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バウンドバウンドストーリー  作者: 不二アキト
2/12

予兆と崩壊

「イケメンがひとりで寂しいね、まったく」


「マスター程じゃないですよ」


「何を…! 俺は色々渡り歩いてここにいるんだよ。在原くんくらい若い時はそりゃあもう取っ替え引っ替え…!!」


「俺がそんな風に振る舞えてたら、どんな人だって出来てますよ」


「まったく、俺が在原くんくらいのミテクレなら迷わず遊びまくってるのにさ…もっと自信あっていいと思うんだけどな」


「へーへー、そう言ってくれるのは自販機とマスターくらいのもんですから」


「自販機? なんだそりゃ?」



 仕事から帰り、自宅駐車場に車を停めた後すぐにそのまま近くの行きつけのバーへやってきたのだ。

 常連客なのでマスターも気さくに話しかけてくれる。


「あー、だいぶ飲んだな…」


「おいおい大丈夫か?なんかふらついてんぞ?」


「近いんで大丈夫ですよ、じゃまた来ます」


「今度は女のひとりでも連れてこいよ、サービスするぜ?」


「あー、考えときますよ」



 ひとり寂しく飲んだ俺は、自宅への帰路についていた。

 既に午前0時を過ぎているが、この辺りは人通りが結構ある。


 会社の事務所までは車で四十分程かかるが、駅前の飲み屋街までは徒歩で五分程度だ。

 職場の近くではなく飲み屋街の近くに住むという俺のこの発想と近い人も沢山居るはずだ。


 途中、コンビニに寄って明日の朝ごはんを買う。


 週末ということもあって、大学生とおぼしき若者達がたむろしている。

 足下には大量のゴミとタバコの吸い殻。


 アイツら…自分勝手で生き易そうだな…


 道にゴミ捨てる俺アウトローチックでかっこいいだろう?


 そんな風に思ってんのかね…。


 まあ、それも今だけだ。

 

 気づいた時にはもう手遅れなんだからな…



 そんな事を考えながら再び帰路につく。










「ただいまーっと」


 鍵を開けて中へ入ると、「在原ありはら 海人かいと様」と俺の名前が書かれた黄色い紙…宅配便の不在票がドアの下に落ちていた。


「そうか、水頼んでたっけ…」


 俺はそれを拾いながら玄関を上がり、手洗いうがいの為にキッチンへ向かった。


 ここの建物は二十三階建だけど、俺は高層階じゃないと嫌だとかそういうセレブ思考は持ち合わせていなかったし、「タワーマンションに住んでいる」という事実は変わらないし何よりも一階は家賃が安かった。


 カバンを寝室のクローゼットに放り込んだ後キッチンに戻り、ガランとした冷蔵庫からペットボトルに半分ほど残っていたミネラルウォーターを取り出し酔い冷ましに飲み干した。


