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プロローグ

世の中…わかっていても避けられない災難という物はある。

ユートこと近藤悠人17歳。

姉と妹に囲まれた中間子という立場から、おそらく誰よりもそれを壮絶に思い知らされて育って来ている。


それは究極の女性不信の彼にもようやく春が訪れたばかりの冬休み。

その彼の女性不信の原因でもある暴君、姉、遥の一言から始まった。


「ね、悠人、あんたもようやく彼女できたみたいだよね♪」


遥の猫撫で声は要注意である。


こういう声を出す姉の話に乗るとロクな事がない。

それは身にしみてわかっていたはずである…が…


「ね、彼女とお泊まり旅行したくない?」

……という話をスルーするには、彼はあまりに青少年だった…。


「何…企んでる?」


聞いちゃいけない。

聞いたら負ける。

それがわかっていても、出来立ての彼女とのお泊まり旅行…それをスルーできる男子高生がどれだけいるだろうか。


ユートは一応警戒の色を見せるが、そう聞いた時点でもう半分乗り気なのは、たぶん見抜かれている。


「あんたがさ、夏休み連続高校生殺人事件の犯人に刺されたじゃん?

あの時に助けてくれた友達ってさ…武道有段者って母さんに言ってなかったっけ?」

「だから?」

言った。

確かに言ったが…



夏休み、ひょんな事から巻き込まれた連続高校生殺人事件。

その中で知り合って、のちのユートの彼女となるアオイを助けるためユートが刺された時に、その殺人犯を素手で取り押さえ、刺されたユートにそのまま病院まで付き添い、さらに手当を受けた後のユートを自宅に送り届け、差し支えない範囲で事情を説明して帰ったその出来た友人について、当然親はさらにユートに説明を求めたわけで…。



その男の名は碓井頼光、ネットゲームで知り合った時のキャラ名”コウ”。


警視総監の息子で名門海陽高校の生徒会長、頭脳明晰、運動神経抜群、おまけにイケメンで剣道、柔道、空手の有段者という出来過ぎ男だ。


まあ…絶望的に空気が読めないため人間関係において非常に不器用だというおまけつきではあるが…。



それでも…いや、その不器用さゆえかユートから見るとあり得ない馬鹿みたいなお人好しで放っておけない。

ゆえに…対人関係においては天才的な才能を発揮するわりに浅く広くしか他人とつき合わなかったユートが彼女のアオイと共に非常に深くつきあうようになった現在の親友だったりする。



「ん~、その武道の中にさ、剣道…なんて入ってたりする?」

にっこりと伺う姉。

わかっている…。この笑顔がくせ者だ。

親友との友情と彼女との愛情。

どちらも犠牲にできるものではないのだが…


それでも、剣道…できたって言ったからといって即友情を犠牲って事にはならないよな…などと、ついつい傾くわけで…。


「入ってたら何?」

「入ってるのねっ!おっしゃ~!!!」

ガッツポーズをする姉にユートはちょっと後悔した。


「彼も連れて来てね♪」

もういきなり進んでる姉の話をとりあえず引き戻す。


「連れてくってどこへ?

何させようっていうんだよ?!」

「女の決戦場へよっ!戦力としてねっ!」

拳を握りしめて不吉な事を叫ぶ姉を後悔の目で見るユート。


近藤遥20歳。大学生。

とびきり美人というわけでもないが、まあ美人な部類には入るだろうか…。


化粧は上手い…化粧込みならまあ美人、というのが、しごく冷静な弟の評価である。


しかし彼女のすごいところはそんなところではない。

自他共に素晴らしく空気を読む男と言われているユートのそれをはるかに上回る対人能力。

さらに女という性別も、その能力をさらに強力なものにしている。


自宅での暴君っぷりが嘘の様に、優しく気が利く素敵なお嬢さん…それが余所の人間から見た遥の評価だ。


もちろん…男にはモテる。

非常にモテる。

弟から見ると思い切り騙されてるとは思うが…というか、実際騙されているわけだが…。



ところがこの思い切り強かな姉にも天敵というかライバルがいるらしい。

最近同じサークルに入って来た知り合い。


庶民的な気取らない優しさがウリな遥とは対照的にお嬢様なのがウリでモテている二宮舞。

姉に言わせると、男の前と女の前ではガラリと態度が変わる嫌な女だそうだ。


(それ…自分じゃね?つか、同族嫌悪?)

