あなたしかいらない
ラヴィニア・フォン・リラザイト公爵令嬢。
それが私が生まれ変わった今世での名前と立場です。
ランドリール王国の貴族は大体が10才前後で婚約者が定められます。
私が12才の時。
ヒースロー侯爵子息で当時10才の、アーネスト・ヴァン・ヒースロー様が私の婚約者として我が家を訪れられました。
私とアーネスト様は
お互いに一目見たときに、前世の愛した人だと気付きました。
私はその場で泣き出し、アーネスト様は私を抱きしめて「また会えて嬉しい」と言い。
多分周囲の大人達は困惑を隠せなかった事でしょう―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
前世でアーネスト様……白戸章彦と私、木原青衣は、いわゆる社内恋愛でした。
30才を目前に離婚し、二人の娘を抱えた私は夫がいた時にしていたパートを辞めて転職し、一店舗の店長として娘達を養っていました。
長女は小学3年生、二女は保育所に預けながら、私が夜遅くなる時は長女が二女をみながら留守番をしてくれ、なんとか三人で穏やかな家庭を築いていました。
しばらくして幼馴染みの彼とやり直したり、別れた後に他に彼氏も出来たりしましたが、幸い平日休みの仕事でしたし、娘達が学校に行ってる間に彼氏と会ったりする事で、娘達には一切彼氏を会わせる事なく済みました。
娘達に会わせるなら、きちんと父親になれる人。そして何より私が愛し続けられる人―――
それが私が考えていた事でした。
沢山付き合いました。中には子供に会いたいとプロポーズをされる事もありました。
ですが、私にはこの人が本当に娘達にとって、私にとってなくてはならない人か、なくてはならない人になり得るか、それを考えると『否』の答えしか頭に浮かびませんでした。
それがどんなにお金持ちの息子さんでも、社長の息子さんでも、私は結婚する気にはなれませんでした。
…そして章彦と出会った時にも。
最初はそれほど深く考えていませんでした。
仕事で付き合ううちに、彼の人柄と優しさや厳しさに惹かれていきました。
段々深く知るうちに、私は初めて『この人が娘の父親になってくれたら』と、思うようになりました。
でも、私を愛してもらうのが先です。私を愛して、私の娘だから可愛がってくれたら…と、私は我が儘にも私の全てを包み隠さず、私をさらけ出した上で私を愛してもらい、娘達もなついていった事もあり
やっと、再婚する気になれました。
私の勘は当たりました。
章彦は私をこよなく愛してくれ、娘達も大事にしてくれました。
そしてもう一人章彦との娘も授かりました。
でも章彦は私を一番に愛し、娘達が嫁いでも晩年も変わらず仲のいい夫婦として過ごせました。
章彦は…私を愛し、私が大切にするものを全て愛してくれました。
年齢が、私の方が上だった事と、私自身の不摂生がたたったのか、私に先にお迎えがきた時に。
私にすがり付いて泣く章彦をおいていく事を私は激しく悔やみ、そして約束しました。
「章……来世では私はあなたしか愛しません。あなただけを待っていますから、必ず見つけてくださいね」
――――――――と。