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プロローグ

 アリヒダム暦1567年、大陸に現れた魔王率いる魔族の軍団が、人間、亜人の国々を侵略し、脅威となっていたころ、一組のパーティが魔王討伐を掲げ、旅に出ていた。



 彼らのリーダー、ザックは性格に難があったものの、大教会において幼少期に『勇者の加護』を授かった生まれながらの勇者であり、背丈ほどもある大剣を振り回してバッタバッタと魔族を切り倒し、魔王の住む城、ヴァイラスク城へと歩を進めていた。



 が、とあるダンジョンで……



「ザック! 死んでんじゃないわよ!」


 

 乳のでかい魔術師の女が叫んだ。

 ザック――だったものは魔物『ブラッドドラゴン』に腹をえぐられ数メートル吹っ飛んだのち、ダンジョンの壁にぶつかって、ずり落ちた。


 

 享年18。


 

 ヴァイラスク城はいまだ遠く、道程は半分も進んでいないのにこのざまである。特攻癖という難のある性格が故の死であった。



 『勇者の加護』を授かった勇者ザックよ、情けない。



 そもそも、勇者という称号は彼の場合、勇気ではなく蛮勇の勇者なのではないかと、パーティの中では何かと話題であった。



 勇者の冒険譚はこれにて終わり、












 となるわけはない。

 そんな冒険譚などくそくらえだ。



「ルベル!」



 頭に桂冠をつけたエルフの女が弓をつがえ、遥か上にあるドラゴンの目を狙いながら叫ぶ。



「はいはい! わかっとるわ!」



 ルベルと呼ばれた男が、ザックの死体へ走っていく。



 ザックの死体は見る影もない。腹は引き裂かれ何やらよくわからん臓器が飛び出している。舌も飛び出して、見る人を馬鹿にするような顔をしているが本人は必死である、というか死んでいるから責められたものではない。



 ルベルは顔をしかめて、一瞬嘔吐(えず)き、手をかざすと回復魔法の呪文を唱える。飛び出していた臓器が巣に戻る魚のように引っ込み、傷が治って、ザックはせき込む。



「ああくそ、死んだ」



 ふざけた顔に生気が戻り、ザックは首を振って立ち上がった。

 見事なものである。






 そんなわけあるかい、このアホが、と思われるかもしれないが待ってほしい。

 何も、彼は特殊な訓練をしています、絶対にマネしないでください、というわけではない。誰もが、ダンジョンという特殊な環境であれば、回復魔法の呪文によって生き返る。



 それこそ、さっき食べた昼飯すら思い出せないボケボケの老人だろうが、魔王を倒しに行けと命令しておいて食っちゃ寝、食っちゃ寝を繰り返すデブの国王だろうが、腹いせにぶっ殺したところでダンジョン内では生き返る。





 で、実をいうとザックが死んだのは3時間ぶり2度目であり、死という概念は彼にとってすぐ隣にあるものなのである、とかっこよく言いはしたが要するに、ザックは死に急ぎ野郎の馬鹿垂れなのである。



「今日はあと2回しか死ねねぇぞ」



 ルベルはザックに釘を刺した。回復魔法は一日に4回しか使えない。これはルベルの能力の限界である。



 4回以上死ぬとどうなるか、まあ簡単な話であって、彼らパーティがザックの死体を担ぎながら歩く羽目になるわけである。勘弁願いたい彼らは、ザックが死ぬたびに白い眼を向け、文句を言う。それにもかかわらず、



「わかってるわかってる」



 ザックは適当に答えると、背丈ほどもある剣を構え、ブラッドドラゴンのもとへ走っていく。



「ダイアナ! あいつの動きを止めろ!」



 ザックに言われた魔術師の女が文句を言う。



「やってるわよ、ばか! リリス、目をつぶして!」

「いま、やる」



 エルフの女が放った二本の矢は両目を一度につぶす。ドラゴンがこりゃたまらんと顔を背けうなりを上げる。巨大な頭が振り回され、仕返しとばかりに振り出された尾がダイアナを襲う。



 すでに詠唱を終えていたダイアナが氷結魔法でドラゴンの動きを鈍らせた。尾は空中で静止し、脚は地面に固定される。



 ザックはドラゴンの脚を踏み台にして跳躍、首を切り落とす。いいところを持っていくのが彼の常である。切り落とされた首が地面に落ち、ずずんと地鳴りを起こすと、ドラゴンは地面に溶けるようにして消滅した。





「おし、一仕事終わり」



 ザックは剣を振るい、血液を飛ばす。いい気なものでまるで自分一人で退治したかのように胸を張り、パーティのもとに歩いてくる。



「なんで特攻しかできないのよ! ルベルの回復魔法の回数無駄にしないで。時々ダンジョンの外でも特攻するわよねぇ。ダンジョンの外じゃ回復魔法使っても生き返らないの知ってますかぁ? ザックぅ?」



 ダイアナが腰に手を当てて、谷間を強調するように前かがみになって文句を言う。



「知ってますぅ」



 ザックはダイアナに向かって舌を出す。



「ルベルに感謝しなさいよ。今度やったら死んだままにして置いていくからね」

「それは困る。アンデッドになっちまう」



 ははは、と陽気に笑うとザックは剣を背負った鞘に戻し、歩き出した。



「先に進むぞ」



 そして急に場を仕切りだす。まあリーダーだから仕方がない、腐ろうが死のうが勇者だからな、というのがパーティメンバーの共通認識だが、その心の内ではこんちくしょうと思っている次第。



 彼ら四人が魔王を討伐するのはその数年後であり、伝説のパーティと呼ばれるようになるわけだが、



 この物語、主人公はザックではない!

 こんな馬鹿垂れを主人公にしてしまえば物語は崩壊する!



 これは日に4度しか使えない回復魔法と奇妙なスキル《ダンジョン生成》をもったルベルの物語。

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