雨降って地固まる
「雨…完全にやみましたね……」
コウが空を見上げる。
「…うん…」
脱力したまま答える藤。
藤的には色々が衝撃だっただろうな…とコウは思う。
これ以上…引っ張らせるのは無理なんだが…さて何で美佳の気をひこうか…
そんな事を考え始めた時、携帯が鳴った。
「はい?」
『コウ…みつけたけど俺には無理…ヘルププリーズ…』
げっそりとしたユートの声。
「いまどこだ?」
『そこから…進行方向向いて右側の林…。
藤さんは…止めた方が良いと思う。
つかコウは平気?』
「平気じゃなくても…仕方ないだろう。
とりあえず行く。」
顔をしかめて携帯を切ると、コウは
「ユートが見つけたみたいなんですが…ちょっと要領得ないんで行ってきます。
藤さんは矢木さんよろしく」
すでに嗚咽するのみの矢木にチラリと目を向け、それから藤を振り返ってコウは言った。
「了解。邪魔するようならはり倒すから…いってら」
と藤は顔をあげる。
コウが動くと美佳はハッとしたように動きかけるが、藤がその間に入った。
「もう…ユート君が見つけてるからね、無駄だよ。」
との声に、美佳は複雑な表情でうつむく。
その二人のやりとりに一瞬だけ後ろを振り返ると、コウはユートを追って林へと入って行った。
「ユート~?どこだっ?!」
あたりを見回して叫ぶと、
「ここ…ヘルプ…」
と心底力のない声が聞こえた。
声の方を振り向くと、背の高い人影が両手を振っている。
そちらに向かうと、かすかに汚物の匂いがただよう。
少し眉をひそめるコウにユートが
「ごめん…俺吐いた…」
と、力なく一方を指差した。
そちらに目を向けてコウも硬直。
おそらく途中何かまた睡眠薬入りの飲み物でも飲ませて眠らせた上でしばりつけたのだろう。
舞を両手を後ろ手に木を抱えさせる様に縛り付け、さらに腰をビニール紐で木にしばってあった。
問題は…全裸で顔を始めとしてあちこちを薄く切り刻まれている。
本人も途中で目が覚めたらしく、正気を失った様な目で獣のようなうめき声をあげながら失禁していた。
コウは携帯を取り出すと、藤に電話をかける。
「服…着てない上怪我してるんで…。
できれば体を包める毛布のような物があれば用意して待ってて下さい」
それだけ言うとちゃっちゃと切った。
まず自分のコートを脱ぐと木の側に広げ、暴れている舞の首筋に手刀を落として気絶させる。
そして持参している万能ナイフで注意深く腰の紐を切り、次に手の紐を切って体が完全に木から離れると舞の体を抱き上げて広げておいたコートの上にソッと降ろした。
普通に気をうしなっているだけなので過度な痛みを与えるとおそらく目を覚まして暴れかねない。
コウはそのまま舞をソッとコートにくるむと注意深く抱き上げ、
「行くぞ」
と後ろで目を背けているユートに声をかけた。
上に戻ると藤と、どうやら藤の説得でナイフを手放した美佳が待っている。
戻って来たコウ達に気付くと藤が毛布を手にかけよりかける。
が、コウがチラリとユートに合図を送ると
「俺がやるんで…とりあえず藤さん運転お願いします。」
と、ユートがその手から毛布をとりあげて藤を運転席にうながした。
「ユート、とりあえずそれ敷いてくれ。このまま包んで暴れない様に固定する。」
コウの指示でユートがとりあえず道路に毛布を敷き、コウがその上に舞を降ろすと、それを見下ろしている美佳が殺気立った目を舞に向けたが、コウは淡々と舞を毛布で巻きながら
「今は止めて下さい…。
あなたと二宮さんの間の確執は藤さんやユートには無関係です。
ここで殺傷沙汰起こされると一瞬で死ぬ舞さんよりそれを目の当たりにしてその後も生きて行く二人の方によりダメージを与えます」
と注意を促す。
その言葉で美佳に気付いたユートが美佳も車の方に連れて行った。
一応舞と同席させないようにと、助手席に座らせる。
やがてコウが毛布でぐるぐる巻きにした舞をワゴンの後部座席に運んで車は出発した。
「…コウ…マジごめん…。」
単に…アオイと旅行に来たかっただけなのだ…。
そのためにちょっとだけ剣道の試合にでてもらおうと思っただけだったんだが……
こんな自体に巻き込んで怪我までさせた挙げ句、きつい部分を結果的に全部請け負わせたわけで…
「…ホントにごめんな…」
これ縁切られても仕方ないかも…とさすがに不安になって、疲れた様に無言で膝に顔を埋めるコウに声をかけるユート。
それに対してコウは顔はうずめたまま、
「まあ…ユートのせいではない。
誰もここまでの事が起こるとは思わない…
…でも……」
と、そこで言葉を切る。
(…ま、まさか…縁切り宣言?!
