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第2話 エールに浮かぶハエ

 ギルドから出た後、俺は完全に気持ちを切り替えて、どんな職に就くか考えていた、

 わけもなく、完全にブチギレていた俺は酒場で悪酔いをしていた。まずい酒だった。木製のコップにエールがつがれていたが、しばらく放置されて、中でハエが死んでいた。



 くそぉだの、ちくしょうだの声にならない文句を言いながら、礼儀正しく大声も上げずに、木のテーブルに突っ伏して、頬に木目をつける遊びをしていた。押し付けながら揺らせばよく跡がつくかなぁ、とかそんなことを考えていた。



 リストラされたおっさんの成れの果てである。いやおっさんではないんだけどね。まだ28だし。いや、おっさんかぁ、と少しブルーが入った。



 冒険者たちが本日のクエスト成功を祝いどんちゃん騒ぎをしている中で、俺一人うだうだしているもんだから、俺の周りには微妙な隙間が空いていて誰も近寄らず、そのうちカビが生えてきそうだった。



 そんなことをしていたところに、声をかけられた。声は凛としてよく通り俺が開けていた隙間に苦も無く入りきる、そんな力を持っていた。



「あの、ルベル・ラムゼイ様ですか?」



 べりべりと音がしそうなほど貼り付いた頬をテーブルからはがし、案の定、木目の跡が赤くついた頬を見せながら、半開きの目で、声の主を見た。



 声の主は女性で、長いブロンドを肩のあたりで切りそろえ、前髪も眉のところでまっすぐにそろっていた。釣り目で、宝石のような緑色の瞳が力強く輝いている。エルフとの混血ではないかと勘繰るほどには美人だった。



 鉄の鎧を着ており、たぶん前線で活躍する剣士だろうなぁと考えた。



「ええそうですよ、ギルドをクビになった、ルベル・ラムゼイですよーっと」



 いらん情報をつけつつ、自虐をつけつつ、完全に面倒なおっさんに成り下がっていた。俺がうだうだと陰気な雰囲気を醸し出しているにも関わらず、剣士の女性は背筋を伸ばしてピンとして、俺の向かいの席に座っていた。



「どうしてギルドをクビになったのですか」

「さぁねぇ、邪魔だったんじゃない? 今のギルド長、先代と仲悪かったしー。先代に目ぇかけてもらってたからね俺、不愉快だったんでしょ昔から」



 俺が魔王討伐に向かう前、カイルはまだギルドの一メンバーに過ぎず、俺や勇者に会うたびに睨んでいたのを思い出す。あの頃からどうやって痛めつけてやろうか考えていたんだろうな。



 木製のカップにつがれていたエールを飲み干そうとして、ハエが死んでいるのに気付き、せき込んで吐き出した。口を拭いながら尋ねる。



「てか、君、誰?」

「あ、申し遅れました。私、シャノン・クレメントです。ルベル様と同じギルドに所属しており、遠征時には前衛を担当しております。パーティは特に決まったところには所属しておりません」



 シャノン・クレメント? 

 どっかで聞いた名前だなぁ。ああ、酒が頭の中をぐるぐるしてきて思い出せんわ。胃の中までぐるぐるしてきた気がするわ。うえぇ、気持ち悪い。



「ルベル様には以前命をお救いいただきまして、大変感謝しております」



 そういってシャノンは頭を下げたが、ええ、そんなことあったかなぁ、覚えてねぇわぁ、と俺。記憶の海は何やら霧がかかって進行不可能であり、適当に、



「ん、そおかあ」と答える。



 シャノンは気にする様子もなく、前かがみになって尋ねる。



「あの、ルベル様。今後はどのギルドに所属するおつもりでしょうか」

「んーギルドかぁ」



 俺はまたテーブルに突っ伏して、今度は逆の頬で木目をつける遊びを始めた。



 その話はしないでくれ、ほんとに、先が思いやられる。できることなら消えてしまいたい、と思いつつ、目の前のシャノンが真剣なまなざしで俺の答えを待っているもんだから後にも引けず、俺はいつの間にか口走っていた。



「新しく作るかぁ」



 この時の俺は完全に酔っていました、ええ、もう記憶ないくらいに酔ってた。うそ、しっかり覚えてる。



「本当ですか!」



 なぜか歓喜するシャノン。俺が突っ伏しているのに彼女が前かがみになるもんだから、ほとんどシャノンが俺に覆いかぶさっているような状況。



「おおほんとだともぉ」



 …………。

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