或る中毒者の末路
世の中には様々な種類の中毒がある。薬物、アルコールから、賭け事、買い物という人間の行動まで、止めたいのに止められない、止めるには本人の精神力や周囲の協力が欠かせず、専門的な治療が必要となってくる。
深刻な依存性中毒の一つに「甘い物中毒」がある。
笑ってはいけない。
そこのあなた、この飽食の現代日本において甘い物を一切口にせずに日々過せているのか。
甘い物――、砂糖は調味料に使用されている。和風の惣菜には必ずといっていいほど、隠し味に入れられている。だからヘルシーな和食を選んでいるといっても、砂糖とは無縁ではない。バター、マーガリン、ショートニングといった油脂類が多く使用されているからと洋菓子を敬遠し、和菓子を選択したからといって、そこはそれ、砂糖が使われているのには違いない。
短時間での疲労回復や気分転換にいいと、飴や一口サイズの菓子を口にするのが現代人の習慣ともいえよう。
かくいうわたしだって、こうやって残業をしている中、ついついキャラメルやチョコレートを摘んでしまう。
残業も一つの中毒なのだろうか。仕事に淫すると表現すれば高尚に響くが、定時に帰りづらくてダラダラと作業しているのは、時間の無駄であろう。
育児や介護、その他よんどころない事情で残業できない職員が、髪振り乱し、目を血走らせて、時間内に仕事を納め、慌ただしく帰っていく。同じ課で、要領が悪いのか、まだ作業を続けている者がいる。てきぱきと自分に配分された仕事を終えたのに、こういう者がいるので、何日かに一回は、「手伝いましょうか?」と、声を掛けておくのが職場の雰囲気づくりに大切だ。
「この書類の整理をお願い」
と、頼まれ、あらかた終わった頃、幾つ目かのチョコレートに手を伸ばし掛けた時、給湯室から野太い声で悲鳴が聞こえてきた。
皆で駆けつけてみると、甘い物好きの課長がネズミ捕りみたいなバネに指を挟まれていた。
「あれ~、課長だったんすか?」
職場では、職員がそれぞれ自分の購入した食べ物に記名して給湯室の冷蔵庫に保管している。ここのところ、お菓子が盗み食いされる事件が続いていたので、悪戯好きの男性職員が、イタズラグッズで売られているような、お菓子を取ろうとすると指をバチンと挟むバネが飛び出すオモチャをチョコレートの箱に仕込んでいたのだ。
引っ掛かったのが課長とは……。
課長は翌日職員全員に値の張るお菓子を配って、詫びて回った。これで職場の盗難事件は解決した。
かくも甘い物とは罪深いのである。課長が甘い物を断てたか、職員全員興味がなかった。