 しかし、飲んだ後って体がベタついてると感じるのは俺だけだろうか。

 気持ち悪かったので直ぐにシャワーを浴びることにした。



 浴室からあがった後にコンタクトを外して黒縁の眼鏡を掛けると、完全に体はオフモードに切り替わった。

 次の瞬間飲酒と疲れによる気だるさが押し寄せてきたので、重たい体を引きずってベッドまで辿り着くと、そのまま倒れ込むように突っ伏した。


「…はあ、疲れたな…。明日は昼まで寝てようかな…」


 予定とも言えない様な予定を考えつつ仰向けになり、天井をボーッと眺めてみる。


 それからなんとなくスマートフォンでゲームアプリをしたり音楽を聴いたりしたが、大きなあくびをした後にすぐに睡魔に襲われて、俺は意識を失った。














「……ん、寒い…」




 気がつくと…俺はスマートフォンを手にしたままベッドで丸くなっていた。

 きちんと掛け布団をしていなかったせいか全身の寒気で目が覚めてしまったようだ。

 昼間も確かに肌寒かったし、夜はなおさらだ。


 体を起こしスマートフォンの時計をみると、時間は午前三時を過ぎた頃だ。


 体が冷えたせいか妙に頭がはっきりしている。


 ベッド横に置いている小さな四角いガラステーブルの上から眼鏡を手探りで見つけ出し、キッチンへ向かった。


「三月に半袖短パンだけじゃあ、そりゃ寒いか」


 食器もろくに入っていないシンク下のキャビネットから電気ケトルと緑茶のティーパックを取り出した。


 完全に目が覚めてしまっては困るので、電気は小さな常夜灯だけをつけている。


「にしても本当に今日は冷えるな…雨でも降ってるんかな?」


 冷蔵庫を開けて常備しているミネラルウォーターを取り出し、電気ケトルに注ぐ。

 セットすると、ものの数分でカチッという音と同時にお湯が沸いたので、ティーパックをしばらくお湯に浸して暖かいお茶を飲んだ…つもりだった。



「ん? あれ? 冷たい…?」


 熱いことを予想していたので、息で冷ましてからゆっくりと口に含んだお茶は、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターの温度とさほど変わらない様に思えた。

 更にもうひと口含んでみたが、それは確かに冷たいお茶だった。


 まあ、味は出ているけど…


「ありゃー…ケトルが壊れたんかな?」


 確認する為に電気ケトルのフタを開けてみると、中のお湯からは確かに湯気が立ち上っている。


「…んん??」


 温度を確かめる方法はあとひとつ。

 恐る恐るそのお湯に人差し指を浸けてみる。


「…あっ! …つく、ない…。熱くないな?」


 俺は呆気に取られていたが、試しにもう一度電気ケトルをセットすることにした。

 先程と同じくカチっとスイッチが保温に切り替わったので、改めてフタを開けてお湯に触ってみることにした。

 今度は先程よりも湯気の立ち上ぼり方も激しく、とても熱そうだ。


 …いや、そのはずだ。

 再度、恐る恐る人差し指を浸けてみた。


「熱く…無いな」


 確かにお湯からは湯気が立ち上っているが、熱くない。どころか冷たい。まるで冷蔵庫で保存していた様な冷たさだ。

 立ち上る湯気でしっかりと眼鏡が曇っているにも関わらず…だ。


 人差し指に火傷の跡もない。


 これは…。


 次の瞬間俺は確信した。






「そうか、夢か…!」


 いつか、テレビかなんかでとてもリアルな夢を見ることがあって、現実との区別がつかなくなるとか聞いたことがあったような無かったような…。

 それにどうせ夢ならもっとこう、すごく好みの美女がいたりだとか美味いものが大量にあったりとか大金持ちになってたりだとか…なんかあるだろうに。


 我ながら地味すぎる。


 曇った眼鏡をTシャツの端で拭きながら一応カバンの中の財布を確認してみた。


 …がっかりしただけだった…。


 しばらく部屋の中をぐるぐると歩いてみた。

 どんな物に触れても、確かに感触はある。


「すごい夢だ…てか本当に夢だよな?」


 現実と違う点で気になったのは、どれも冷たいということ。

 まるでこの部屋自体が冷蔵庫の中なんじゃないかと思うくらい冷たく、そのうち俺は自分が半袖短パンでいる事を思い出した。


 …そりゃあ寒いだろうさ。


 この前春物と入れ替えたばかりだけど…寝室のクローゼットの奥の方から、ダウンジャケットを取り出して着てみることにした。

 袖を通した感触はある、服の重さも感じる…が、自分の体温が上がる気配は一向に無かった。


「うう…冷えて仕方ないな…」


 一応下も、持っているなかで1番暖かそうなスウェットパンツを履いてみたがやはり効果はなく、手を擦ったりも肌をさすってみたりしても冷たいままだ。


 お決まりだが、手で頬をつねったり顔を叩いてみたりしてもその状況は変わらなかった。


 これはヤバイ…夢じゃないのか?


