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悪役令嬢はヒロインの登場を素直に喜べない

 

 次々と招待客が会場へ入場した後、最後の最後に優雅な音楽とともに周りにたくさんの兵士を連れて王が入場した。


「シオン」


 王の一声で、かわいらしい男の子が絨毯の上を一人で歩いてくる。周りの侍女に気配りながら、堂々と胸を張って、まだ三才になったばかりだというのに背筋を伸ばして凛として歩く。


「はい、お父様」


 シャンデリアの光が彼のオーシャンブルーの髪に反射して目映い七色の光を発光する。若干耳が隠れる程の短髪で自然に分けられた前髪の隙間からのぞくのは、長い上向きの睫毛まつげと快晴の青空のような透き通る青い瞳。

 がっちりと筋肉質な父親とは違って、母親に似たのか骨格は丸くシュっとしていて、小さなあごは引き締まっている。

 自分よりもはるかに目上の大人に囲まれているというのにおののくことはなく、背筋を伸ばして、ピシッと立っているさまは、さすが王子プリンスという所だろう。


「まあ、かわいらしいこと。では、そろそろ私たちも王に挨拶に伺いましょうか。ついておいで、私のかわいいかわいいお姫様たちーー……」


 お転婆な娘を世界一かわいいと自負している自分の母親に反吐へどが出る。私は赤子の身で何とか姉たちを王子、それと妃彩の近くには行かせぬべく駄々をこねた。

 それはもう、()()()出ない涙を無理やり絞り出して、潤んだ瞳で「おなかがすいた」と訴えかけてみたり、目を擦った後手や足を大袈裟おおげさにばたつかせて「ねむい、ねむい」とアピールしてみたり。

 心無い姉が「置いて行こう」と行ったのでドレスの端をわざと握って「私を置いて行くつもりじゃなかろうな」と圧をかけてみたのだが体力を消耗しただけで全部無駄だった。


 私はお城に仕えている乳母に別室に連れて行かれ、ミルクを飲ませられ、ベッドに横にさせられた。運悪く、預けられた先の乳母の、赤子の私に対する扱いが異様に上手だったので、疲れきった私は少しだけ眠ってしまったのである。


 目を覚ました時には部屋の置き時計がぐるりぐるりと二周もした後で私は青ざめてしまった。


「ゆっくり休めましたか? クリスティナお嬢様」


 ーーこの声、どこかで聞いたことがある。


「長旅はクリスティナお嬢様には早いと言ったのですが、お義母を止めることができず本当にごめんなさい」


 彼女が深々と頭を下げると、頭にすっぽりと被っていた帽子モブキャップとレンズが厚い丸い眼鏡が落ちてしまった。


「あらあら」


 いつもとは違う格好だったので誰だか気づかなかった。


「リゼ!!!!」


「はい。クリスティナお嬢様」


 リゼは床に落ちた眼鏡を拾い、再びつけると優しくにっこりとほほ笑む。リゼは足首まで長い黒のワンピースを着ていて、真っ白なエプロンをしている。


「いつも置いてある食べ物がどこにもなかったので、お買い物に来たのですが、おなかがペコペコで、倒れてしまいまして……王さまの兵士さまに助けてもらって……気がついたらここだったのです」


 ーーまさか、母親は外出する際にリゼの食料を用意して行かなかったのか?


「何日かこちらで過ごさせていただき、そしたら、お嬢様の声がしたもので……こうして再びお会いすることができて、とても嬉しいです」


 ーーなぜ、なぜなのだ? リゼはなぜこんなにも私のことを……。


「私がみんなと再開できずお屋敷に戻らなかったら、まだ小さなクリスティナお嬢様をお守りできませんから。クリスティナお嬢様? お義母に意地悪されてませんか? お怪我などはーー……」


 ーー全部、私のためだと!?!? リゼ……本当に、おまえって奴は……。


 私はベッドから起き上がりリゼに抱きついた。


「まあ、まあ、お嬢様ったら。どうぞ、私で良かった甘えて下さい」


 健気けなげなリゼを抱き締めたかった。けど、今の私の背は小さく腕は短く逆に抱き締められてしまう。


 ーーリゼ。おまえのことは私が母親や姉たちから守ろう。


 そう、固く胸に誓った時だった。


「「きゃあああああああーー……!!!!!」」


 硝子が割れる音と女性の悲鳴が聞こえてきた。

 リゼは咄嗟とっさに私を抱き締め、何事もなかったかのように再びベッドに寝かせようとしたが、私はその手を振り切り、慣れない足でベッドから降りようとした。まだ赤子の姿なのではいはい、よちよちと歩いているうちにリゼに捕まってしまう。

 私はまたベッドに戻されそうになったので、足をジタバタとばたつかせて、リゼに必死に訴えかけた。


「まっまーー……」


 本当はあの母親を「ママ」となんか呼びたくない。呼びたくもない名前を呼び、彼女を母親と認めてしまったことにかなりのダメージを負ったが、リゼは察しが良い子だったので、すぐに落ち込んでいる私をあやしながら母親を探しに行ってくれた。


 胸騒ぎがする。

 本編のシナリオでは王子とヒロインの再開の時、悪役令嬢によって邪魔が入ったのだ。


 窓の外を見ると不気味な雲と空を赤く染める真っ赤な夕日が昇っていた。


 ーー妃彩。あなたにもしものことがあったら。今、リゼと助けに行くからからお願い無事でいてーー……。

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