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第3話 ギルドのエース

 目を覚ます。



 ここはどこだと思ったら自分の持ち家だった。

 近くの農場で飼っている雄鶏が鬨の声を上げ朝が来たことを馬鹿みたいに喜んでやがる。



 俺はというと頭を押さえて起き上がり、二日酔いにぐったりしながら、どうやって帰ってきたんだっけと思いをはせ、ぼーっとする始末。全然思い出せん。帰巣本能、素晴らしいな、マジで。



 せき込んで立ち上がる。いつの間にか頭の中に入り込んだ鐘が鳴りやまず頭痛がするのに、雄鶏が追い打ちをかけるように喜びの声を上げる。うるせぇ馬鹿野郎、トサカ切り裂いて雌鶏にするぞ。



 文句を言いながら、井戸で水を汲んで浴びるように飲み、顔を洗うと、昨日酒場で会話をしたシャノン・クレメントが誰であるか思い出した。



 ギルドのエースじゃねぇか。



 ギルドに所属した瞬間クエストを大量に消費し、一気に稼ぎ頭になった冒険者。ギルド長のカインが目をかけ、鎧、剣の発注まで負担するほどの優遇を受けている。



 そうかそうか、と思っていると、玄関の方で扉をたたく音がする。朝から何用じゃい。俺は首に布をかけ上半身裸で玄関に回り込んだ。



「あ、おはようございます」


 (くだん)の女性、シャノンが鎧を来た冒険者然とした格好で立っていた。

 女性に対して上半身裸で対応するのはないわ、と思ったが、それは男性に対しても同じであり結局のところ俺が悪いのだけれど、



「タイミングが悪いな」と人のせいにする。



「すいません」


 シャノンは顔を赤くして目をそらした。

 別に腹が出ているわけでもなし、これでも冒険者を昨日までやっていたので体は鍛えているつもりだけど、人に見せて悦に入る趣味はない。



 俺は、待ってろ、とシャノンに言い置いて家に戻り、適当に身支度を整えてから、彼女を家に通した。

 ほとんど家具のない殺風景な部屋が一つ。街にある宿のほうがまだ物がある気がする。

 テーブルに着くなり俺は尋ねた。



「なんで俺の家がわかったんだ」シャノンは首を傾げた。

「昨日ここまで肩を貸して送ってきたのですが、覚えていませんか?」



 俺はうなだれた。何が帰巣本能素晴らしいだ、あほたれ。人に迷惑かけて帰ってきてんじゃねぇか。



「ああ、それは、すいませんでした」

「いえ、かまわないのですが」



 たぶん俺の顔は耳まで真っ赤になっていることだろう。



「それで、なんで今日はここに来たんだ」あまりの恥ずかしさに話をそらした。

「私と一緒にギルドに来てほしいのです」

「俺はギルドをクビになった一般人だぞ。いまさら行って何になる」

「何も聞かずいっしょにきてください」



 ああ、わかったわかった、そう言うか言わないかで、彼女は俺の腕をつかみ立ち上がらせた。



 ものすごい力だ。さすがギルドのエース、これなら筋肉だるまのオークだって一刀両断できるに違いない、と思いながら、俺はずるずる引きずられ、家の外に出された。



 もしかして昨日俺の家まで送ってきたときもこうやって引きずられてきたんだろうか、心なしか靴底が減っているような気がする。



「歩くから引きずるのをやめろ」

「はい」といきなり手をはなすもんだから、俺の体はしたたか地面に打ち付けられた。



「あ、すいません」俺は立ち上がり服の裾を払ってため息を吐いた。

「ギルドに行くんだろ。じゃあ、わざわざ歩かんでもいい」



 そう言って俺は右手を前に突き出して、スキル《ダンジョン生成》を発動した。

 カインは俺を嫌っていたからか、スキルの内容にまったく興味がなかったらしい。

 《ダンジョン生成》は魔物がわんさか出てくるダンジョンという場所を生成するだけが能じゃない。



 俺の目の前に扉が出現する。木製の扉で、わずかながら装飾が施されている。



「なんですかこれ」

「俺のスキルだよ」



 俺は扉を開いてシャノンを押し込むと、中に入る。革でできた靴が土を踏む。頭の上すれすれに岩でできた自然の天井があって、出口まで道が続いている。洞穴といったところ。



 ダンジョンは一度作ってしまえばどこからでもアクセスできる、という大変便利な機能を持っている。



 俺はこの機能に気づいたとき、いくらでも寝坊できるじゃねぇかと嬉々として、次の日二度寝をしたところ、遅刻して上司から怒られた。



「ほら行くぞ」

「扉が……」シャノンの視線の先にあった扉はすでになくなっている。

「気にすんな」手をひいて、シャノンを外に連れ出す。



 洞窟の外に出ると草原が広がっていた。



 手をつないだままだったことに気づいて、「ああ、すまん」と離した。



「いえ、かまいません」シャノンはそういって自分の手をさすっている。

「あんなダンジョンあるんですか。洞窟……というより斜面に空いた穴見たいですが。あんなの見たことありません」

「それも俺のスキルで設定したの」

「そう……ですか。あの、ここってどこですか」



 シャノンは首を振ってあたりを確認する。



「ライトナムの近くだよ」



 『ライトナム』はここら一体ではそこそこ大きな街である。年に何度かでかい市が開催され物流の一端を担っている。俺の務めていたギルドもそこにある。



 シャノンをここまで送った後、勝手に帰ろうかと思ったが、また引きずられるのも面倒なので彼女についていくことにした。



 もしかしたら、シャノンは俺のクビ撤回を求めてギルド長カインに直訴してくれるのかもしれない。そうだ、そうに違いない。ほかにどんな理由があって俺を連れてギルドなんぞに向かうのだ。



 そんな淡い期待のもとだらだらと歩き、門を潜り抜けライトナムに入った。



 店たちはすでに営業しており、戸を縦に開いてテーブルのようにして、そこに品物が置いてある。ガキどもが走り回り、教会の鐘が鳴り、どこにでもいる鳥が驚いて飛び立っていく。



 ギルドの建物にたどり着く。営業時間中、常に扉が開いていて、誰でも歓迎するぜ的な雰囲気を醸し出している。俺のこと拒絶しやがったけど。



「さあ行きましょう」



 シャノンが建物に入る。俺は少し躊躇してから石造りの建物に入って行った。



 昨日まで毎日来ていた職場なのに、なんとなく、居心地が悪い。居心地が悪いのは働いていた時から感じていたが、それはカインの嫌がらせのせいであって、今感じているのはそれとは異質のものだ。



 俺の姿を見た冒険者たちがひそひそと話を始める。たぶんクビになったやつが何しに来たんだとか、クエストを頼みに来たんだろ、ははは、とかそんなことを話しているんだろう。俺は眉間にしわを寄せて、早く帰りてぇと思っていた。



 シャノンはちゃっちゃか受付嬢のところに歩いていく。



「ギルド長にお話があります。取り次いでください」



 よく通る声が建物内に響く。冒険者たちはシャノンを一瞥して、すぐに自分たちの会話に戻っていく。



 ああやはりそうなのだ、俺のクビを撤回するよう申し入れをしてくれるのだ。何とできた部下だろう。と感激していると、



「私はギルドを辞めます」




 

 シャノンは口走った。

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