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魔王様と悪役令嬢の婚姻生活(ノロケバナシ)  作者: mayme
幼少期・お屋敷編
21/51

お嬢様と魚座の魔法

 

 クリスティナ7歳夏。

 

 食卓にトロピカルフルーツが並ぶ季節が来た。南国で採れる木にはオレンジの星型の甘い果物や黄色い月形の甘い果物が実る。この世界で言う、ドラゴンフルーツとは、土の上に実った竜の卵に似た形の果物だ。太陽の日差しと恵みの雨の恩恵を受けて、成熟された果物は船で南の国から他の国の市場やお店へととたくさん運ばれて来た。


 クローゼットから絹でできた黒のワンピースを選ぶ。春の季節によく来ていた、歩く度に花のようにふわふわと広がるフリルのワンピースも好きだったが、通気性が良くて、着心地が良い、しっかりとした生地のこのワンピースもお気に入りである。麦わら帽子と斜めがけのポシェット。サンダルを履いて、日傘を持って、お屋敷の外へ出る。後ろから見守っていたリゼが首の後ろで結んだ背中のリボンを綺麗に直してくれた。


 私たちは馬車で近くの海岸へと来ていた。


 麻でできたバスケットの中に水瓶座の力を借りて、薄い氷を張る。その中に果物とナイフを入れて、リゼが持っていた。まだ、私の力では水瓶座の魔法は数時間しか保てないのだけれど、なぜがリゼは「私は水瓶座の星神ととても相性が良いので大丈夫です」と、言っていた。


 海に着いた。レインは海岸の砂浜に魔法陣を描き、お屋敷から転移魔法でパラソル、テーブル、椅子を出す。よくよく考えてみると、彼は時間の時短に空間移動魔法を使う。荷物の持ち運び、移動時、緊急に物が必要になった時など。なのに、今日はそれらを使わず、馬車で時間をかけて来たのは何なんだろう。確かに、窓から見る夏の風景は素晴らしかった。朝早くから出発したので、森の中の澄んだ空気は美味しかったし、いつもは時間に追われて気が付かなかった、鳥の鳴き声も聞こえた。遠くから鹿の親子が見えたり、とても珍しい鹿でお尻に星の模様があったり。森を出ると、道なりに進んだ後、学園がある街に出て、市場にたくさんの人と商人が集まっていた。


 色とりどりの風船、屋根から飛び立つはと。大きな魚。広場には同い年の子が友達と粗目状の氷にあんこや蜂蜜、キャラメルや果物をのせたお菓子を食べていて。


 いつも見ている風景だが、別の角度から見てみると、孤独だと思っていたのは自分だけで、群れの中にも自分の場所はあるのだなと感じた。……うん。私は私で魔法を上手に操れるように少しずつ頑張ろう。


「……で、これはどういう意味で?」


 レインとリゼはパラソルの下で、旬のトロピカルフルーツをナイフで切って食べていた。そして、そして……。


 長袖、短パンに耐水耐久性に特化した水着を着せられた私。


「さて、お嬢様、試練です」  


 すごく軽いニュアンスで、レインは魚座のピンバッジを私の水着の胸元に魔法で結びつけた。そして、目の前には二つの魚、親子のミニミニの魚座の星神が現れた。星神がニッコリとほほ笑むと、二人で私を海の浅瀬から深い部分へと手をひいて誘導する。……待て、待て、待てい!!!!! 確かに、確かにだ。私は前の世界では幼稚園からプールで水遊びをしたり、小学校に上がると水泳の授業があったりして、だんだんと水に慣れて、とてもとても練習したので、高校生になる頃にはクロールでプールを四往復くらいならできた。……それは、前の世界でのこと。以前、魚座の水瓶から水が暴走した時に分かったのだが、頭で知識としてわかっているつもりでも、実践を重ねないとできないことがあることを。いや、やればできるよ。やろうと思えばできるけど、この世界には水泳の授業もなかったし、やろうと思った機会にタイミングがあわなかっただけで。……ただ。この世界の私の体は……。やや、重たい。


「絶対やりたくな〜〜〜〜い!!!!」


 その声を残して私は沈んだ。無理やり、手を引っ張られて二回目。水を飲んで溺れた。浮き輪を付けて三回目。浮き輪がひっくり返って、浮き輪からお尻だけ浮かんだ。リゼに助けてもらった。……リゼは、浮かびながら、トロピカルフルーツにストローを刺して、中の果汁を吸っていた。ならばと、水に浮くボールを持って四回目……。すごーく、すごーく深い部分で、ボールから手を離してしまったので、死にそうになった。パラソルの下でレインが遠くから笑っているのが見え……た……。


 散々な結果だったので、星神は私を冷ややかな目でジッと見てきて、かわいそうになったのか、魚の姿に形を変える。私の背中にくっつくと、指と指の間には水かきと、足は人魚のような魚の尻尾を手に入れた。


 レインは魔法で小瓶をいくつか取り出す。小瓶には透明の液体の中にイルカの人形が入っていて。それを割ると海の色が透明に変わる。私が大きく潜ると、海面が徐々に色が変わるのが分かった。魚の群れがこっちにやってきて、その後に、下から何かが私の体をすくい上げる。私を乗せたそれが海面上で高くジャンプすると、大きく鳴いた。イルカだった。太陽近く、私を背中に乗せながら、一回転。白と黒の境目で、その魔法は解けた。私はちょっとずつ泳ぎの練習をする。


