅子を引くと卓に着いた。


 対面には当然のようにヴェロニカが着席する。


 彼女は彼女で自分用の食器やマグを用意しており、傍から見れば夫婦か同棲中の恋人同士にしか見えなかった。


「いただきます」


 アタミが食事をはじめるとヴェロニカは長いまつ毛を伏せて神に祈りを捧げはじめる。


 彼女は敬虔なモジャコ教徒である。

 だが、この国では別段、特別なことではない。


 アタミは記憶を失っていることもあって特定の神を信仰していないだけだった。


「でさ、しつこいようだけど、もっぺんだけ聞くぞ。本当に昨日は俺の部屋に来なかったんだろうな?」


「何度でも答えましょう。私は昨日、アタミさまのおいいつけ通りに朝からギルドの依頼をこなして地竜を討伐していました。お疑いならば、ギルドに行って帳簿類を確認していただきたい。単独とはいえ、日中はストラトポンを離れて依頼主と直接会って話をしていますので容易に裏は取れますよ」


「いや、悪かった。そこまで疑ってたわけじゃないんだ。ちょっとだけ気になることがあってな。この話は忘れてくれ」


「はい、忘れます」


 しばしふたりのナイフを動かす音だけがカチカチと静かな空間に流れる。


「それにしても私を疑うとはいくらなんでも酷いですね。弟子としてこれだけ尽くしているというのに」


「弟子じゃないからな」


(忘れるっていったのに、いきなり蒸し返してるやんけ)


 こういうところが女の一番面倒なところだ。アタミはかつて同棲していたアイスのことを思い出し、女は男とまったく違う脳の機構を持っていることをようやく思い出した。


「それでアタミさま、私はギルドに所用が入っていますのでお先に失礼します。食器は水につけておいていただければ昼休みにでも戻って片づけておきますので」


「あ、ああ。いってらっしゃい」


「いってまいります。それと今日の夕飯のメニューはなにがよろしいでしょうか?」


「じゃ、ハンバーグを」

「はい、それでは楽しみにしていてくださいね」


 扉を閉める際にヴェロニカの腰に装着されたキーリングにアタミは自分の部屋の鍵があるのを目にした。


(おかしい。そもそも合鍵など渡していない。つか、そんなの存在していないはずだ)


 部屋にはヴェロニカがつけていた柑橘系の香水がわずかに漂っている。


「てか、やっぱおまえも危険人物じゃないか」


 アタミはヴェロニカの脅威度の高さをひとり再認識していた。



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