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バウンドバウンドストーリー  作者: 不二アキト
4/12

妖精とエヴァーグリーン

 

「うぐ…! はぁはぁ…ぐっ…!!」


 俺は全身から血を垂れ流しながら森の中を全力で走っていた。

 出血が多いからか、視界がたまにボヤける。


「グルルッ!! ガルッ!!」


「ガルルル…!! ガルルッ!!」


「ガウッガウッガウッ!!」


 いくつもの唸り声が俺を追いたてる。連中は真っ直ぐ、俺に狙いを定めている。



 あと四匹か…。追いつかれたら本当にマズいな…。


 考えろ…。

 こんな時でも冷静なのが俺の取り柄だ。一匹一匹ならなんとか対処可能だ。


 まず攻撃対象を絞って、首を絞め落としたいところだが…そんなことをすればさっきと同じだ。

 周りのヤツらが噛んだり引っ掻いたりで出血多量。


 死ぬ。


 ダメだ… 次!



 では二匹なら…?


 なんとか森を利用して二匹と二匹に分断、アイツら、のどぶえ目掛けて噛みついてくるからその瞬間前蹴りかアッパーでのどに一発、一匹がのたうちまわってる間にもう一匹を絞め落とし、残ったヤツをこん限り踏みつけて息の音を止める。


 ただ分断した二匹に、予想以上に早く合流された場合は噛んだり引っ掻いたりで出血多量。


 死ぬ。


 ダメだダメだ。

 そもそも分断しようにもそんな場所がない。


 やはり四匹同時に相手するしかないのか…!

 冷静になれても良い考えが浮かぶとは限らないものだな…。





 #####






 三十分ほど前、俺は地下の施設で黒い獣と出くわした。


 獣は姿勢をグッと低くしたと思った瞬間、弾丸のように俺目がけて飛びかかってきた。


 反射的に俺は半歩体をズラして回避、直後に首の後ろ、いわゆる延髄目掛けて思い切り手刀を打ち下ろし、体勢を崩したところを背後から捕まえてチョークスリーパーのように首を絞め上げる。


「ググググ…!」


 獣はなんとか腕から抜けようと体を激しくよじって抵抗している。


「ッ! 犬コロには負けない…!」


 ミシミシと軋む獣の首の骨を、より一層力を入れて絞め、力が抜けてきた瞬間に『バキッ!!』腕と体全身の筋肉を使いへし折った。


「…はぁ、はぁ…どうだコノヤロー…」


 腕の力を抜くと、首はだらりと垂れ下がり、息絶えた獣は床へ力無く転がった。



「それにしても、なんて丈夫な体だろうか」


 しかし映画やゲームでの経験上、こういうタイプの獣が一匹だけでいるとは考えにくい。


 俺は急いで部屋を出て、地上へと続いているであろう階段を駆け上がった。



 よし…もう少しで出口…!

 光が漏れているのがわかる。


「このまま一気に出よう…!!」


 走って最後の階段を駆け上がり、出口から外へ飛び出した。



「…!! あらまあ…」


 出口は直接外へ通じていた。


 森…?

 まるで富士の樹海のように深い森だ。


 それよりも大変なのは…


「グルルル!」


「ガウッガウッ!!」


 見える限りでは五匹、囲まれている…待ち伏せられた。

 先程と同じ黒い獣。

 その十の赤い瞳が俺を睨みつけていた。


 その距離は…僅か十メートルといったところだ。


 地下へ逃げるか?


 いや、この数だとその方が逃げ場が無くなる…。

 それに、俺の衝動は逃げるという考えをさせてはくれないらしい。


 既に俺はまず狙うべき対象を吟味していた。

 戦うしか…ない!