 そこでレインは二つ目の小瓶を割った。空から七色の虹が出る。虹は数メートルおきにアーチのように連なっていた。私は虹を目安めやすに陸まで少しずつ少しずつ進んだ。


「ちょっと、今、魔法の練習中なんだから邪魔しないでよ」


 朝瀬までくると、星神たちが離れて、元の人間の姿へと戻る。やっとの思いで、パラソルの下でにこにこ笑顔のレインまでたどり着いた。レインはバスタオルとトロピカルフルーツを勧めてきた。


「三番目はーーでも召喚しようかと思っていたところだ」


 彼は何か不吉なものの名前をつぶいた気がしたけれど、私の知識が足りなくて聞き取れない。ただ、小瓶を取り出すと、その小瓶の水の中には小さな蛇みたいなものがぷかぷかと浮いていて……。よくよく見ると、瓶には魔法陣が描かれた御札みたいなものが貼ってある。……うっ、見ただけで、悪寒がする。


「どうだ? 魚座の星神とは仲良くなれたか?」


 私はピースサインをした。なんとなく、星神の力を借りれば水の中でもちょっとだけ泳げるようになった。


「お嬢様〜〜〜〜!」


 後ろからすごい速さで海を泳いで、浅瀬を走ってくるリゼがいた。そして、その手には……。


「リ、リゼ。ちょっと、待って。情報過多過ぎて、どこからか突っ込めば良いのか分からないわ……。その、右手に持っているものは一体何なの……!?!? あなた一体、何を捕まえてきたの……!?!?!?」


「これは……」


 おそらくそれは海の中で泳いでいた所を、リゼに見つかり、私に危害を加えると思った彼女が水中でタコ……いや、イカ殴りにぼこぼこにしたのだろう。気絶した巨大イカは足を引っ張られ、引きずられ、陸で目を覚ますと、私たちへと襲いかかってきた。


「させません!!!!」


 リゼは果物ナイフを手に取ると、イカに真正面から向き合い、十字に斬りつけた。その後、太陽を背に彼女は空中で一回転して、イカの足の部分を足先から根元ねもとまで細かく刻む。レインは、「あれは美味しいやつだ」と、ぼやくと、魔法詠唱を始め、巨大な魔法陣の中からでっかい金網のザルを取り出した。イカは空中で細かく刻まれ、地上へ落ちる瞬間、レインが用意した金網のザルへ落ちた。……魔力の無駄遣いじゃない???


「危ない所でした」

「危機一髪だったな」


 ……二人ともセリフ棒読みだよね?? 手際よくイカをさばいているし、私はあなたたちが一番恐ろしいよ……。


「あとは任せた」


 私は水瓶座の星神を召喚する。砂浜に海水から水のブロックを作ると、それを器になるように重ねて並べる。その中に金網のザルを置いて、水瓶座の星神は水瓶から水を放出させた。事前に一つのブロックに穴を開けて、そこから海へつながるように水を流す通路を作った。海辺に巨大な台所ができた。その中で、新鮮なイカを真水で洗う。隣でレインが木材と紙とわらと串を魔法召喚する。串にイカを一つずつ刺して……イカが大き過ぎて、串に刺しているだけで、疲れてしまいそうだったので、レインはさらにお屋敷の助っ人を召喚した。


「……はっ!? これは一体……!?!? レイン様!?!?!?」


 ……いやいや、そこは相手に事前に許可を得てから、連れてきなさいよ。夕食の仕込みをしていたお食事当番数人とシェフを手に入れた。


 私たちは水着から普段着に着替える。レインはエプロンと三角巾を用意した。シェフはさすがに素人の作業と違って、手際よくイカをさばいてくれた。木材を組んでき火を作り、火を着火する。そこに串刺しにしたイカを並べる。シェフは自前の包丁と調味料をポシェットにしまうとレインにお辞儀をして魔法陣の中へと帰っていった。ーーイカの丸焼きを手に入れた。


 う、ウマッ……!!!! そのままでもイカが柔らかくてホクホクで美味しいのに、いい感じに焦げ目が付いているのがたまらない……!!!! さらにシェフが持ってきたのは、生姜しょうが醤油しょうゆによく似た調味料でこれを付けて食べるとめちゃくちゃ美味しい!!!! 醤油しょうゆ自体にかつおだしと砂糖の甘さがあるというか……この世界の料理って本当に最高〜〜〜〜!!!!


 もぐもぐ、むしゃむしゃ、皆でイカの丸焼きを食べる。果物も、イカの丸焼きも自分たちが食べるぶんだけ手元に置いて、残りはお屋敷の皆に渡した。今頃、お屋敷の食卓に熱々のイカの丸焼きが並べられている頃だと思う。レインは三番目の瓶を割った。


 すると、夜空になり、空には満点の星が現れる。たくさんの星の中から、一つひときわきらめく星を見つけた。


「ご褒美だ」


 一つの星が光ったかと思うと、目の前にはたくさんの流れ星が現れた。それは私の体をすり抜け、また夜空へと戻る。


「いっぱい遊ぼうね」


「君と遊べる日を楽しみにしているよ」


「早くあいたい」


 星の声が聞こえた。





 ……気がつくと、私は、レインに頭をでられながら、お屋敷のいつものソファーで眠っていた。となりにはパジャマ姿のリゼも毛布を被って眠っている。まわりをみると開かれた星の図鑑があったので、読み聞かせ中に寝落ちしてしまったんだと思う。ただ、コレクションボックスの中には、水瓶座と魚座のピンバッジが飾ってあって……。


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