…さすがに怒ってる?!)
硬直するユート。
巻き込むまでは不可抗力だったにしても…さっきの舞の対処は…やっぱりヘタるのは論外だったか…
ユートはさすがに後悔して頭をかかえた。
…が、続いたコウの言葉は…
「姫に会いたい…」
「はあ??」
ど~っと力が抜ける。
一気に脱力するユートと吹き出す藤。
「碓井君の頭ん中はそれっ?!」
「高校生の男の頭に…他に何があると思ってるんですか?藤さん」
ため息まじりに顔を上げるコウ。
「いやいやいや、スーパー高校生でもやっぱ高校生の男の子なんだなぁと…」
ケラケラ笑う藤に釣られてユートも少し笑う。
シン…と暗く沈み込んでいた空気がちょっと明るくなってホッとするユート。
「子供の頃から勉強と武道詰め込まれてたから他より少しばかりできるだけで、別に俺は特別な人間なわけじゃありませんよ。
根本的にあの2馬鹿とたいしてかわるわけじゃない。
頭にあるのは彼女のことで、彼女が現役で東大合格して22で普通に卒業して警視庁入ったら結婚してくれるって約束してくれたから勉強もするし、ヤバい事はしないし、その前に死んだりとかしないように危機管理をしっかりする。それだけの事です」
当たり前に言うコウの言葉に、藤は一瞬目を丸くしたあと、プ~ッと吹き出した。
「いやいや、それが普通って思ってる時点でありえんって、高校生っ。
齢17歳で結婚考えてんのかっ」
それにもコウはきっぱり
「人生早いもの勝ちですっ。」
と断言する。
それにまた吹き出す藤。
「お前は…思い詰めるな。
お前くらいヘラヘラしててくれ…」
ガラリと空気が変わったところで、コウが小声でユートにささやいた。
「ユートがいつも平常心でフォローいれてくれるから安心して突っ走れるってとこがあるから…。
力仕事は任せろ」
その言葉に、前回もそうだったが意外にこんな自分でもこのスーパー高校生の親友の役に立っているらしい事に気付いてユートはホッとする。
まあ…なんのかんの言って自分達は良いコンビならしい。
そして館にたどりつく。
舞はとりあえず松井が応急手当をする。
美佳は…衝動的な自殺の危険性もあるので拘束した上とりあえず遥と別所が見張る事に。
アオイは血まみれなコウを見て悲鳴をあげ、ユートが全身怪我だらけな舞を抱き上げたためついた舞の血だという事を説明した。
2馬鹿はとりあえず放置もなんなので藤、ユート、アオイと共にリビングへ。
コウも着替えてそれに合流する。
そうしてる間に道路の復旧が始まったとの連絡が来た。
「もうすぐ…終わるねぇ」
藤が額に手をやってソファに身を沈めて息をついた。
「…ですね…」
同じくソファの上で身を屈めていたコウがそう言って、次の瞬間ピクっと何かに注意を向ける。
「音…しませんか?」
その言葉に藤は耳をすまし、
「…するっ!」
と言って立ち上がった。
「ヘリか?」
「たぶんっ!」
二人揃ってリビングを駆け出す。
ユートとアオイ、それに2馬鹿もそれに続いた。
「警察…じゃないよね?」
広い敷地の上に止まるヘリから梯子が降ろされ、黒い背広の人間が何か白い物体を腕に降りてくる。
「あっ。コウさ~ん!!」
と白い塊は可愛らしい声で叫んで手をふってきた。
「うあ…まじかよっ」
上を見て呆れたように苦笑するユートと、その隣でやっぱり苦笑するアオイ。
梯子に走りよるコウ。
「ここで結構ですっ♪」
と、止める間もなく地上2mくらいの所で背広の男の腕から抜け出して飛び降りるフロウ。
「ちょっ!待った!!」
慌ててそれを受け止めるコウは傷に響いたのか少し顔をしかめた。
それでも天使のように可愛らしいフロウの笑顔に、すぐ笑顔を浮かべる。
「すっげえ…天使?」
「うん…めっちゃありえんくらい可愛いな…」
川本と山岸が唖然とその様子をながめてつぶやいた。
「ふふっ、来ちゃいましたっ♪
お祖父様の権力使っちゃったからあとでパパからお仕置き決定です」
こぼれるような笑顔で嬉しそうにコウを見上げるフロウをコウはギュウッっと抱きしめた。
「すっごく会いたかった…」
