マッチングアプリ
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一時期、といっても大学生くらいの頃、出会い系、にハマっていた事があった。
出会い系という呼び方はよくないな。マッチングアプリ。
ちょうど、当時はマッチングが流行り出した頃で、俺は結構あのアプリで出会った。
でも、やっぱりあんなサービスで出会う女の子なんか、将来には繋がらない。
真剣に出会いを考えてたら、あんな場所には行かないんだろう。
とにかく、そんな価値もない場所だったけど、1人だけ忘れられない娘がいる。
マッチングアプリって、登録された顔写真を基本に、タイプの子を振り分けて、向こうも気になっていればメッセージができるというシステムなんだけど、その子は写真を載っけてなかった。
でも、当時はお金も無かったし、イマイチの方に振り分けるのもなんか勿体なくて、俺はタイプの方に振り分けた。
そういう写真を載っけてない子は、基本冷やかしで登録してるだけだから、マッチングが成立する事って基本ないんだけど、それでもその子とはマッチングが成立した。
形式美というか、作業という儀式というか。とにかく、俺はひとまずメッセージを出してみたの。「マッチングありがとうございます!よろしく!!」
まぁ、あんまり期待はしてなかったんだけど、メッセージが返ってきた。
「写真、上手だね(笑)」
後で気がついたんだけど、向こうが年上だった。
でもそんときは気がつかなかったから、
「え!ありがと!でもこれは盛れた写真かな(笑)」
「好きな食べ物はなに?」
「えっ!唐突に!? 唐揚げかな!」
「答えてくれるんだ(笑)」
なんだかんだで、盛り上がったわけ。
マッチングして盛り上がったら、次はLINE聞くの。これはセオリー。
「あのさ、LINE交換しない?」
「イイよ、ID送るから検索してね」
そのアプリには、秘密のやり取りみたいな機能があって、2人がLINEを送りあったら、相手のLINEが見れるっていうプライバシー保護があるのよ。現代の伝書鳩だよ。
ま、こっちはデタラメのID送って(この時点じゃ信用できないし)、相手のLINE見て検索した。
結構あっさりだったね、おっ、これは行けるかもしれないぞとか思いながら、LINE送った。
「LINE合ってるかな?マッチングの!」
「やほー!合ってる会ってる!正解だよ!」
ちょっと気分上がるよね。
で、そのあとも盛り上がり続けた。
その日は土曜だったし、急だったけど
「ね、明日暇だったりする?」
「ひまだよ〜」
(笑)とか絵文字とかついてないあたり、向こうもわかってるよね。
思い切って、
「ご飯食べよーよ!」
「それはダメ。」
えっ?
どういうこと?
俺の経験則では、こんだけすんなりいった相手って、会うのもすんなりな筈なんだよ。
例外パターンに突入って訳だな。
ちょっと混乱し始めたんだ。
「えっなんで?」
「そう言ってあるじゃん」
?
俺の頭は「?」でいっぱいになった。
一応、アプリを開いてプロフィールをみてみた。
自己紹介文に、「会うのはNGです」と書いてあった。
おいおい、マッチングアプリって出会い系とも言うんだぞ?
出会うためにあるのに、出会わないなんてあるのかよ?
マッチング率の調子が落ち始めてたから、なんか食いついちゃった。
「えっじゃあなんでマッチングアプリなんてやってるの?」
「暇つぶしかな」
「暇なんじゃん!」
「でも会いたくはないの」
ははーん。
既婚者だな?
「あ、もしかして結婚とかしてるの?」
「いや。してないよ」
「ん、なんかおかしいな~」
「とにかく、会えないから。」
あきらか、怒ってるよね。
大して知らない人と喧嘩になるのも嫌だったし、連絡を取るのをやめた。
それから、バイトとかサークルとか、就活だなんだでマッチングなんかしてる暇も、する必要もなくなった。
バイトと就活頑張ってれば、出会いはひとまずあるからな。
就活が落ち着いた頃、なんとなくあのマッチングアプリを開いてみたんだ。
「お久しぶりです。彼女は作れましたか?」
あの子だ。
「久しぶり!連絡ありがと!どうしたの?」
「会ってみたくなった。」
「りょーかい!明日の昼とか暇?」
「いいよ。」
そのあと、吉祥寺で待ち合わせる事になった。
なんかオシャレだよね。この時点ではね。
当日、久しぶりの高揚感を胸に、埼玉から遥々吉祥寺に上陸した。
夏も始まりだしてたし、制汗クリーム塗って、ちょっと爽やかな格好してね。
なにかあるかもしれないし、バッグの内ポケットにコンドームもいれておいた。
準備は万端さ。
軽く鼻歌なんか歌いながら、改札の前で待ってたんだけど、アレ、もしかしてバックレ?
そうじゃなかった。
俺に話しかけてきたのは、太ってて、とにかく清潔感とは真逆の人だった。
髪はベトベト、顔はニキビだらけ。
「あのぅ、〇〇くん、だよね」
悪いけど、俺の好みじゃない。
これは別に差別云々じゃなくて、俺のタイプじゃないから、サヨナラするんだ。
「あっ。違いますよ」
俺は逃げるようにして改札に入り、電車が来てたホームに行って、テキトーに乗り込んだ。
あの息切れは今でも思い出せるね。小さい頃に鬼ごっこを全力でやった時の感じだよ。
それから、LINEもブロックしたし、マッチングアプリも開くこともなくなった。
でもこの前、職場の子に振られて、またマッチングアプリを登録し直して、本当に久しぶりに開いたんだ。
そしたら、前に登録してた頃のデータが残ってたみたいで、当然、思い出のあの子のデータも残ってた。
信じられる?
なんであんな美女になれるんだ?
もしかしたら....俺がスイッチ入れたのかもな、なんて思っちゃう。
整形かもしれないけど、でも、綺麗になったもん勝ちだよな。