「先手必勝…!」


 俺は中でも体の小さい獣へ狙いを定めて全力で走り出した。


 向こうも姿勢を低くし同じく飛びかかろうとしている。


「ーーッ!!」


 俺は途中で急ブレーキを掛け獣の突進に備えて体を半身に構え体重の乗っている右足に力を入れた。


「ガァッ!!」


 獣は突進してきていたが俺の数メートル手前で更に体勢を低くすると、俺の喉ぶえを狙い牙を剥き出しながら飛び上がってきた。


「ハァッ!!」


 俺は力を入れた右足を体重を乗せたまま蹴り上げ、逆に獣の喉を目掛け前蹴りを打ち込んだ。


「ギャンッ!!」


 獣は体勢を崩し俺の左横へ頭から落ちて、何が起こったか分からないといった感じで足だけジタバタ動いている。


 俺の方も、獣の体重をもろに受けたので体勢を崩したが、すぐに背後からチョークスリーパーで絞め上げた。


「折れろッ!!」


 暴れる獣を押さえ込み、全身に力を入れる。

 だか、それを遠巻きに眺めていた残りのヤツらが一斉に飛びかかり、鋭い歯で噛みつき、無防備な皮膚を抉るように爪を立ててきた。


 体に激痛が走る。


「ぐうう!」


『ゴキッ!!』


 なんとか一匹絞め落とした。


「ぐっ!」


 痛ってぇ…

 右腕と左足首に獣が思い切り噛み付いている。


 このままだと骨ごと持っていかれる…!

 だが冷静に…素早く…


 俺は右腕をぐいっと引き寄せ、噛み付いている獣の右目を左手で抉った。


「ガアアアアッ!!」


 そいつは堪らず口を離し、のたうち回っている。


 その後すぐに俺は左足首に噛み付いている獣へ思い切りサッカーボールキックをお見舞いした。


「ギャアッ!!」


 獣が口を離した瞬間、俺は激痛を堪えて走り出した。


 このままじゃ危険か…!


 なんとか単体で相手する状況に持ち込まないと、殺される。


 左足は噛み付きが浅かったのか痛みはあるがまだ動く。


 右腕は深く噛まれたのか今は殆ど力が入らない。


 早くなにか対策を打たなければ…。

 ダメージを負っていない二匹は既にこちらに向かってきている。


 俺はとにかく距離を取るために木々の間をすり抜けるように無我夢中で走った。





 #####



「っ! …ぐうぅぅ」


 森の中を駆け抜けている。

 後ろからは獣の気配がどんどん近づいてくる。


 このまま逃げていても、俺の方が失血して倒れかねない。

 さっき噛み付いてきた二匹はまだ少しダメージが残っているはず。

 今のうちに四匹を相手にするしかない。

 なんとか木を利用して、相手にする数を制限出来れば…!


 俺がそうハラをくくって、もう一度臨戦態勢に入ろうとした時。



「…!?」


 目の前が真っ白になった。

 急に大量の光が飛び込んできたようだ。


 目を凝らすと、そこは人工的に木を刈り取って作ったような丸く開けた場所。

 小さな野球場くらいはあるかもしれない。


「おいおい、これじゃーー」



 ドンッ!!



 左肩と右脇腹に衝撃を受ける。

 刹那、激痛と肩の重さに仰け反り、思わず膝をついた。


「ああああああ!!」

 苦痛で顔が歪む。


 獣は更に顎に力を入れて、骨を噛み砕こうとしている。


 ミシミシッ!!


 本当に…マズい…。


 残りの二匹も追いついてきたようで、どこを狙えば致命傷になるか吟味しながらジリジリと近づいてきているようだ。


 痛みで意識が飛びそうだ。

 