本当に心からの言葉。
「会いたくて会いたくて…死ぬかと思った」
と、さらに強く抱きしめるコウの言葉に
「死んじゃう前に会いに来れて良かったですっ」
と自分もキュウっと抱きつくフロウ。
「姫…」
少し体を離して声をかけると、にっこり微笑む澄んだ黒い瞳に自分が映る。
そして瞳に映る自分に近づいて行くと寸前で白い瞼が幕をおろした。
コウもそれを合図に自分も目をとじ、唇を重ねる。
柔らかく温かい感触。
本当に…つらかった数々の出来事が消え去って行く。
これは…今回頑張った自分への神様のご褒美かもしれない、と、コウは思った。
「やっぱさ…つきあって4ヶ月もたつと…ああいうの平気になるのかな?」
遠目に、でもしっかりそれを見ながらアオイがユートを見上げて聞く。
「いや…あれはほら…なんつ~か…特別な人達だからさ…。普通は無理よ?
スクリーンの向こうの人って事で納得できる容姿だから許される。」
ユートはポリポリと頭を掻いてそれに答えた。
そんな二人の横では
「ま、あれ見たら舞と遥の争いなんて馬鹿馬鹿しくなるでしょ?」
藤が言うのに、馬鹿二人はうんうんうなづいている。
「あれが本当のお姫様…」
言って藤は軽く片目をつむる。
「コウさん…怪我です?」
唇を離すと聞いてくるフロウに、あまり心配をかけたくないので
「ああ、まあたいした事ない。それより姫はどうして?お祖父さんの家じゃなかったのか?」
と、聞くコウ。
その言葉にフロウはポンと手をうって
「そうでしたっ♪」
と、ポシェットの中を探った。
「じゃ~ん♪」
と、可愛い小さな紙袋を取り出す。
「ホントはクリスマスにプレゼントと一緒に渡したかったんですけど、思いついたのが丁度今日から7日前、12月23日だったんですよぉ。
でね、1週間の設置で今日学校に取りに行ってそのままこちらに来たんです♪」
そしてフロウは
「コウさんの分♪」
と、その袋から何か取り出した。
3cm四方くらいのロケット。
中を開けてみると四葉のクローバーが入っている。
そのままフロウはコウの腕を取ってユート達の方へきて、ユートとアオイにも同じくロケットを渡した。
「わぁ♪可愛いねっ。でも、これはどうして?」
ポカンとロケットを凝視する男二人と違い、はしゃぎつつも聞くアオイ。
「えと…ね、みんなと出会ってからずっと探してたんです、みんなの分の四葉のクローバー。
4人だったし4人で一緒にいる事で四葉のクローバーみたいに幸せになれるといいなって♪」
「もしかして姫わざわざそのためだけにヘリまで使ってここに来てたり?」
にっこりと説明してたフロウに、藤が笑顔を浮かべて声をかける。
「あ~♪藤さんっ!お久しぶりですぅ♪」
それまで真剣に気付かなかったらしい。
そこでようやくその存在に気付いたフロウはニコォっと満面の笑みを浮かべる。
「久しぶりだね、ジュリエット」
藤も嬉しそうに破顔すると、フロウを引き寄せて抱きしめた。
「相変わらず…なんて可愛いんだろうね、お姫様は。
幸せ届けにここまで来たって?」
「ですですぅ♪ちゃんとおまじないして来たので、きっとマリア様のご利益がありますっ♪」
抱きしめられたままニコニコ言うフロウの言葉に
「おまじない?」
と藤は首をかしげた。
藤の問いにフロウはコックリうなづく。
「屋上のね、マリア様の胸に当ててる右手の隙間にね、願い事書いた紙と一緒に7日間ご利益欲しい物入れておいて7日目に回収するんですっ♪」
にこやかに言うフロウに藤はきょとんとして
「自分ルール?それとも最近はそんなの流行ってるの?」
と聞く。
その藤の問いにフロウは右手の人差し指を立ててシ~っというように唇にあてた。
「秘密…ですよ?混んじゃうから。
自分ルールではないんですけど、たぶん知ってるのって私だけかもっ」
(そういうのを…自分ルールって言うんじゃないだろうか…)
と、その場の誰しもが思った。
「誰も知らないなら…フロウちゃんが作った自分ルールじゃないの?」
誰もが突っ込んじゃいけないと思ったその点を容赦なく突っ込む空気の読めない女アオイ…。
