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リゼの旅 下

 


「この金貨はとても珍しいものでね」




 この金貨を見た人の中で価値がわかる者は昔話を聞かせてくれた。星神に守られる前のこの世界はそれぞれの国がとても弱かったのだが、どこからかとても強い魔術師が三人現れて、八十八の国と星神との契約を交わした。それが終わると歴代の八十八の国王陛下が一つの国に集まりお食事会をしたことがあった。その時に永遠に続く平和を祈って記念硬貨が作られた。



 私には星神との契約は元々()()()()なのだから、どれも貴重なお話で全部覚えている。



 ある程度の資金が貯まり、私はあるものを見つけるために次の街へ移動しなくてはいけなくなった。店主は別れ際言ってくれた。「私と貴女はここでお別れだけど、私達が愛した世界は繋がっているから、永遠の別れではない」そう言うと手帳を取り出す。電話の受話器を取る。人生を歩んできた中で気が合い縁が続き続けた十数人の仕事仲間に連絡を取ると「もし、困ったことがあったら、彼らのお店に立ち寄ると良い」と、相手先に許可を取ってくれた。


 それでも、それでも、どの国にも、私が望む答えとは出会えなかった。もしかしたら、私が硬い鉱石だから出会えないのかと卑屈になり自身を恨んだ。いつしか、服はボロボロになり、野宿する日が多くなる。まぶたは固くなり、重く閉じようとすると、レイン様や店主の言葉を思い出した。そして、迷惑でなければと、店主の知り合いの店を訪ねた。卸屋、魚屋、酒屋、骨董屋……孤独で苦しくなった日。私は金貨を渡し、お店のすみの席に居座らせてもらう。どのお店の人も「こんな大切な金貨はいただけない」と、言われる。中には金貨を渡さない代わりに写真を撮る者もいた。そして、どこでも楽しそうな昔話を聞くのだ。


 先祖は星神に守られるようになってから本当に裕福になったと。金銭面ではまだまだ問題点も多いが、便利な力を使うことで人の心は豊かになった。人の心に余裕ができると他人にも優しくできる。


 そしていくつもの時間を過ごした後に私はまた一人に戻る。





 大切に手洗いをしていたワンピースも生地が薄くなった。金貨の使い道もなくなってしまったので、各地の街の人達に金貨を一枚渡す代わりに昔話を聞かせて欲しいと頼んだ。そして、それを記録し、万年筆を使って執筆し、たくさんの時間をかけて「竜の子守歌」という、物語を書いた。それを本の出版社に持っていくと、新人の担当者が目を通してくれたのだが、それが、まあ、超々長編だったので、次々に回し読みされた。連絡を一週間待ったあと、再び訪れると、一番偉い人に尋問を受けた。


 私の書いた物語は有名な作家さんに挿絵を書いてもらい、数年の歳月の末、児童書として出版された。思いがけないことにまたもや一人で暮らすには十分すぎるほどのお金をいただいてしまったのだが、記念と賞状だけいただいて、私はそれを全て匿名で国に寄付した。




 その時はもう、一人で見知らぬ地を二足で歩くことがこんなにも楽しいと思えた。夜が真っ暗だとは思わなくなった。月やベッドの柔らかな灯りが癒やしてくれる。大切な人がひとりいなくなり、次の年にまた、いなくなったとしても。一人で眠るの夜も、怖くなくなっていた。それは、私自身が硬くなったと言うよりもーー……。



 自身の心臓に手を当ててみる。私は硬い私の中にあたたかいものがあるのを確かに感じた。それは洞窟の中に湧いた泉のような。はたまた、砂漠から湧き上がる一滴の水のような。それは確かに私の中にあったのだ。そのことをお嬢様に伝えようと、では、遠い場所に行ってしまったあなたたちにどうやったらまた逢えるのかと。



 ……私はお嬢様と過ごしたレイン様のお屋敷で二人の帰りを待つことにした。






 ☆

 ☆

 ☆

 ☆

 ☆










 ……何百年ぶりだろうか、再びレイン様のお屋敷があったであろう場所に立つ。金木犀の木が風で揺れるとほのかに甘い香りが優しい時間を思い出してくれた。枝が揺れ、葉が落ち、私の髪を撫でる。この日の私もまた黒い服を身に纏い、別れを告げた人を思い出しては彼女の幸せを願う。私はひどく疲れていて、葉に埋もれ、その場で眠ってしまったーー……。




 いつの間にか敷地に植えられた金木犀の木は数が増えていた。



 今、私は国が管理する図書館の館長として働いている。ここにはたくさんの本が置いてある。今までたくさんの本を読んできて、この世界の仕組みを知った。世界は繊細で脆く、何百年経っても未だに未完成である。人はそれが愛しいと思い、次の人へと受け継いで行く。



 木曜日には赤ちゃんや子供相手に絵本の読み聞かせをする。たまに人形劇場やプロジェクターで上映会もする。


 「りゅうのこもりうた」は小さい子から大人にも人気がある本になった。月に数回なかなか眠れない小さな子を中心に親子でお泊まり会を企画する。館内の年齢ごとに分けて、その時だけは、お気に入りの毛布や枕、ぬいぐるみ、水筒、小食も許可した。


 なかなか寝ない子も星座のプロジェクターとオルゴールの音楽を聴くとだんだんと眠くなり、それでも起きている子は別室で他の子達とゆったりとした夜の時間を過ごした。


 中には日中に頑張りすぎて疲れている子もいたので、手芸をしたり、トランプをしたり、ただ同じ空間で同じ時間を過ごした。


 私は絵本を読んでいると、レイン様に絵本の読み聞かせをしていただいたことを思い出した。私は未だに魔法が使えない。だが、彼の言葉を思い出しては魔法の呪文のように呟くのだ。




「この世界は私たちが愛でた世界だからきっと好きになるよ」











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