嬌笑(きょうしょう)は次第に嘲笑(ちょうしょう)へと変化し、苦く笑って一笑に付す。
一頻り笑い終えた彼女は、腹筋が攣ったのか、水に濡れた羽虫のように床に倒れていた。
涙と涎に塗れて悶えている。
表情の艶やかさと締まりの無さは正視に堪えない。
ぼくは努めて冷静を装って目を逸らし、そのままの姿勢でこれまでの経緯などを話した。
余韻に浸っていた彼女は、痙攣する唇を震わせながらも謎解きに必要な情報であると、ぼくの声に耳をひくつかせた。
与名さんたちを追う為に、警備員の減少があった。
どこで殺人が起ころうとも話せるように、屋敷内の構造を見て回った。
重要な会議の内容を漏らさない為か、使用人の不在を説明した。
そして会議の内容と、その出席者のアリバイを話す。
彼女が来るまで自身が見た全てをその通りに伝える。
決して私見は混ぜず、覚えている限りを話した。
「WEBカメラの映り方に関する知識はあるよね」
カメラは決して自分自身そのものの姿を映すわけでは無い。
車の中で、与名さんに撮られた時にも思ったことだった。
それは鏡と同じで世界を反転させる。
ぼくはそれに頷き「右はそのまま右。左は左で判断して下さい。たとえばぼくが右手に歯ブラシを持っていたとして、WEBカメラに映るぼくは左手に持っています。与名さんに話す時、ぼくはこれを『右手に歯ブラシを持っている』と話しています」と付け加えた。
そうして、次はぼくの番だとばかりに尋ねる。
「そちらでは何があったんですか」
しかし、彼女は返事をしなかった。
謎解きと関係の無い物などは必要ないとばかりに、右から左へと聞き流す。
さてこの料理の味は如何ほどかとばかりに、舌へと転がす為、殺害現場を見分し始める。
警察が来るまでに、と言ってた癖に、室内に備え付けられた電話へは見向きもしない。
邪魔をされたくないのだろう。
室内をうろつく飢えた狼を見、ぼくはぼくで部屋の様子を見て推理してみることにした。
少しでも彼女の胸の内を知れるように。
少しでも寄り添えるように。
「じゅる」
口端から垂れ下がった涎を拭う彼女は獣そのもののようで。
理解への道のりは遠そうだった。




