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25「ゴブリン退治」

「そんじゃパパッとゴブリン片づけて戻ろうぜ」


 トラヴィスはあくまで余裕といった表情で光の差さぬ洞窟へと踏み込んでゆく。


 前衛は戦士のトラヴィスとレンジャーのソニア。

 後衛は魔術師のニーナと僧侶のクリスティーン。


「しっかし中は思ったよりずっと暗いわね」


「こんなこともあろうかと、明かりの用意は手抜かりなしさ」


 先頭を行くトラヴィスとソニアはまるでそこいらの商店へと買い物に行く気安さで、ほとんど周りを警戒することなくズンズン分け入ってゆく。


 魔術師のニーナは無言であるが不安げな様子はまるでない。


 その三人とは対称的にクリスティーンの面からは不安の陰が消えることはなかった。


 ――本当に、黙ってわたしたちだけで大丈夫なのでしょうか?


 クリスティーンは暗い表情のまま修道院で授与された杖をギュッと握り締めながら、そろそろと歩く。


「あっ」


 洞窟の中は凹凸が至る所にあり靴のつま先が岩に当たってつんのめってしまう。バランスを崩したクリスティーンは転げそうになるが前を歩いていたニーナにぶつかりなんとか止まった。


「気をつけて」

「すみません。思ったよりも足場が悪くて」


「おいおい、ゴブリンが出る前に転んで怪我しないでくれよ」

「トロいんだから、もう」


 一同がほのぼのと会話を楽しめたのはそこまでだった。


 なんの前兆もなく闇から姿を現したゴブリンたちがトラヴィスたちに襲いかかった。


 ゴブリンの数は五匹である。


 サイズは一般的な域を出ないもので脅威ではない。

 トラヴィスは長剣を引き抜くと先頭を切り迎撃に出た。


「ちょっと! ひとりで先走らないで!」


 すかさずソニアがサポートのためナイフを抜いて前に出ようとするが、トラヴィスが振り回す長剣が危険すぎて容易に近づくことができない。


「ちょっと、トラヴィス。そんなに振り回さないで! 援護できない!」


 だが、いきり立って興奮状態のトラヴィスは目の前のゴブリン以外は目に入らない。


「心配するな。コイツらは俺ひとりでぶっ殺す!」


 やたらに幼少期のゴブリン退治の自慢を吹聴するだけあってトラヴィスの膂力やスタミナはたいしたものだった。


 風車のように滅多矢鱈に降り回せば狭い洞窟内のことである。


 一匹や二匹はまぐれ当たりで倒すことができた。


 側頭部を割られ、喉を横殴りにされたゴブリンがこの世の者とも思えない悲鳴を上げて地面に横たわる。


 赤黒い血がパッと舞って強烈な臭いがあちこちに立ち込めた。


「オラぁ、どうだっ!」


 だが、トラヴィスの快進撃はそこまでだった。逃げに回ったゴブリンは岩陰に身を隠すと器用に革で作ったスリングを使用し投石を開始した。


 闇の中である。唯一の灯火は背後にいるソニアが手にしているのだ。最前線にいるトラヴィスにとって投げつけられる石はさけようがなかった。


「がっ」


 握り拳大の石くれがトラヴィスの額へモロに当たって血がドッと流れた。


「こんのっ」


 身軽なソニアはナイフを使って岩陰に潜んだゴブリンの頭を切りつける。ゴブリンはギャッと叫んで頭を押さえ逃げ出した。


「トラヴィス、大丈夫?」

「くっ、こんくれー平気だよ」


 だが、人体の頭部には血管が多く走っているので想像以上に血が出るものだ。トラヴィスは自分の手を浸した血液の量に動転し、歯をガチガチと鳴らしはじめた。


 こうなると人間の意識は怒りか恐怖に傾くものだ。


「ンの野郎。許さねぇぞ」

「ちょっとトラヴィス。傷を治さないと」


「そんなもんはあとだ! ゴブリンどもは全員ぶっ殺す!」


「きゃっ」


 突き飛ばされたソニアは壁に背中を打ちつけ苦痛で顔を歪めた。同時にトラヴィスは突出し、ひとりゴブリンを追って洞窟の奥に消えてゆく。


「あの、早く彼を追わないと。ひとりじゃ危険すぎます」


「あたしらの陰に隠れてたくせにデカい口叩かないで!」


「そんな……」


 カッとなったソニアはクリスティーンの言葉をすべて否定的に捉え激しく詰った。


「ソニア、落ち着いて。とにかくトラヴィスをこれ以上独りにできない」


 ニーナが青ざめた表情でそういった瞬間――。


 クリスティーンがぞわりと背中を震わせ振り返った。


 激しく吠えながら無数のゴブリンが大挙して背後から襲いかかった。


「なんで? どこから来たっていうの?」


 闇の中から無数と思われるゴブリンたちが手に手に得物を持ってまっしぐらに突撃して来る。


 不意を衝かれた。

 完全なバックアタックだ。


 こうなると魔術師と僧侶しかいない後衛は対抗する術がない。


「ファイアボール!」


 反射的にニーナが詠唱して火球を繰り出した。


 バレーボール大の火の玉は迫っていた一匹のゴブリンに当たるとボッと燃え上がって暗い洞窟を一瞬だけ真昼のように照らし出す。


 その光景に、一同は心を折られた。


 後方の道を埋め尽くさんばかりに現れたゴブリンの数は数十とも数百とも思えた。


 絶望が一同の意識を染め上げた。



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[良い点] こうなっちゃったか はやくきてくれ~アタミw [一言] こいつら生き残ったら伸びるな 生き残ったら・・・
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