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魔王様と悪役令嬢の婚姻生活(ノロケバナシ)  作者: mayme
幼少期・お屋敷編
32/51

お嬢様学園へ通う2


 城下町フラワーエデン。

 花の都と言われる色彩豊かなこの街は王が住む城の真下にある。


 金色の背の高い鉄格子の前には鎧を被った難いのよい門番なんかいて、背中に背負った重たそうな剣。……剣? それで一体誰を殺そうって言うの?


 一輪の真紅の薔薇のような朱色が美しい制服。左脇腹から太股にかけて大胆にデザインされた黒の十字架。胸元の赤いリボンには黒い糸で薔薇の刺繍が施されていて。後ろから荷物を持ってきてくれたリゼは私の名前を呼んだ。


 「ローズクリスティナお嬢様。……こほん、ローズ様」


 学園に通う条件として誰もに本来の名前を知られぬように学園名で通うようにとレインから言われた。何やらいろいろな事情で本来の身分や名前を明かさずに通っている者も多いという。


 ここにはお金持ちのお嬢様やお金持ちのお坊っちゃんの他にも位の高いものが通う。本当に身分を明かさないものほど恐ろしいものはない。例えばーー王子様とかね。



 正門は門番の場所なのだが、私は裏口入学故に学園から許可を頂いて裏手側からひっそりと侵入した。


 長い長い新緑のアーチの先はこれから通う校舎への近道になっているらしい。途中にある噴水広場。小さなガラステーブル。下見に来たときにお嬢様たちがお忍びでテーブルを囲んでお喋りをしていた。


 何でもブルーバードの通り道とか勝手に名前をつけていたらしいけど、校舎への近道おそらくその程度のことだろう。幸運の青い鳥とは随分盛った話である。

 ……そう、思っていた。


「ジュリエ様」


 ーー……ジュリエ?


 白地に描かれた金の十字架。胸元のリボンには百合の刺繍。そよ風で揺れる腰まで伸びた猫っ毛の緩いウェーブ。


 白い手袋グローブを付けた指の先には小さな小さな蝶々が止まっていた。指差す先にあるのは満開の紫陽花。蝶々を驚かせないように静かに紫陽花の葉へ蝶々を渡らせた。


 ……ガチャン。


 私は目の前の美しい女性に目を奪われて、出口に置かれていたプランター気づかず足を引っ掻けてしまった。プランターは横になってしまい、土がこぼれ落ちる。


 ーーやばっ!!!


 物音に気付き、長い睫毛の美少女はこちらを振り向く。

 

 ーー妃彩ひいろだった。


「ジュリエ様。屈むと制服が汚れてしまいます。お止めください」


 後ろ手にはやはり私と同じようにお付きのものが一人お世話をしていた。ジュリエは真っ白なレースの手袋グローブを外すと制服のポケットから小花柄のハンカチを取り出した。

 そして、あろうことか私の膝に付いてしまった泥をハンカチで拭った。妃彩の背後では悲痛な嘆きが聞こえる。


「あなた名前は?」


 ーーお付きの者が私の名前をたずねる。


「ローズクリスティ……いえ、ローズ。ローズよ」


「この方はシュガージュリエッタ・グレイシー」


 ーーええ。あなたのことは十二分に存じ上げておりますとも。

 

 ーーあなたはこの乙女小説のヒロイン。そうね、ここからは小説の中盤に話が繋がるのかしら。心ときめく薔薇色の展開にまたまたまたまた突如現れたお邪魔虫の悪役令嬢わたし

 ジュリエが王子様と学園で再開したあと、ライバル役の悪役令嬢と鉢合う。ジュリエ視点では「ぜひ仲良くしたい」との想いだったはずだけど、これが運命の棘のある茨へと続いて行くのよ。

 

 ーーでも、こんなに展開が速いだなんて完全に油断していたわ。


 悪役令嬢はそれまでラブラブだった王子とジュリエを邪魔して邪魔して邪魔して……。二人の縁談は中断、あろうことか婚約破棄に。

 それが原因で私はえげつない仕打ちを受け、ああーー……そんなこと。この身が滅びようとも、()()可愛らしい妃彩に出来ない……っっっ!!!


 妃彩はお付きの者に無理やり引っ張られて、手を十分に洗浄されたあと、校舎へと引きずり込まれるように連れ去られてしまった。

 その様子をニッコリと微笑みながら手を然り気無く振って見守る。


 ーーなんとか、二人の邪魔をせず、なるべく関わらないように遠くから密かに彼女の成長を見守らなくては。


 王子との鉢合わせなんて冗談じゃない。先手先手を打って、何とか回避する方法はないのかしら。そうね、一先ずあまり目立たないように学園生活を過ごさなくては。


 鐘が鳴り、誰もいなくなった園庭をぐるりと見渡す。

 

 新緑のアーチの先には緑と花が溢れる花園となっていた。

 中央の噴水に木陰のベンチ。晴れた日には芝生の上にブランケットを一枚敷いて、サンドウィッチを持ち寄ってピクニックだって楽しめそう。

 色とりどりの可愛らしいポーチュラカに花壇に植えられた色とりどりのジニア。風が吹くと花の匂いに包まれる。


 ーーこれからどんなことがあっても大丈夫。だって私は。

 この乙女小説を何度も繰り返し熟読した乙女女子なのだから。



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