表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/21

壊れた探偵は嬉々とした内面を包み隠し、楚々とした外面(そとづら)にても堪え切れずに笑みを溢す

 与名さんとしては当たりを引いた気持ちだろう。

 入り口が施錠されている時点で、既に笑みそうになる口を必死に堪えていたのが分かる。

 猪原秘書は「総帥……!?」そう動転したように部屋へ入ろうとする。

 しかし、彼女は遺体へ駆け寄ろうとする透一郎氏によって突き飛ばされた。

 因果応報というわけでもないが、同猪原秘書同様に足を踏み入れようとした透一郎氏の行動は「打海」と与名さんによって呼びかけられた彼女の手によって遮られた。

「こっから先は立ち入り禁止だ爺さん」

「―――退けッ!!」

 内浦の遮った手を、透一郎氏は罵声と共に振り払おうとした。

 彼は哀れにもその腕を絡め取られ、関節を極められた上で部屋の入り口まで連行されて行く。

「他の皆さんも部屋の外へ出ていて下さい」

 車中では見られない余所行きの声を張った与名さんは、自身の喜びが漏れない様に唇を引き結んでから言葉を続けた。

「私は探偵の名取与名なとりあたなと言います。警察が来るまでここは現場の保全に努めなければなりませんので、皆様には部屋へ立ち入ることを禁じます」

 その言葉に応じたのは、先ほどまで場を取り仕切っていた長兄では無く、威次氏の方だった。

「ふざけたことを抜かす。誰が部外者の言うことなど」

 そうして、与名さんへと一歩を踏み出す威次氏。

「聞いて頂けなければ、実力を行使します」

 彼女がそう言うと、内浦にて拘束されている透一郎氏が痛みに悲鳴をあげた。

 人を痛めつけることなど何でも無い様子で内浦は語る。

「てめーがもう一歩でも与名さんに近づいたらへし折る」

 踏み込もうとしていた一歩を、逆に後退させた威次氏は、東三氏を一喝する。

「―――東三ッ!! なんでこんな胡散臭い奴らを中に入れた!? この町の警備責任者はお前だろうがッ!?」

「ひっ」

 短く悲鳴をあげた東三氏は、その身を小さく竦ませる。

「威次兄ぃ、そ、そいつらは俺の知り合いなんだ……。だから見逃してやって欲しい」

 そうして両手を擦り合わせて、威次氏へと拝み倒す。

 知り合い?

 与名さんと東三氏が?

 ぼくが訝し気な表情を浮かべると、与名さんはそれを横目で見、入り口付近に居る容疑者全員に目を戻した。

 まあ、今の状況で、説明など受けられないだろう。

 どちらにしろ、ここまでぼくが見て来た経緯を聞かれるのだろうから、その時に話せばいい。

 答えてくれるかどうかは分からないけれど。

 与名さんは眼鏡のブリッジ部分を人差し指の第二関節で押し上げる。

「打海。彼ら彼女らは冷静ではいられないようです。無理も無い。父親が惨たらしく殺されてしまったのだから。少し時間を置いた方がいい。あとで事情をお伺いするので、どこか別の部屋にてお待ち頂いて下さい」

「ふぁいよ」

 眠たげに応じた内浦へ、与名さんは心配そうな顔を浮かべ「十分後くらいには一度そちらへ行きます。自分の命が危険だと判断しても、決して殺さないようにして下さい」とそう念を押す。

 それは内浦を殺人者にしたくないと案じるよりは、謎を解いた時の答え合わせが出来なくなることを危惧しているようで、たとえ内浦に対して好感を抱いていないぼくであっても。

 彼女の正気を疑ってしまう。

「ふぁいふぁい」

 いい加減に返事をする内浦だったけれど、そこは与名さんを敬う弟子である。

 彼女の言い分に従って、全員を小突くようにして、カンファレンスルームへと追い出してくれた。

 そうしてぼくを除いた全ての人が出て行ったところで、与名さんはにんまりと、まるで美食を楽しむように頬を蕩けさせ、あられもない笑みを浮かべる。

 彼女は堪え切れない。

「ふは」

 堪えるつもりもない。

「あは」

 壊れたレコーダーのように。

「っは」

 絶え間なく笑い始めた。

「っはははははははっははははっはははははははっはははははははっははははははあああはあはっはあはははっははっはははははっはははあっはははっははははっははははっはははははっはははははははははっはああはあはっははあはははっははははははあっはああっはははははっははははははっはははははははっはあはあはっははは―――」

 謎に出会えた歓喜の笑い。

 そのはずなのに。

 とても乾いた様子に聞こえるのはなぜだろう。

 まるで人の死そのものを喜ぶ殺戮者シリアルキラーのようで。

 彼女の喜びはぼくにとっての喜び。

 そのはずだけれど。

 この笑みだけは―――あまり。

 かなり、好きになれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