 だとしたらなんなんだ…。


 ひとまずリビングのソファーに腰を掛け考えてみた。そして、ひとつの結論に辿り着いた。





「そうだ、これは病気…病気だ!」


 慣れない環境での新しい仕事に、自分でも分からない内にストレスや疲れを溜め込んだのかもしれない。


 こんな時はGoogle先生に相談するに限る。


 早速ベッドに置いたままだったスマートフォンを手に取りタッチパネルに触れてみるがうんともすんとも言わない。


「こんな時に電池切れか…」



 そうこうしている内に冷たさは一層強く襲ってきて、全身がガクガクと震えているのがわかる。


「やべ…手が震える…」


 震える手を押さえて、スマートフォンを充電器に挿した後に改めて電源を入れようとしたが、それでも何の反応もなかった。


「おいおい…なんでこう、悪いことって重なるかな…。こうなれば最終手段か…!」


 俺は玄関を出て隣人か誰かに助けを求めることにした。

 こんな時間だが、スマートフォンで外部に連絡がとれない以上そんなこと言ってる余裕は無さそうだった。

 幸いお隣さんは、いつも俺と同じくらいの時間に帰ってくる同世代の男性だ。


「くっ…寒い…!」


 既に冷たさにより動かしにくくなっている体を無理やり引きずり玄関までやってきた。





 しかし…鍵を開けたにも関わらずドアは動かない。

 完全に固定されている様で、まるで壁にレバーだけが埋め込まれているんじゃないかと思うくらいだ。


「なんで動かない!どうなってるんだ…!?」


 ドアレバーを下げて思いっきり押したり引いたりしても全く動かない。


 しばらくそうしていたが、俺はドアを開けることを諦めて少し考えてみることにした。



 この状況はなんだ?


 ーーー閉じ込められた…?


 誰に?何の為に?


 冷静になれ冷静に…!


 まずは誰かに連絡する為に外へ出ないといけない。

 俺は意外と冷静にこの状況を整理していた。

 昔からだが、俺に何か強みがあるとすればたったひとつ、何事にも動じないことだと思っている。


 感情的になったら危険だ…。


 更に考えてみよう…。





 あ、そうか、窓。


 寝室の掃き出し窓は開くだろうか。

 玄関と同じく動かない可能性も高いが。


 寝室へ向かう途中、更に追い討ちをかける様にどんどん体は冷たくなり、視界もだんだん霞んできた様に感じる。


「急いでなんとかしないと…!」




『バンッ!!』




「…え!?」


 突然どこからか、何か重たい金属が硬いものにぶつかった様な鈍い音が聞こえてきた。


 音は…外から?


 確かに音は外から聞こえた。

 今向かっている寝室の窓の外からだ!


 しかし冷たくなった体は思うように動かない。

 身を震わせながら一歩ずつ寝室へと歩いて行く。

 小さい間取りのはずが、とても遠く感じる。


 それでもなんとか、少しでも望みがあるなら…!





『バンッ!!』


 また聞こえた…!!

 やはり、外で何か起こってる!!



 もう少しで寝室に着くというところで、今度は別の音が聞こえてくる。



 今度はーー言葉だ。


 耳を澄ましてみると、小さいがはっきりと窓の外から聞こえてくる。


『バッテリー残量が無くなりました、補助電源に切り替えてください。バッテリー残量が無くなりました、補助電源に切り替えてください。バッテリー…』


 …?


 耳に入ってきたのは機械めいたアナウンス。


 ーーーバッテリー?補助電源?なんのことだ?



 今は考えている時間は無い。

 体温は下がる一方だ。

 なんとか助けを求めないと…!!


