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第6話 回復魔法の奇跡

「ええと、大変申し上げにくいのですが、ルベル様、あなたを当ギルドに入団させることは難しいかと」



 受付嬢の言葉に、まあそうだよなぁ、と俺はうなだれた。



 クビになったギルドがあるライトナムには当分行けそうにないと踏んだ俺たちは、そこから一番近い街『ティリッジ』のギルドに来ていた。



 ティリッジは治安の悪い街であまり近寄りたくはなかったが背に腹は代えられぬ。逆にこういう街であればギルドに入れるかとも思ったがそうはいかなかった。



 高望みをしていたわけではないので、街一番などではなく、ふっつうのどこにでもありそうなギルドを選んで入団手続きをしようとしていたのに、このざまである。



「どういうことですか!」

 服を新調したシャノンが食ってかかる。

 暗い赤のワンピースだが、ズボンをはいている。冒険者としてどうしてもズボンは譲れないらしかった。



 受付嬢は困惑した表情でシャノンを見る。

「ルベル様は魔法も剣術も使えませんし、スキルも戦闘向きではありません。失礼ですが歳も歳ですし。我がギルドとしましては即戦力になる方、もしくは、まだ若く今後戦力になることが望まれる方を入団させる方針でして……」



 歳も歳……。歳……。やはりそこがネックだよなぁ。

 くそぉ。

 俺は心臓を抑えうなだれた。



「ルベル様大丈夫ですか」

「シャノン様はお噂もよく聞いていますので、ぜひ入団していただきたく存じます」

 受付嬢は笑顔で言った。



 俺は今傷ついてんの! 見てわかるでしょ! いたわって!



「わかりました。帰ります」



 俺はうなだれたままギルドを後にした。



「もうだめだ。どのギルドにも入れないんだ」



 あの後、ティリッジで一番のギルドにも行ったが案の定同じような対応を受け、さらに心に傷を負った28歳男児は、ふらつきながら街を徘徊していた。



「もういいよ、シャノン一人でギルドはいれよ」

 彼女はどこでも歓迎され、入ってくれたらお金あげるとまで言われていた。

「いやです!」

「頑なだなぁ」

「やはり、新しくギルドを作りましょう。それしかありません」

「うぐぐ」



 うなったところで金が出てくるわけでもなく、俺のギルドが新しく用意されるわけでもない。



 ふらふら歩きすぎて路地裏に入っていたらしい。治安の悪い街のさらに治安の悪い暗部。陰湿でかび臭く暗い道が続いている。狭い土地にこれでもかというほど建物を建てるからこうなるんだ。時折糞尿のにおいまでする。猫が死んでいる。



 道の端のほうに座り込んだ女が俺を見上げる。

「どうかお恵みを」

 彼女は両腕を失っている。俺に肘から先のない腕を差し出す。頬に大きな傷跡がある。



 俺は大銅貨を数枚、彼女の脚の上に置いた。

「ああ、ありがたい。神のご加護がありますように」

 女は地面につけるほど頭を下げた。



 しばらく歩くとシャノンが尋ねた。

「いつもああやって大銅貨を渡しているんですか」

「あれは廃業者だ。腕とか脚とか失って、続けられなくなった冒険者の末路だよ。もし自分がそうなったら、誰かに恵んでもらえるように祈って渡してんだ。まあ、もう俺冒険者じゃねえけど」



 シャノンが立ち止まる。耳をそばだてている。



「何か聞こえますね」

 シャノンの言う通り、すぐそばで誰かが襲われているような声がする。



「きたねぇ物乞いが! 道の邪魔なんだよ!」鈍い音がして、男のうめき声、咳の音がする。

「こいつ吐きやがった。靴が汚れんだろうが!」



 シャノンが走り出す。ドレスだというのに、鎧を着ていないからか、すごい速さだ。

 路地裏だし、治安悪いんだからよくある話だろ、と思っていた俺はシャノンの行動に驚き、一歩で遅れながらも後についていった。



「くそが!」



 彼らの姿が見える。冒険者の若者が二人、物乞いの男を見下して、蹴りを入れている。物乞いの男は足がなく、切断面には汚れた布が巻かれている。



「やめてください」無い足をかばいつつ、うつぶせになった物乞いを容赦なく踏みつける。



 若者の一人が剣を引き抜いた。俺は心臓が委縮するのを感じる。

 恐怖、それは暴力に対するものというよりも、理解できない感情に対する恐怖。

 どうしてそこまでする。

 ただ、道に座っていただけだろ。

 眼前に広がる景色の違和感に足が止まる。



「おい! やめろ!」シャノンが叫ぶ。彼女は走り続ける、がすでに遅い。



 若者は剣を突き出す。

 物乞いの絶叫。

 胸を突き刺され倒れこむ。

 口から血を吹き出して痙攣する。



 二人の若者は俺たちの姿をみて「ヤバい」と叫んで、逃げていった。



 シャノンが二人を追いかける。



 俺は物乞いの男の周囲にダンジョンを生成した。



《ダンジョン生成》

 1階層 

 入場者 1人

 ダンジョンへの入場 可

 魔物の出現 なし

《ダンジョン生成 完了》



 路地裏がダンジョンとして設定される。



 間に合うか。



 駆け寄る。男は俺の目を見て、口をパクパク動かして血を吹き出し、()()()()



 《ダンジョン情報更新》

 死亡者 1人



 ()()()()()



 俺はダンジョンに入り、物乞いの男に触れる。

 回復魔法

 胸に空いた穴がふさがる。

 ここまでは俺の予想通り、しかし、



「嘘だろ」



 物乞いの脚に巻かれた布がほどけ、2本の脚がまっすぐ生えてきて、完全に体を取り戻した。



 男が目を覚ます。体に触れていた俺の顔を見上げ、体を起こす。



「俺は……。!!」



 物乞いの男は傷を探すように何度も胸に触れていたが、自分の脚が戻っていることに気づくと固まった。

 彼は霧に触れるように、慎重に指を伸ばして脚に触れ、そこに実体があることに驚いて一瞬手を引っ込めた。



「俺の脚が……」

 今度はしっかりと両手で膝のあたりを触る。脚をまげて、脛に触れる。



 男の目に涙が浮かぶ。



「……俺の脚。脚がある! 奇跡だ!!」



 男は俺に縋りついた。



「あなたが助けてくれたんですよね! ありがとう! ありがとう! あなたは恩人だ……」

 男はむせび泣いた。



 おい、まて、俺の回復魔法は胸の傷を治す程度だったはずだ。なぜ脚まで生える。



「これで冒険者に戻れます。ありがとう! ありがとう!」



 男は感謝し続けたが、俺は自分の魔法に困惑していた。

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