しかしおかげで思いもよらぬ話がフロウの口から明らかになった。
「えとね…正確には今知ってるのは、なんです。
私が小等部の頃には誰かがやってたんです。
私あのマリア様すごく好きでよく眺めに行ってたんですけど、その時マリア様の手にお願い書いた紙とおまじないかけたいらしい小物が入った袋とか一緒に置いてあるのみつけて…いつも7日間で消えてたのでたぶん7日間置けばいいのかな~なんて♪
で、たまに誰も使ってない時にこっそりやってたんですけど、いつだったかな~同じ紙と同じ袋がず~っと置かれ続けてて…10日目くらいまでは放置してたんですけど、なんだか屋上工事するって話になってせっかくおまじないしたのが無くなったら嫌かなって思って、シスターに届けたんですよね。」
「「ちょっと待って。姫…」」
コウと藤がはもった。
「たぶん…藤さん俺と同じ事考えてて…藤さん当事者だしどうぞ」
コウが譲ると、藤はそれに対して礼を言ってフロウの顔をのぞきこんだ。
「それ…もしかして5年前…台風来た頃じゃない?」
藤の言葉にフロウは
「ん~~~」
と考え込む。
「お願いだから思い出してくれる?
ついでに質問。その中身は見た?」
泣きそうな…切羽詰まったような様子でフロウに詰め寄る藤。
「中身は…覚えてますよぉ。しおり。
四葉のクローバーのしおりがね、3つ」
「四葉のクローバーの…しおり…」
コウはゴソゴソっとまたハンカチを探ってその中のしおりをフロウに見せた。
「これと…同じ様なのか?」
「そそっ!これですぅ♪
前の年がうちの学校創立50周年で、その時だけの限定販売だったんですよ、このしおりの台座になってるカード♪
ほら、クローバーの上の方にマリア様の透かし入ってるでしょう?
私もこれ買いましたもん♪
マリア様ファン必須限定レアアイテムですっ。
この他にも便せんとかノートとか…」
変な部分に盛り上がりを見せて脱線しかけるフロウを、コウが仕方なく引き戻す。
「ごめんな、姫。
その話は今度丸一日でも聞くから…とりあえず話戻していいか?
つまり…このしおりと同じ、あまり手に入らない珍しいカードを台座にした四葉のクローバーの押し花のしおりが3枚入ってたってことでいいか?」
ため息まじりのコウの質問にフロウはうんうんとうなづいた。
「でね、やっぱり名前入りで、それぞれ、え~っと…」
考え込むフロウに今度は藤が聞く。
「ふぅちゃん、みぃちゃん、まぁちゃん?」
「あ~そう!そうですっ!なんでそれを?」
真ん丸い目をさらに丸くするフロウ。
藤はそれには答えず両手で顔を覆った。
そんな藤にちょっと困ったような顔で自分を見上げるフロウをコウは引き寄せる。
「…創立祭は…6年前。
…間違いない。5年前だ…それ。
桜が遺した最後の…」
そこで藤は声に詰まった。
「桜…さん?」
「藤さん達の幼なじみ…。
5年前の…台風の日に屋上から転落死してる」
コウの言葉に、フロウはうつむいて
「運…悪かったんですね…」
とつぶやいた。
「運て問題…なのか?」
もうそんな事突っ込んでる場合じゃないとは思うものの、思わず突っ込むコウ。
それにフロウは大きくうなづいてコウを見上げた。
「だってもし台風の日が7日目だったら…あの雨風の中マリア様の像よじ登らないとですしっ…
足滑らせたら下手すればフェンス超えて下に落ちちゃいますもんっ。
今日とか朝方はまだ雨ふってて滑るからちょっと怖かったです」
「おいっ!ちょっと待てっ!!」
フロウの言葉にコウは青くなった。
「まさか姫…この雨の中、屋上にある高い像によじのぼったりしてたのかっ!!」
「だって…7日すぎて効力なくなっちゃったら嫌じゃないですか」
おもいっきりうなづいて当たり前に力説するフロウにコウは顔面蒼白。
「そういう…問題じゃない…だろ…」
と、呆然とする。
「そういう問題…ですよ?」
「落ちて死んだらどうすんだよっ!!!」
思い切り怒鳴りつけるコウにフロウは両手で耳を塞ぎながらビクン!と身をすくめた。
「ホントにもう二度とやめろっ!!
