渡されたパンドラの箱
物語はフィクションであり、実在する人物・団体・事件・宗教などには一切関係ありません。
星座と神話、恋愛をテーマにしております。苦手な方はお控えください。創作上のファンタジーとしてお楽しみいただけたら幸いです。
幼い頃、父親に連れて行ってもらった遊園地で私は見知らぬ背の高い男に会った。あの頃から私は「泣くこと」を我慢していて、父親と離れ、不安にかられながらも目の前に立つ男性に声をかけた。
「何だ、迷子かーー……」
男は、そう呟いた。
私は、その言葉に反応し、すぐに訂正させた。
「気の強い娘だ」
男はおかしそうに笑う。
それがまた馬鹿にされたようで悔しくて、私は自分で父親を見つけることに決めた。
すると、人混みの中から痩せ細った手がいきなり飛び出して来て、私の細い腕を掴んだ。父親を見たと言うおじさんがその場所へ連れて行ってくれると言う。全く知らない人なのに、なぜかその時は安心してしまって、私はその手に引かれ暗闇の中へと連れて行かれた。
そこで、私の記憶は途切れたーー……。
それから、覚えているのは、強く握られたのか、痛む手首。
辺りを見渡しても先程まで手を引いていたおじさんの姿はなく、また、父親の姿もない。
その代わり私を馬鹿にしたあの男が目の前に立っていた。
男はぼうぜんとする私に手を伸ばす。頭を叩かれるのかと思い、私は一瞬目をつむってしまった。
「左手を差し出せ」
目を開けると男は何やら小さな箱を持っていた。私は言われるまま、手を差し出す。
「違う。左手を差し出せと言ったんだ」
きっと、その頃の私は右も左もまだきちんと理解出来ていない程に幼かったんだと思う。端を持つ方が右手でお茶碗を持つ方が左手。そんなことを頭の中で確認した後、再度手を差し出した。
その箱は、見た目よりもずっしりと重かった。
「この箱は、俺が良いと言うまで、絶対に開けるな」
「絶対にーー?」
「絶対に」
「開けたらどうなるの?」
男はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「開けたら最後、全ての災いがおまえを取り巻くだろうーー……」
あれから十年の歳月が経ち、私は十五歳になった。あの時の記憶は今でも覚えているが、やはり、おじさんに連れ去られた後の記憶が欠落している。当時、あの後は無事に父親に再開できたのだが、知らない人について行ってしまったことに罪悪感があり、家族にはそれを言えずにいた。
私と同じ年齢の子たちは、恋というものに夢を膨らませている。学校で同級生の子が格好いいだとか、先輩に恋い焦がれたり。でも私は、大人になればなるほど、その時の欠落した記憶を思い出すのが怖くなってしまっていた。なぜ、家族の元に帰ったときに本当のことを話さなかったのだろう。嘘をついてしまったのだろう。いつかまた同じことが起こるかもしれない。
そんな日常生活を送る中、暗闇だけは未だに怖い。寝室の机の片隅に大切に置かれた小さな箱。開けてはいけないと知ってはいても、何回か中が気になって、開けようとしたことはあった。それでも、固くしまっていて決して開くことはなかった。
「……おはよう、美夜。ねぇ、さっきから玄関の前で待っているんだけど、本当に起きてる? まさか、二度寝していないわよね?」
ーーまっ、まずい!!!
「当たり前でしょ! 今行くから、待ってて!!」
二階の自室の窓から玄関先を見下ろすと、親友の妃彩と明るく上品なスーツに身を包んだ妃彩の母親が待っていた。
そして一階からは鬼のようなうちの母親の怒鳴り声が聞こえる。
ーー高校入学、当日そうそう寝坊したなんて思われたら、恥ずかしすぎるーー……!! 少しぼうっとしてただけなの! い、今、行くわよっ……!!




