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魔王様はチェスゲームがしたい

 


「悲しみ、裏切り、いくつかの災はもうすでに降りかかってしまった、この悲劇は止められることはできぬのか。ならば……せめて……」


 天秤に載せられた蝋燭の火は燃えていた。


 いくつもの試練を乗り越え、広い広間に通された私たちは、高価そうな絨毯の上を歩く。壁に並べられた蝋燭の灯りと大きな黒のシャンデリア。玉座に座るのは不服そうな表情の男。頭に生えた黒い角が二本とドラゴンのような尻尾、真っ黒な衣装に着替え、背中からは蝙蝠のような翼が生えている。黒のショートグローブで自身を隠し、不機嫌そうに頬に手を置く。袖の隙間からは皮膚に鱗が見えた。漆黒の長髪。彼は私と目があうと口角だけあげてほほ笑んだ。


「……さて、ゲームをしよう、クリスティナ」


「はいいいい!?!?」


 広間には黒と白のスクエアが並ぶ。お互い基盤の中央隅に立つ。私のすぐとなりにはネオが立っていた。


「君が勝ったらなんでも願いを叶えてあげる」


 ネオは、コレクションボックスを魔法で出すと、蓋を開け、中から星座たちを開放させた。星座はそれぞれ、兵隊、騎士、僧侶、戦車……と、り、私とネオを囲んで一直線に並ぶ。反対にレインは仲間を呼んだ。


 星座たちは矢で攻撃したり……。


「だいぶ強くなったな」


 レインは私の先手先手を行く。彼は何百年、何万年も人と戦ってきたと言う。彼の中には英雄との戦闘記録が蓄積されているのだろう。私がどう出ようとでも、負かされてしまう。あの台詞をはく前から勝敗は決まっていたのだ。……何戦しようとも。


「それならばこれはどうだろう」


 レインが右手をかかげると周りに霧がかかり、彼の姿は消え、基盤はどこまでも果てしなく広がる。


「これってチートってやつじゃない!?!?」


 私が前に進もうとするとネオに後ろから手を引っ張られる。白と黒のチェス盤だと思っていた、黒の空間には底が見えない穴に変わっていた。……ひいいいいいっ……!?!? ネオが手を引っ張ってくれなかったら、私、今頃、この中に落ちていた。……まさか……全力でころ……ーーしにきているわけじゃないよね……?????


「……クリスティナお嬢様の願いはなんですか?」


 ネオはいう。


 この乙女小説の終盤には仲間を集めた主人公が魔界に来る。主人公は魔王と戦うのだけれど、その時、勇者も王子も主人公も相当の傷を負う。そこは阻止して行末を、物語のハッピーエンドを側で見届けたいのだ。


 迂闊だった。ジュリエのことを思い、空想にふけっていると竜の姿になったレインのことを忘れていた。



 目の前の竜は笑った。

 そして、黒い仮面を被った人が一人立っていた。仮面には指でなぞって描いたような不揃いな金色の黒竜が描かれていた。


 人らしきものは頭から真っ黒なローブを被っていて手には杖と水晶を持っている。私が頭の中で「どなた?」と聞くと、それを見通したように「自分は七十二柱の悪魔の一人」だと言う。七十二柱の悪魔の話は学園で少しだけ学んだ。そのことを思い返すと、「ほう、随分と七十二柱の悪魔と八十八の星座について詳しいのだね?」と、聞き返された。そして、こちらに向けて杖から魔法を放出する。私は咄嗟に牡牛座の魔法で土の防御陣を張った。


 土の防御陣は小さな穴を開け貫通し、私の身体へと魔法がぶつかる。魔法の闇の光は蛇でも這うように足先から首元までぎゅうぎゅうと締め付け、私はその場に崩れた。ネオは私に近寄るが黒蛇の紋章が邪魔で手が出せない。仮面の人はその様子をじっと見ていた。




 私は元の世界のことを思い出していた。こんな私でも愛してくれていた両親と親友の妃彩ひいろ。あの頃の私は周りととけ込めず孤独だった。授業の成績が決して良いというわけでもなく、どこかに隠れた才能があるわけでもなく。妃彩といれればそれだけで良かった。私に足りないものを持った彼女に依存していたのかもしれない。そして、彼女に好きな人が現れた時酷く取り乱した。私は恋愛なんてできないと思っていたから、彼女との距離がずっとずっと遠く、本当の独りになってしまったような気がしたのだ。


「それが貴女の秘密か」


 その言葉とともに魔法が解けた。


 私はおぼろげな瞳で仮面の人が持つ水晶を見つめる。


 水晶の中で牡牛座と乙女座の星神が手を取っていた。そして親友の奪還と天秤を奪いに来ると。水晶には映った竜は大粒の涙を流した。涙が雨になり、天秤が傾く。竜は雨に打たれうめき声をあげていてーー……。


 ……私は四辺のブロックの中に囚われた。


 




 レインは「次」と言う。そこには複数の動物が一つの体に混じった禍々しい悪魔が現れた。

悪魔もまた黒い仮面を被っていて表情は見えない。これまた仮面に描かれた金色の竜が見えた。



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