真面目にやめてくれっ!!!」
そのままコウはギュウっとフロウを抱きしめる。
フロウは抱きしめられたまま、本気で全身から血の気が失せて震えているコウを見上げて言った。
「えと…ね、コウさん。今は下までは落ちませんよ?フェンス高くなったので…。
落ちるとしても…せいぜい1mくらい?」
「…姫……」
「はい?」
「…今俺ショック死するかと思ったんだが……」
フロウをしっかり抱きしめたままため息をつくコウ。
「でも…なんだかわかった気がする…。
そういう事だったのか…。
姫は…俺とは違うもんな…」
コウのつぶやきに首をかしげるフロウ。
「…教えてくれ…」
「はい?」
「もし…あ、例え話な、そんな事絶対にないわけなんだけど…」
「はい。」
「俺かユートかアオイがなんかの理由で姫の事嫌って、影で何か姫に危害加えようとしてるって何かのきっかけで知ったら…姫はどうする?」
コウの質問にフロウは一瞬首をかしげる。
「理由は?わかってて?」
「うん、理由も聞かされる。
でも自分ではどうしようもない理由だったら…死にたくなるか?」
それまでは悩んでる様子だったフロウがその一言には即フルフル首を横に振った。
「だって…あとの二人は私の事好きだったら悲しいでしょう?きっと。
というか…コウさんとかあと追っちゃいそうですし。」
「うん…まあそうだけど…追うな、たぶん」
その前にたぶんショック死するんじゃないかとコウは思う。
「だから…ね、たぶんですけど…他の事で埋め合わせして仲直りできるなら仲直りかな?
それでもどうしてもダメだったら…少し離れてあげるかも?
でも相手がまた遊ぼって言って来てくれたら遊びます♪」
コウはそこでフロウを抱え込んだまま、藤に視線を送って言った。
「藤さん…訂正します。
こういう事だったみたいです…」
「うん……事故死…だったんだね。
ホントに桜らしい事故。」
藤はその場でしゃがみこんで大きく息を吐き出した。
「馬鹿…だよね。
四葉のクローバーは葉が一枚なくなったら幸せなんてなくなっちゃうのにさ…」
俯いて言う藤の頬を涙が伝って地面に落ちる。
結局…5年前、おまじない終了の7日目という事でわざわざ台風の中おまじないをかけた袋を取ろうとしてマリア像によじ登って足を滑らせて転落…というだけの事と思われる。
「ありえないほど前向きで楽天的で…あんまり周り気にしてない子だったもんな…確かに…。
誰も恨んでもなかったし、別に傷ついてもいなくて…普通に仲直りできるって思ってたんだろうね…。
確かにそういう子だったよ、桜は…」
藤は泣き笑いを浮かべながら立ち上がった。
「で?教えてもらえる?
最後の願い事はなんだったのかな?」
藤はフロウに少し微笑む。
フロウはそれに対してちょっとコウを見上げ、コウがうなづくと藤を向き直った。
「えと…四葉のクローバーみたいにずっと仲良く一緒に幸せでいられますようにって…」
「…そっか…。教えてくれてありがとう。」
フロウの言葉に礼を言うと、藤はクルリと反転する。
「ま、葉が一枚かけた時点で四葉のご利益はなくなっちゃったんだけどね…。
遺った人間に遺志だけは伝えてくるよ。
また…高等部に遊びに行くから。その時にね、ジュリエット」
と言葉を残して、藤は館内に戻って行った。
警察と救急車が到着したのはそれから1時間後。
全てを大人に引き渡して全てが終わった。