と、実弟のユートは思うわけだが…。


「すっごい嫌な女でねっ、『あなた青葉大のマドンナなんて言われてますけど…私はお育ちも違いますしね。周りにいる男性もその辺の凡才とは違うので…』とか言うのよっ!んでつい…」

「つい…?」

「お金だけあるような人種と違って能力ある人達が集まるからって言ったら、じゃあ友達をそれぞれ呼んで勝負してもらいましょうかって話になって…」


「おい……」

ユートは姉の言葉に頭を抱えた。

「まさかそんな下らない事のためにコウ呼べって?!」


あまりに恥ずかしい動機…。

というか、そんな下らない事で友人を呼び出せると思うのか…とため息をつく。


そんな弟に、遥は、でもね、と続ける。

「どうせなら徹底してやりなさいって、サークルでの共通の女の子の知り合いがすごく広い別荘を提供してくれる事になったから。

元ペンションを買い取ったとかで各部屋バストイレつき。

あんたどうせそういう意味では役立たずだから彼女と好きにいちゃついててもいいのよ?」


たぶん…その友人も嫌だったんだろう、女だけになるたびにこんなえげつない女同士の争いに巻き込まれるのは。


しかしまあおかげで、ただで…アオイとペンションにお泊まり…広がる妄想。


「とりあえず…テニスとチェスとフェンシングの予定だったんだけど、フェンシングは双方いなくて剣道でって事になってね…。

どっちにしてもいなかったから…剣道なんてやってる知り合いが…」

そんな妄想中も説明は続く。

早い話が…女の見栄の張り合いらしい。


まあ…アオイと旅行に行ってみたいのだとプライド捨てて泣きつけば、あのコウの事だ、多分来てくれるんだろうが…問題はこの女とそれに匹敵するタヌキがもう一人いるという事で…。



「姉貴、一つ約束守るなら頼むだけは頼んでやっても良いけど…」

一応…今相手は切迫した状況で…自分は立場的強者のはず、と、ユートは口を開いた。


「なに?何でも言って♪悠人君♪」

にっこりと優しい笑顔。

これに多くの男が騙されてるわけだが…まあ弟なので油断ならないとだけ思う。


「コウに変なちょっかいかけんなよ。

本当に剣道の試合に出てもらうだけっ!

他は一切構うな。

それ守らないなら俺マジキレるぞ。」


普段イエスマンな弟が珍しく強い口調で言うのに、遥は少し目を丸くして、それでも

「大丈夫っ。私は年下興味ないからっ!

さすがに3歳も年下じゃ守備範囲外よ。

手は出さないっ。

そういう事でおっけぃ?」

と、正体知ってる弟でもちょっと可愛いなと思う様な可愛らしい仕草で首を傾げてみせる。


コウが自分を自宅に送ってきた時は姉は会ってない。

ゆえにあの一般のレベルを超えたイケメンっぷりを見てないわけで…。


少し不安は残るわけだが、確かに3歳も下だとさすがに姉でも守備範囲外かもしれない。

というか、アオイと旅行に行きたい!


結局…ユートは青少年だった……


「もしもし、コウ?」

5分後…親友のところに電話をかけることになる。



『ん~、年末までは姫は母方のジイさんの所ですごす事になるらしいから、行くだけは行ってもいいが…。

絶対に勝てるなんて確約はできないぞ。』

事情を説明したら、予想通り了承してくれる親友。


まあ…その彼女様が不在で暇というのも大きな要因の一つではあるかもしれないが…。


「いいの、いいの♪

とりあえずコウが来てくれればそれでっ。

俺はアオイと旅行できればそれだけでおっけぃだから♪」

そう、行ってしまえば後は狐と狸の勝負がどうなろうと知ったこっちゃない、と、ユートは軽く請け負う。


『一応、一宿一飯の恩ができるわけだし、そういうわけにもいかんだろ。

まあ…最大限努力はしてみるが。』


と、答えるあたりが生真面目なコウらしい、と、いうか…それがいつものごとくとんでもない自爆モードの始まりなのにコウは気付いてない。

誘ったユートですら予測もしていないのだから、コウが気づくわけもないのだが。


コウに了承が取れたところでユートはコウとの電話を切って、今度はアオイに電話をかける。


もちろん、アオイは二つ返事で了承。

これで決定だ。






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