 窓にたどり着いた俺は力を振り絞ってカーテンを開いた。




 ……。







「なんだ…これ…?」





 目の前には、確かに窓の外の景色があった。



 あるにはあるのだが…。






 ーー景色も、建物も、空も、月も、外を歩く人も、駐車場に停めている俺の車も…消えかけている。





 それは、まるで水に入れた角砂糖がゆっくりと少しずつ崩れて消えてゆくように…






「え…世界の…終わり?」




 自分でも何言ってんだと思ったが、つい口からそんな言葉が溢れていた。





「はは…俺、全然冷静じゃねぇや…」





 見ている中で一番最初に消えたのは、朝ごはんを買ったコンビニ。


 コンビニは少しずつ溶けて崩れて、そこには何も無くなった。


 さっきまでたむろしていた大学生の姿も、それどころか人影すらない。


 何も無い。


 でも無色ではない、まるで暗闇の壁が全てを飲み込みながら近づいてくるようだ。


 見上げると、同じように空も無くなり、バチッという音と共に部屋の常夜灯が消えてしまうと、本当に辺りは真っ暗になった。



 しばらくその光景を前に立ち尽くしていたが、尋常ならない冷たさに我に返り、窓の鍵を外し、開けようとしたがやはり開かない。


 玄関のドアと同じでガタガタという音もせず、足で思い切り蹴飛ばしてみてもびくともしない。



『バッテリー残量が無くなりました、補助電源に切り替えてください。バッテリー残量が無くなりました、補助電源に切り替えてください。』



「おいおい、なんなんだよ…!!」


 冷えた体に加えて、なんだか息苦しさも感じるようになった。


 これはいよいよやばいな…。




 全身の力が少しずつ抜けていく。


 いつの間にか吐く息も白い。




「終わりなのか…俺の人生…ってか、終わるのは世界か…?」


 核戦争? 宇宙人の襲来?

 いわゆるこの世界は壮大なシミュレーションだとか誰かの夢とかいうやつ?


 頭も回らなくなってきた。

 酸素が上手く取り込めてないからだろう。



「終わり」


 そう口に出してしまった。


 言霊ってあるんだな。


 それを言った途端に頭の中が「現状を打破しよう!」から「もう何をやっても仕方ない…」に書き換わってしまった。


「こんな訳の分からない最期とかないだろう…!

 くそう…!!」


 全身から血の気が引き、力が徐々に抜けていく。


『バッテリー残量が無くなりました、補助電源に切り替えてください。バッテリー残量が無くなりました、補助電源に切り替えてください。バッテリー…』



『ドカッ!』


 無意識に窓に向かって殴りかかっていた。


 格闘技してたから…?


 いや、どうしようもない状況に対してのただの八つ当たりだ。




 もう一度殴りかかる。




『ドカッ!』


『ミシッ!!』





「…ん?」


 殴りかかった場所から微かに音が聞こえた。

 何かにヒビが入る様な…


 顔をあげて殴った場所を確認すると、窓ガラスに…いや、ガラスのちょっと手前、小さな黒い筋…ヒビが、空間に浮かび上がっていた。





「これは…?」


 確かめるようにそのヒビを指でなぞってみる。

 …そこからは微かに風が感じられた。



 ーー風?


 ーーー外側? に出れるのか…?



 この無くなっていく世界の外側に…!


 それが分かった瞬間、俺はーーー自分の頬が濡れていることに気がついた。


 これは…「希望」だ!!


 俺は終わらない!諦めない…!!


 死ぬにしても、どうしてこんなことになってるのか知ってからだ…!!


 そう思った時、冷たくてほぼ感覚も無くなっていた体全身に一気に血が戻ってきたような感じがした。




『ドガン!!』


『ミシッ!バキッ!』


「伊達に20数年鍛えてないッ!!」




『ドン!! ドガン!! バキン!!』




『バ……リー…量が……な…した……助………替え……ザザザ………』



 夢中でヒビに向かって殴り続けていると、バキバキとガラスが割れる様な音と共にどんどんヒビは大きくなり、遂にはヒビ割れの1部が剥がれ落ちそこからは光がこぼれている。



「…やった…やった! 光だっ!!」


 冷たいし息苦しい。


 でもあと少し…!!