 こんな風に死ぬのか俺は…。


 実験台にされた挙句、獣に食い殺されるとか…。


 俺は…。



 その時、急に強く心臓が高鳴った。


 周りに、『ドクン!』という心音が響いたんじゃないかと思うくらいに。

 一気に全身に力が戻っていく。

 脳がフルで動いているのが分かる。

 より一層強い衝動が、俺を駆り立てた。


「ググググ!」


「…」


 俺は右手を強く握りしめ、拳を高く突き上げた。



「…調子に乗るなよ、犬コロ」



 その手を思い切り真下に振り下ろす。


『グシャァ!!』


「ガアア…」


 獣は首の骨が折れたのか、泡を吹いて転がっている。


 俺は肩の獣を両手で掴み、背負い投げの要領で自分の体をあびせて思い切り地面に叩きつけた。


『ドガッ!!』


「ギャンッ!」



 それからは、あまり覚えていない。

 衝動に任せて残り二匹も打ちのめした。


 あっという間の出来事だった。


 自分でも、なんでこんなに体が動くのか分からない。


「…俺は、一体なんなんだ…?」


 そう呟いて、俺は地面に倒れ込んだ。


 血を流しすぎたか…。

 意識が朦朧としてゆく。


「…」


 視界も狭まってきた…。

 こんなところで…俺は…。


「大変大変! あの人倒れました!」


「すぐにクレヨラ様のところにお運びするのです!」


「無理無理!私たちでは重すぎて運べません!」


「動物たちにも声を掛けるのです! きっと助けてくれるでしょう!」


「うんうん! なんとしても、恩人様を助けなきゃ!」


 なんだ? 誰かいる…?

 意識を失う直前、微かに喋り声が聞こえた気がした。






 #####





「……ん……」


 目を開くと、木々で覆われた天井の隙間から星空が見えた。


 夜か…。


「!!」


「そうだ、確か黒い獣と戦ってーー」


 体を起こす途中で気が付いた。


「あれ? 俺…噛まれたり引っ掻かれたりしたような…」


 こういう時、体を起こそうとすると「くっ!」とか言って傷が痛むのがお決まりのような気がするが…スッと起きれたな。

 体に触れて確認しても、痛みどころか傷跡も残っていないようだ。


 服だけは…既にボロボロだ。


「うわわわ!」


「!?」


 突然声がしたので振り向くと、そこには小人…、いや、妖精と形容するに相応しい容姿の女の子が驚いた顔でこちらを見ていた。


「よ、妖精?」


 言葉に詰まる俺と同じく、小さな女の子も目を白黒させて驚いている。

 長い髪の毛も瞳も羽? も薄い桜色で、ほんのり光っているように見える。


「え? モーションキャプチャー?」


 理解が追いついていかない…。


「え、えーと…わたしの名前はシーナレアといいまして、みんなからはシーナと呼ばれていて、その…モーショ?キャンプちゃん?という方とは違うというか…」


「喋っ、え? …本物? 本当に妖精?」


「え…! あ、あの、はい! 妖精…です!すいません!」


 なぜ謝る。


「い、いや、こちらこそ。見るのが…ていうか、居るのが分かった事が衝撃だったというか…」


「わ、わたしこそすいません!こんな間近に人を見るのが初めてで、その、驚いてしまって…」


 二人してペコペコ謝りあった。


 営業をやっているとたまに見る光景ではあるが…妖精。


 オカルト番組とか好きで、そういうトピックスとかネタとかよく見てたけど…。


 本当に小さいんだな、500ミリリットルのペットボトル…よりもう少し小さいか。


 羽はどうなっているんだろう?

 透き通っていて光っているけど…。


 服は…あれは布か? そういう技術を持っているのか?


 やはり…あの施設が関わってるんだろうか?


 俺はまじまじと、シーナレアと名乗ったその子を眺めていたようで、彼女はどうしていいか分からないといった感じで目線を色んなところに移しながらあたふたしているようだった。


