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第1話 クソギルド長にクビにされる

 ギルド長――カインに呼び出された俺は、ギルドの建物内にある彼の部屋に来ていた。

 贅の限りを尽くした部屋である。


 

 何に使うのかわからない黄金の牛が壁際に置かれている。背中の部分がすり減って中の黒くくすんだ金属が見えている。



 どうもカインはずるがしこい商人の口車に乗せられるままに中身まで純金製だと思って購入したようだが、毎日意味もなくその背に座って、ああいいもんだなぁと感慨にふけっているうちに、やつの尻でメッキがはがれ、偽物の鉄が現れたとのこと。



 憤慨した彼は商人を見つけ出そうと冒険者まで使ったがが見つけることはできず、枕を涙で濡らしたそう。



 そんな感じで、贅の限りを尽くしているくせに見る目がないカインの部屋は、おそらくほとんどの置物が偽物であろうと思われる。彼自身は本物だと信じているようだけれども。



 「俺は貴族だ」が彼の口癖であるが、どっからどう見てもクソド平民であることは間違いない。



 貴族には貴族然としたオーラがある。それは幼少期から教育された振る舞いであったり、身に着けているものから漂うセンスの良さであったりするわけで、ガキの頃は鍬を振るい、でっかくなったら剣を振るい生きてきたカインにそのオーラは全く見られない。



 ギルド長にしては若く、おそらく30代前半であろうと思われる。まだ白髪にほとんど縁がないブロンドを後ろになでつけ、釣り目で、えらが張っている。



 魔王を討伐し、俺が戻ってきたときには、世襲でギルド長になっていたカインであるが、元ギルド長に当たる親とは全く性格が異なる。亡くなった元ギルド長は俺に対してもギルドの新人冒険者に対しても目をかけていたし、ギルドのためを思えば身銭を切るほどの人格者であった。



 カインは違う、前述したとおりのクソである。



 で、そのクソド平民ことカインは分厚い天板の高級な机に足を組んで乗せ、口の端をまげて俺を出迎えた。中身もクソなら態度までクソである。



「やあ、ルベル。わざわざすまないね」

 足を下ろして、革張りの椅子に深く座りなおす。

「いいえ、かまいません。なんでしょう」



 俺は奴をだました(くだん)の商人のようにへーこらへーこらして、にやにやと笑いながら言ったが、心の中では早く要件を言え、てめぇと同じ空気を吸いたくないんだよ、ろくに仕事もしねぇドラ息子が、そう思っていた。



 矢先、



「言いにくいんだがな、君をクビにしようと思う」

 いかにも、平然と、彼は言った。



 頭の中で何かがぶつんと言った。はあ、何言ってんだこいつは。俺の商人笑顔がひきつる。



「今なんと?」


 と聞き返すとカインは机の上にあったろくに使いもしない羽ペンをとって、その羽の部分をむしりながら言った。



「だから、君をクビにすると……」

「なぜですか!」



 机まで詰め寄る。冗談じゃない、てめーが出ていきやがれ。俺がどんだけこのギルドに貢献してると思ってんだボケ。



 カインは両手を上げて、まあ落ち着けよとでもいうように揺らした。



「以前のギルド長から君の話は聞いているよ。君の活躍も、魔王を倒した伝説の勇者が率いるパーティの一員だったこともね。でもそんなの過去の栄光だ」



 は! 国からもらった俺の魔王討伐懸賞金を9割持って行ったやつがよく言う。

 ギルドのために使うとかなんとかぬかしやがって、結局自分で使い果たしたじゃねぇか。この部屋だってその金で装飾されているようなもんだろ。しかも騙されてやがる。



 しかし、そうは思っていても、俺はいまだ仮面をかぶり続ける。ブチギレて出ていけばいいじゃないかって? そうはいかないんだよ。



 俺はもう28だ。魔王を倒してから何年たってると思ってる。8年だぞ。

 その間俺が何をさせられてきたか。うだつの上がらない新人の教育とろくに活躍できない後方支援だ。



 いまさら現役に戻るのは無理だ。俺は使いつぶされたんだよ、カインに。

 他のギルドが俺を拾ってくれるとは思えないんだよ。



 先代のギルド長には、魔王討伐の暁には役職をやると話をされていたが、彼が亡くなり、カインが職を引き継いだあと、その話はなくなった。俺は新人教育係を押し付けられた。



 カインは俺を憎んでいた。先代のギルド長に特に目をかけてもらっていたから、それだけの理由でな。仕返しのつもりらしい。



「今だって新人の教育や、遠征の際の後方支援を行ってギルドに貢献しているじゃないですか!」



 案の定、俺の言葉にカインは首を振って、言った。



「ギルドに必要なのは結果だ。パーティを組んでいない君に戦績はほとんどない。皆無といっていい」

「それは……」

「そもそも君のスキルも魔法も無能なんだよ。一日に4回しか使えない回復ヒール。魔族が持っているようなスキル《ダンジョン生成》、ただ魔物が沸く練習施設を作るだけで、何の役にも立たないスキルだ。新人の練習はゴブリン討伐で十分なんだよ」



 カインはため息を吐くとつづけた。



「本当に疑問なんだが、よくそれで勇者のパーティに入れたな。言いたくはなかったが、……まあ、すでにギルド内でも噂になってはいることだがなぁ。ルベル、君はただの荷物もちで、彼らが嫌がる中、魚の糞のように勇者に付きまとっていただけなのではないか? 彼らの栄光のおこぼれをもらうために付きまとっていただけじゃないのか? 勇者たちが魔王を倒すまで陰で隠れ、相打ちになったところで魔王の一部を持ち帰り、あたかも自分もともに倒したかのようにみせただけなのではないか?」

「ちがう! 俺は……」

「いい! いい! 言い訳を聞きたいわけじゃない! とにかく、君はこれからも結果を出せるとは思えないんだよ。そんな人間をギルドにおいておくわけにはいかない。先代との親交と伝説のパーティメンバーだったという理由で少なからず給料を払っているが、慈善事業じゃないんだ。結果がすべてなんだ。わかるだろ?」



 カインはほくそ笑んだ。

 腸の煮えくり返る、腐った笑みだった。



「新人の中でも不満を持っている者が多いぞ。君の作るダンジョンの魔物が弱すぎるとな。遠征時にも活躍で来ているのにまだこんなことをさせるのかと文句を言うものもいる」



 俺の耳に入った言葉が頭を素通りする。



 クソだクソだ言いながらこのギルドに居座り続けた。カインがギルド長になってから奴の私情で、私怨で、優秀な人間が何人も抜けていったのは事実だ。



 だが、いくら使いつぶされようと、先代がいたときに世話になったギルドに対して少しでも恩返ししようとしてきた。



 魔王討伐の報奨金を9割持っていかれたがギルドの発展のためならと我慢できた。



 役職に就けず新人教育を押し付けられたが、それだってギルドの未来を担う者たちの教育だと力を入れた。



 遠征時の後方支援だって、新人を指揮して物資を供給し、十分な補佐を行ってきた。



 それを、こんな形で無下にされるのか。



 そうか、

 ブチギレを通り越して、心は沈み、真っ黒になる。



「わかりました。クビですね。受け入れましょう」

「ああ、悪いな」



 カインはそういって、すでに俺を見ず、羽ペンに残った最後の羽をむしり取った。



 俺は戸を開け、部屋を出た。

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