 更にその場所へ向けて思い切り殴りかかった。








「…………ん?」


 …あれ?

 殴ったはずの左手に感覚が無かった。


 確実にヒビ向かって…!!







「………あ」


 左手を見ると…そこには「手」はなく、おれの手首の先は今まさにあの暗闇によって消されてるところだった。


 必死だったので気がつかなかったが、俺の周りにはもう何もなく、明かりはヒビからこぼれるその一筋の光だけだった。


 その光景を見てしまった俺は、一瞬冷静になってしまった。



 やば…消えて…



 その後にすぐ襲ってきたのは………恐怖だ。







「っ…う、ぁ…!! 手が、無い…」


「あ、ああ足?…あれ?足は…どこにある?足も…感覚が…ぁ…」

 

何も考えられない





 ああああああ



 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやば…



 死ぬ




 確実に死ぬ





 いいいい嫌だ嫌だ嫌だイヤだ





 俺は何かを口に出して叫ぼうとしたが、もう声も…いや、音自体が消えているのか。

 だんだん、俺の体の中の奥の方、心まで黒く塗り潰されていくような感覚がした。


 …何も感じない。


 体中の感覚が削げ落ちてゆくーー








 残酷だ



 いきなりこんなのは


 それに…よく分からないままに目の前に希望を見せるだけ見せておいて、それごと奈落に突き落とす


 こんなことなら、バーのマスターが言う通りもっと遊んだり自由に振る舞って、自分勝手に生きときゃ良かった…


 カッコつけて見栄張って、真面目に時間だけ浪費してくそつまらない人生だった…


 最後の最後まで…気づくのが遅いんだな…







 全てが黒く…黒く染まっていく。


 上っ面にあったハリボテの在原海人。


 俺が長い時間を浪費して作り上げた表面のそれさえも闇に包まれ消え去り、後には露わになった欲望や絶望が歪に捻じ曲がり醜い姿を晒していた。




 クソが…


 あの親戚の息子…ジムじゃないとこでドツき回してやりゃ、あんな調子乗ってなかっただろうな…


 -手遅れだ


 総合ジムの先輩…俺と同じ土俵に立たす為に片目抉ってやりゃあんな偉そうにしてなかったかな…


 -過ぎ去ったことだ


 コンビニに居た大学生、アイツらあの時全員ボコボコにして土下座させてゴミ持って帰らしときゃ良かった…

 

 -でも、しなかった


 俺の心の根底は、真っ黒な悪意だ。

 

 おまけに行動する勇気もない小心者。


 人はみんなそうなんじゃないのか?


 後悔はしたくないけど、行動したことの責任も持ちたくない。


 まあ、もうどうでもいいんだけど…




 俺は目の前の僅かな光に手を伸ばしている。

 最も、既に「手」だと認識出来る体など無かったが。




 …光?


 んなもんねぇよふざけやがって…



 結局世界ってのは自分勝手なヤツがいい思いして、俺みたいな半端者には慈悲もくれねぇ




 クソみたいな場所だ全く



 終わって清々するくらいだ



 だけど…だけどな…






「ーーーいつまでも目の前で!!」


 もう無くなった筈の右の拳を握りしめてありったけの力を込める。

 無いとか有るとか、そんな事は忘れていた。

 ただ、「これ」をぶん殴ってやりたい。

 希望でもなんでもなかった「これ」を。

 それは手遅れじゃない、今この瞬間出来ることだ。


「ガンくれてんじゃねぇ!!!!」


 それだけだ!


「消、え、ろぉぉぉぉお!!」


 渾身の力を込めた右ストレートを光がこぼれるその場所目がけて思い切り叩き込んだ。





『パァァァァン!!』




 拳がヒビ割れの奥へ突き抜けた感覚があった瞬間、とても大きい破裂音と共に、俺の体は光に包まれた。

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