「あ、ごめんなさい…つい見てしまって」


「い、いえ! こちらこそすいません…! 寝ている時にずっと眺めてしまって…!あ、いえ…あ! 今のは聞かなかったことに…!」


「はは…お互い様ということで。えーと、シーナレア、あなたが俺を助けてくれた…で当ってますか?」


「あ、いえ! 倒れている恩人様を見つけたのはムースさんとココリスで、わたしは看病させていただいていました。ここまでお運びしたのは、森の動物たちです」


「ムースさんとココリス…森の動物?」


「あ、えーとですね! そのーー」


「おや!お目覚めになられましたか恩人様!怪我の具合はいかがでしょうかな?」


「あれあれ?シーナまた慌ててる! あはは!」


 俺の背後から、また二人の妖精が飛んできた。


 一人はシャキシャキと動く白髪で長い髭の妖精、灰色に光っている。

 もう一人は、たぶんシーナレアと同い年くらいの女の子で、ずっと笑っているショートカットの妖精、黄色く光っている。


「えー、たぶん、ムースさんとココリスさん?」


「そうです恩人様! ワタクシはムース、倒れている貴殿を見つけ、この妖精の里エヴァーグリーンへお運びした次第!」


「うんうん! あたしはココリス! ムースさんと一緒にあなたを見つけたの!あ、ココって呼んでいいからね!」


「そうか…。うん、ムースさん、ココ、それからシーナレアも。助けてくれて、ありがとう。あのままだったら俺は確実に命を落としていました。それから、俺は…カイト、カイトって呼んでください」


 意識を失う前に聞こえたのはこの二人の声だったのか。


 被験体No.9と黒い獣のインパクトが強かった分、この状況にも既に順応している自分がいる。

 妖精が最初なら、多分もっとテンション高かったんだろうけど。

 人間が地球で生き残ってきた理由が分かる。


 あと、気になることがひとつ。


「その、恩人様っていうのは…?」


「そのことは、ワタクシどもから話すより、まずはお会いして頂きたい方が居られるのです!」


「そうそう! あたしたちの長、クレヨラ様に!」


「クレヨラ様…?」


「わ、わたし、恩人様…カイト様が起きたら、クレヨラ様のところへお連れするよう言いつかっているのです! 案内致します!」


 シーナレアは張り切って、胸の前で小さくガッツポーズしている。


 森の外を目指す以上、どのみち道を聞かなければならない。

 ここが何処なのかも分かるかもしれない。

 今が何年の何月何日なのかも。

 聞きたいことが山ほどある。

 それに第一、助けてくれたお礼も言わなきゃいけない。

 罠にはめるような悪い考えは…恐らく持ってはいないと思う。


「じゃあ、シーナレア、よろしくお願いします」


「は、はい! 任せてください! あの…カイト様! わ、わたしのこともシーナで結構ですから!」


 シーナは真っ赤になったかと思うと、立ち上がった俺の目線に合わせて高度をとって、「こっちです!」と、こちらにも伝わるくらいの緊張感で俺を案内してくれた。





 #####





 にしても妖精の里か…俺ってこの前までサラリーマンだった…よね?


