クラス発表
一の一組、華月美夜。……一組のクラスには妃彩の名前はなかった。そして二つほど離れたクラスに名簿に妃彩の名前があった。
「どうしょう、美夜。私、一人でも友達ができるかな……?」
そう言ってても大丈夫。妃彩のクラス名簿には同じ中学校から来た子がいるし、それも、妃彩は人見知りだからあんまり自分から話しかけたりすることはなかっただろうけど、あの子らは人を悪く言う子達じゃないこと、私が知っている。
ユリにカスミ。確か、中学一年で同じクラスになったことのある子。ユリは他のクラスにもたくさんの友達がいる程に明るくて、それでいて、誰とでもすぐに打ち解け仲良くなれる子。カスミも大人しいけど、周りを凄く良く見ている子で、あの子の口から悪口なんて聞いたことはないし、面倒見の良い子。名字からして、妃彩の近くだから仲良くなれるチャンスは自然とあるはず。
うわさをすればクラス名簿を見つめてるのは、あの二人だ。
ーーさぁ、妃彩。声をかけるのよ!!
「美夜ーー……」
ーー妃彩、怯んじゃだめよ! そんな、子猫のような潤んだ瞳で見つめられたって私には何も出来ないわ。……ううん。あなたが望むのなら、私は。
私は震える右手を左手で隠してユリとカスミの側に近寄った。
「あなたたち、妃彩と同じクラス? 悪いけどこの子の面倒、私のかわりに見てくれないかしら?」
ーー私のどアホ。腕を組んで仁王立ちでずうずうしくも、掃除当番で「私は箒やるから」くらいしか話した事のない二人に厚かましく命令をする。
二人は少し困惑した表情をしていたのだが、睨み付ける悪魔の後ろから、ひょっこりと顔を出した美少女に心を奪われる。そのギャップがまた良かったのかも知れない。……いや、彼女らの本音はーー……。
「私、妃彩ちゃんと話をしてみたかったの」だった。
「そう、良かったわね、妃彩。じゃあ、私は行くわ」
ーー何となく、何となくわかっていた。
中学の頃から妃彩に声をかけたいと思う子がいたことを。隣の席の男子。後ろの席の女子。同じ班になったグループの子。私が後ろの席で見張っている(大きな誤解)と思い、迂闊には声をかけられないでいたことを。その悪の手から解放された可憐な美少女。妃彩。あなたなら大丈夫。
あなたが気づいていないだけで、私から離れて廊下ですれ違うひとたちが、二度、三度見しているわ。
「美夜、ありがとう。帰りは一緒に帰ろうね?」
然り気無く私の方を振り向いてくれて、小さな手を左右にひらひらさせる。私から見ても……。
ーーかわいい……っ!!!
私はその場に一人だけ取り残され、去っていく天使を見守っていた。現実を知らせる鐘が鳴る。
「問題は私の方なのよ」
再度一組の名簿に目を通す。同じ中学校から来た子はいるものの、性格に若干難がある(私が言うのもアレだけど)あたりがキツイ子ばかりだった。
それならそうと私は開き直り一人で過ごそうと思った。正直、面倒な喧嘩に巻き込まれるくらいならば、机で本を読んでいた方がマシーー……。
クラスに入って、少しずつグループができつつある中で私は自ら「一人」の道を選んだ。
そう、そう言えば今日は気になっていた乙女小説の発売日だっけ。乙女小説の中でもコアな部類、アマチュアの人が書いたネット小説が文庫本になったやつだから、書店には並ばないんだよね。
アマチュアとは言え、中学の頃からお気に入りユーザーだった人の念願の文庫本。それも、毎週深夜0時に更新されるのが楽しみで、ブックマークしていた作品だから絶対にほしい。
妃彩を送った帰りに、あまり目立たない地味な格好で、アニメショップに行かなくては……。妃彩と一緒に行けば良い?? 冗談でしょ!? 妃彩の中では私は読書家。しかも、純文学5大文芸誌に載るような本を想像しているわけ。もっと簡単に言うと、「ベストセラー」と帯に書かれ、書店に沢山積まれてあるような本。
……けど実際は違う。
実は私は大の乙女系小説が好きで、ぶっちゃけて言うと、部屋の本棚の奥には「乙女ゲームの世界に転生」とか「異世界転生したら聖女でした」とか、クラスの子が見たらおっと!? なものが沢山並べてある。
私は現実世界の恋愛そのものに全く興味がなく、もっと言うなら男性に髪の毛一本すら触れられたくない。現実の恋愛こそがフィクションだと思っているからなのか、作られた世界の「王子様」という存在に絶対的な安心を抱く。
クラスの皆が仲が良い友達とわいわい楽しそうなおしゃべりをしている休憩時間。私は書店のカバーがかけられた分厚い乙女小説を机に座りじっくりと熟読しながら、そんな愚図なことを考えていたーー……。




