思い出、忘れない
あらすじにも書きましたが「綾瀬」は名字です。ついでに湊は女の子です。
「私何やってんだろうな・・・」
私はため息混じりに呟いた。
そして、後ろに大きな口をあけてボールが来るのを待っているゴールを一瞥した。
人の名前を呼ぶ声や、シュートを外した仲間を慰める声が聞こえる。
見てのとおり、今はサッカーをやっている。普段の私なら、きっと手を抜いていただろうか、三年生の12月。
一番重要な時期に手を抜いて成績を落とされたら堪らない。だから、半分本気、半分嫌々私はやっていた。
「綾瀬。左からボールきた。あ〜右からも」
叫ぶような、湊の声で私はハッと我に帰った。
そうだ。ボーっとしている場合ではない。
仮にも私はキーパーをやっている。一番、しっかりとボールを見ていないといけないのではないか。
「止めてーーー」
いつの間にか、ボールは目の前に来ていた。
「くっ・・・早いよ・・・」
悪態をつきつつ、私はボールを取る為、構える。真正面を飛んでくるボール。私は手で弾いてボールの軌道を変えた。ボールは弧を描き、あさっての方向にとんでいく。
「怖えーよ・・・てか、遠いよ・・・」
文句を言いつつ、遥彼方へと飛んでいったボールを取りに行く。
足で操りつつ、私は一番近い味方を探す。十メートルくらい離れた所に手を振る短い髪が見える。湊だ。残念ながらどんな表情をしているのかは全く持って解らない。それでも、湊に変わりはないのでボールを渡し、急いでゴール前へと戻った。
もう一つのは・・・と見ると、既に味方がゴールへと持っていっていた。
私は、恐ろしく目が悪い。多分、両目の視力を合わせても0.3くらいしかない。当たり前の事だが、普段は眼鏡をかけている。でも、今は取っている。何故かってそれは仲間の皆に
「危ないから、眼鏡は取っておいたほうがいいよ」
なんて言われてしまった。
「見えなくて困るんだけど・・・」
外しながら文句を言う私に先程、叫んだ湊が
「俺がボール来たら教えてやるし、コッチでも守ってやるから、綾瀬は心配すんな」
ぶっきらぼうに言ってくれた。体育得意な湊だから・・・と言うのもあるし、湊が何か少し苛ついているようにも見えた。これ以上文句言ってたら何されるか解ったものじゃない。
だから、文句言うのをやめて試合開始当初から、全体の様子を見つつ湊の姿を見ている。
湊は本当は守備なのだが、今は敵の陣地に突っ込んでいく。そして、シュート・・・したらしい。周りの様子からしてどうも入ったらしい。
「凄いな。湊」
「そうか?そうでもないんだけどなあ・・・」
何時の間にか湊は戻ってきていた。
「なっ・・・早いな。戻ってくるの・・・」
「うん。だって攻撃疲れたし、綾瀬。見えてないだろ?だから解説に来た」
「・・・にしたって早かないか?」
「早く守備の方に来て、休んで体力回復させたかったから。それより、解説すると・・・」
湊は現状を淡々と話し、再び攻撃の方へと走っていった。
私は、それを嬉しいようなくすぐったいような気持ちで見ていた。
てっきり「俺がボールきたら教えてやるし、コッチでも守ってやるから、綾瀬は心配すんな」というのを律儀に守っているとは・・・。単純というか何と言うか・・・湊らしかった。
「湊・・・」
呆れたように笑いつつ、私は湊の姿を追った。本当にいきいきしていて、何ていうかカッコよかった。表情が見えないのが残念だけど・・・。
私はこの時こう思った。
「湊は男の子だったら、結構もてたんだろうな」と。言葉遣いなんかもろ男って感じだし、性格もどちらかっていうと男の子っぽいし、髪も短いし、名前も「湊」なんて男の子っぽいし・・・。
しかも、何時の日かセーラー服着ていたのに、男子に「あっ・・・お前か。後ろからみたら男かと思った」なんて言われてる。
女の子にしておくのは勿体無いな。男の子だったら、彼氏にしたかったな・・・。
「勿体無いなぁ・・・」
「何が?何が勿体無いって?」
ハッと我に返るとそこには湊がいた。
まさか、先程の事を本人に言うわけにはいかない。まあ、言ったところで湊が気にするとは思わない・・・。けど・・・。私は・・・。
「秘密だよーだ。」
教えなかった。だって・・・
「教えてくれたっていいじゃないか」
とむくれる湊が何だか可愛くて、ぎゅーってしてあげたくなるからね。
・・・なんてそれこそ本人に言ったら引かれるか、殴られるかされてしまいそうだから我慢して、騒ぐ湊をからかいながら私は教室へ戻っていった。
本当はこう言わないとだめだったのかもしれない。
「律儀に約束守ってくれてありがとう」
この感情は果たして何なのだろうか。
ただ単に、私が人をからかって遊ぶのが好きで、その矛先が一番近くにいた湊に向いてしまっただけなのだろうか・・・。
なんなのか解らない。
何時か、解るのかな?
でも、たとえ解らなくても・・・解っても・・・今、湊と笑って話せている今を忘れたくはない。
ずっと、ずっと、覚えておきたい・・・。
だから、これからもよろしくね。湊。
半分実話で半分は作り話です。湊モデルの子は本当に男の子みたいな女の子ですし、美咲モデル・・・もとい作者は美咲みたいなこと思っていましたし・・・
要望あったら続編書きたいと思っているので、感想よろしくお願いします。