 いや…改めて考えるとすごい状況だ。

 実験台にされて、黒い獣を絞め落として、妖精の長に会いに行く。


 なんの漫画だ。

 あの暗闇といい妙な実験といい…。

 漫画なら、この先どうなるだろうか。


 そんなことを考えながら、目の前を飛ぶシーナに付いて行く。


 途中、ふと上を見ると、木々の枝のいたるところに小さな木造りの家が並んでいて、その家の窓から漏れる淡い灯りが星空とマッチしてなんとも幻想的だ。


「カイト様? どうかされましたか?」


 彼女が振り返り、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいる。


「あ…いや、この光景がとても綺麗だと思って。」


「カ、カイト様はロマンチスト様なんですね!」


 たぶんお世辞を言おうと頑張ってくれたんだと思うが、三十過ぎのおっさんには恥ずかしくて仕方なかった。


「あ…うん…ありがとう…。じゃあ行きましょう…」


「あ、はい! こちらです!」


 俺は早くその場から離れたくて、ペースを上げて歩き出した。

 確かに、今のセリフはちょっと…。


「…あれは人間じゃないか…。クレヨラ様はなんで人間なんかを?」


「魔獣を退治してくれたそうよ? 本当かどうかは分からないけど…」


「人間はどいつも信用ならない。早くここから去って貰いたいものだ…!」


「…」






 五分程歩くと少し開けた場所に出た。


 何か…不思議な模様が描かれた石の台座の上に、一際明るく光る妖精が佇んでいた。

 手は祈るように胸の前で組まれ、静かに目を閉じ、まるで黙祷を捧げているかのように俯いていた。


「失礼します! あ、あの! クレヨラ様! カイト様を…あ、いえ! 恩人様をお連れしましたっ!」


 シーナはとても緊張した面持ちで喋っている。

 やっぱりあれがクレヨラ様か。

 妖精たちの長…。


「あ、あの! クレヨーー」


「シーナ…ちょっと待って」


 俺は再び呼び掛けようとした彼女を制止して、小声で「ちょっと待っていましょう」と言うと、意図が分かったのかもうんうんとオーバーに頷いた。


 しばらくするとクレヨラ様はゆっくりと目を開けてこちらに向き直ると、俺に向かって深々と頭を下げた。


「…」


 顔を上げた彼女の頬には涙がつたっていて、今もその瞳からは次々に雫が溢れている。


「お気遣い感謝致します、恩人様…。私はクレヨラ、妖精たちの長として里を代表し、貴方へ心より…最大の感謝を申し上げます。本当に…ありがとうございました…」


 涙ながらにそう言うと、彼女は再び深々と頭を下げた。


「あ、と…。待ってください。何というか、その…俺にはまだいまいち…何故お礼を言われてるのか分からないし、それより助けられたのは俺の方です、こちらこそ本当にありがとうございました」


 俺も深く頭を下げる。


 本当に、ムースさんとココに見つけて貰えず、あのまま倒れていたら出血多量で確実に命を落としていただろう。


 俺が顔を上げると、彼女は驚いたように俺を見ていたが、涙を指で拭いながらとても優しく微笑んでくれた。


「心優しい恩人様、本当にありがとうございます。貴方はあの魔獣の脅威から私たちをお救いくださった救世主なのです」


「魔獣…あの黒い獣のことですね。あ…あと、その恩人様っていうのはやめていただけませんか? 俺のことは、カイトでいいですから」


 あの黒い獣に妖精たちは怯えていたという訳か…。では関係性は無いのか…?


 状況はどうあれ、俺が黒い獣を退治したことは、妖精たちにとって、願ってもない出来事だったようだ。


「本当に謙虚な方なのですね。『大変な状況』にも関わらず…。カイト…様? で良いのでしょうか?」


「そう呼んでもらえると、助かります。それに良かったです。結果的に妖精の皆さんが助かったのなら。まあでも、またいつ襲ってこないとも限りませんから警戒は引き続きしていた方がいいと思います…が?」


 俺は話している途中で、彼女がキョトンとした表情を浮かべていることに気がついた。


「あのー…? どうかしました?」


「あ、いえ…カイト様は知らないのですか?あの魔獣たちのこと」


「えー…と、 はい、初対面でしたけど…」


「…そう、ですか…」


 彼女は何故か思い詰めたような表情になり、急に口をつぐんでしまった。


「あのー…?」


「あ、いえ、申し訳ありません…。不躾な質問だと思いますが…カイト様はどちらから、この場所へいらっしゃったのですか?」


「あの…それは俺が聞きたいというか…気がついた時にはもうここにいて、それまでどうやって過ごしていたのかとか何も分からないんです。だから…どんなことでも構いません。俺はここが何処かも知らなくて…。色々教えていただきたいのですが」


「…」


 彼女は再び表情を曇らせ、天を仰ぐと少し震えた声で話を切り出した。


「申し訳ありません…カイト様、協力したいのは山々なのですが…私には貴方様の質問に答えることは出来ません」


 え?

 今、なんて?

 俺は予想していた言葉と真反対の言葉を返され、自分の耳さえ疑っていた。

 答えることが…出来ない?

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