幽霊の正体見たり枯れ尾花
降霊が使えると『嘯く』霊媒師。
犯人の現在位置を掴めると『吹聴する』サイキック。
彼女が演説を振るう時に必ず含める二つの職種は、与名さんにとっては因縁深いもの。
それは彼女自身が霊を視ることが出来、超能力者としてアメリカで働いていた経験があるからだった。
被害者の霊を降ろし、犯人が誰であるかを突き止め。
誘拐犯などの居場所を千里眼で見通し。
先を予見して犯罪を未然に防ぐ。
与名さんの力によって治安を維持することができたと、彼女は公的機関などから数多くの感謝状を受け取り、名誉勲章を固辞している。
正義の名の下に。
彼女はその力を振るまい続け、人々は惜しみない感謝を捧げ続けた。
過剰な期待は人の神経をすり減らす。
それが積み重なる内に、重圧に押しつぶされそうになる。
そして、潰れた。
彼女は、惰性にて正義を続けたけれど、謎を愛する彼女は、それを退屈に思う。
それはそうだろう。
どんな推理小説であろうとも、犯人の名前や犯行方法などが赤ペンでマーキングされていれば、それはとてもつまらない。
それらはいずれ彼女に怒りすら伴わせるようになった。
そんな真似をされて憤らないはずが無い。
ただそれは誰かが赤ペンでマーキングをしたわけでもなく、彼女自身による才覚なのであり、期待に応えようとしていたのもまた、彼女自身の良心である。
自縄自縛という言葉が彼女の頭の中で巡っていたことだろう。
潰れてしまった彼女でいても、謎を解くことを愛していても、それでもみんなの為にと頑張った。
そうした怒りは誰に向かうことも無く、彼女の腹の中に鬱屈としたものとして溜まっていく。
溜まったものは流れることなく、その場に留まり続ける。
澱んでいく。
濁っていく。
腐っていく。
誰かにぶつけることが出来ていれば良かったのかもしれない。
ただ彼女は正しく生きることに実直過ぎた。
たとえ鉄の意志であったとしても、延々と負荷をかけ続けられて、曲がらないものはこの世に存在し無い。
退屈は人を殺すという。
ならば。
退屈が人を壊すということもあるだろう。
そうして、潰れた上に壊れてしまった彼女は、正義の為に力を振るうことを止めた。
誰かの為に力を振るうのではなく、ただ自分の為だけに力を使わないことにする。
たった一人の人間として、一心不乱に謎解きがしたい。
彼女の細やかな願いは、叶えられた。
ではなぜ。
能力を使用することを頑なに拒む彼女が。
ぼくのような人間を傍らに置いているのか。
それがぼくに対する情愛だったならばどれだけ嬉しかったことか。
しかし現実はそう甘くない。
彼女を壊した現実が甘いわけがない。
ぼくの死が、彼女にとって今まで出遭ったことのない謎だったから。
ただそれだけのこと。
他にはない。
壊れた彼女は、ぼく自身のことなどはどうでもいいと思っていることだろう。
ぼくの心臓に刃を突き立てた何者か。
どうやって突き立てたか。
今その犯人はどこにいるのか。
ぼくを殺した動機とは何か。
フーダニット。
彼女のぼくに対する興味はただのそれだけ。
彼女とぼくの接点はそれだけ。
死んだ場所でただ呆然と立ち尽くし続けるしかなかったぼくに、目的意識を、自由を、考える力を与えてくれた彼女。
胸が疼く。
しくしくと。
これは殺された痛みでは無く。
きっともっと別のものだろう。