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極めし幻想魔導のデウスマギカ  作者: クマ将軍
第一章 目覚めし幻想魔導
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第4話 邂逅

 元は公園だったゴミ捨て場。

 そこの中央こそが、犯人の指定した場所だ。

 犯人の求める条件は僕と神凪イブキの二人のみで、僕たちは犯人が指定した時刻通りにやってきた。


 犯人らしき人影はまだ来ていない。

 周囲を見渡すと同時に、隠れて僕たちを護衛している人の方向に目を配りながら警戒をする。

 それでも僕よりイブキの方は若干余裕があるらしく、神経質そうな警戒をしている僕にこう言った。


「彼らは五十嵐さんが厳選してくれたベテラン対魔導師の人たちだ。それでももし万が一のことがあったら、ボクが囮になるよ」


 小声で僕に説明するイブキだが、僕はそう楽観的にはいられない。

 相手は今まで対策課の人たちを欺き、裏で暗躍していた可能性のある秘密結社だ。そのような存在がカナタを誘拐したんだ。家族である僕が最大限に警戒するのも無理はない。


 確かに連中の狙いは僕たち二人だけど、僕よりも神凪財閥の令嬢であるイブキの方が価値が高いのは確かで、優先的に狙うのはイブキの方が可能性が高い。

 囮という選択肢も十分に考慮できるが、それは間違いだと言っておこう。


「それなら何故神凪さんだけじゃなく僕まで指名された?」

「それは……」

「それは僕が『黄金の理想郷アヴァロン』の魔導使いを倒した人の一人だからだ。精霊もないのに魔導使いを倒した僕を脅威に思うのは当然のことだと思う」


 だからこそ、囮になると言われても楽観的にはなれない。

 何故なら今や神凪イブキに囮となる価値なんてないのだから。


「それなら囮になるだなんて考えよりも、先ず先に考えることがあると思うよ」

「……それは?」

「万が一なんて起きないようにすること。万が一が起きた時点で既に手遅れだよ」

「……」


 キツイ言い方ではあるけど、今の僕は多少イラついている。

 だってそうだろ? 相手は少なくても昨晩相手した魔導使いよりも上の相手だ。そんなに相手にカナタを誘拐されて、平静に保っていられる身内はいるのだろうか。


『ちょっとイブキは貴方のことを思って言っているのよ!?』

「あ、シゼン……!」


 突如としてイブキの腕輪型デバイスから精霊の声が聞こえてくる。その精霊はキツイ言い方をしてしまった僕に怒っていて、声を荒げながら責めてきた。


「……君は、神凪さんの精霊なのか?」

『えぇ、私の名前はシゼン! 貴方の気持ちは分かるのだけれど、一緒に戦う仲間に対して何よその態度!!』


 シゼンと名乗った精霊は僕の今までの態度が気に入らなかったようだ。

 確かに僕はイラついていた。あの時の戦いで妙な感情を抱くし、妹を攫われるし、おまけに秘密結社とやらに狙われている。


 でも確かに僕がイブキにキツイ態度を取っても、それはただの八つ当たりだろう。彼女の両親は事故によって昏睡状態に陥り、身内に狙われ、それに神凪財閥の令嬢ということで秘密結社とやらに狙われている。

 僕と彼女の境遇は似ていて、それでも彼女は僕みたいに当たり散らさなかった。


 あぁ……僕は不安定という言葉で言い訳にしていたのかもしれない。


「……そうだね、ごめん。君の方が僕よりも酷い状況なのに……」

『分かればいいのよ、分かれば!』

「ちょっとシゼン!! はぁ……君も謝罪しなくていいよ。それが当たり前の感情さ」


 だからこそ、僕よりも『当たり前の感情』を抱いている筈のイブキが態度に表していない時点で僕と君との間にある自制心というものの差が明確になってくる。

 つくづく今の僕は嫌な奴になったなぁ。


「そういえば、まだ犯人は来ていないね」


 何か気まずい空気になっている現状を打破したいと思ったのか、彼女の方から話題を変えてきてくれた。

 確かに予定の時刻を過ぎても犯人とやらの人影は来ていない。


「対策課の人たちは?」

「ちょっと待って……うん、彼らも分からないみたい」


 何やらキナ臭ってきた状況に僕とイブキが警戒を最大限にする。

 こうして犯人の動向は不明で、何をしてくるか分からないという状況が取り分け最悪だと言っておこう。僕たちは犯人が人質のカナタを連れてきて、そこに交渉する余地があるのだと思っていた。


「……神凪さん」

「……何かな?」

「刑事さんたちは、予めこの場所を調べて何もないって結論が出たよね?」

「そうだけど……確か周囲を含めて魔導の痕跡も確認して、そこで何も異常はないって結論が出たよ」


 現在ゴミ捨て場になっているせいか、周りを見渡してもゴミしかない。

 テレビのゴミに冷蔵庫のゴミ、中には家具もあって大小様々なゴミがある。幸いなのは生もののゴミというものはないため、臭いは対して気にならないぐらいだろう。

 それにしても魔導で異常点は見当たらないか……。

 ということは生体反応でさえも察知する魔導でも反応がなかったということは、犯人はゴミの中に隠れているという訳でもないらしい。


「何が……狙いだ?」


 もうすぐ指定された時刻よりも30分が経とうとしている。

 ……いや、待てよ?


「月の位置、ゴミの配置……まさか?」

「どうかした?」

「……こんな古典的な物を使うとは」

『え?』


 シゼンとイブキが疑問符を出すがもう遅い。

 僕たちはまんまと罠に掛かったというわけだ。


 そして僕たちは突然発生した光に飲み込まれ、その場から消えた。




 ◇




「う……ここは?」

「神凪さん、気が付いたのか」


 周りを見ればそこは一部鉄骨むき出しの工事ビル。僕たちはその屋上にいた。

 空には雲が一つもなく、輝かしい満月の光が辺りを照らし、月光だけで周囲を見渡すことができる。


「何がどうなって……」

「『魔導陣』だよ」

「魔導……陣?」

『確かそれは人類が私たち精霊と共存する前……『魔導技術』が生まれる前にあった前時代技術……よね?』


 そう、僕たちが飛ばされたのはあのゴミ捨て場にあった魔導陣によるものだったのだ。


「そんな古い技術……良く知ってたね」

「僕は魔導が使えなかったからね。使えるための一環として色んな本屋を巡ったんだ」


 していなかったら分からなかったと言えるほど、とても古い技術の一つなんだ。それに電子書籍が当たり前となった現代では本という紙媒体はとても貴重だ。

 一つの県につき本屋は何件あるかどうか……。

 まぁそれで分かったのは魔導陣とは物の配置と適切な時間によって発動される技術だということだ。


 元は風水と呼ばれる占いから編み出されたらしいけど、詳しいことは分からない。でも分かることと言えばその魔導陣とやらは魔力や魔導を必要としない技術だ。

 様々な位置関係に特殊な素材を合わせれば、その後は自然現象によって超常現象が現れるのが魔導陣の特徴という。


「だから対策課の人には気付かなかったのか……」

「準備に途轍もない手間が掛かるんだ……想定する方がおかしい」


 それにカナタが誘拐されたと分かってから一時間しか経っていない。

 それなのに魔導陣を発動させるための素材やら何やらを用意してきたのは、並みの速さじゃあり得ない。事前に予測した上に準備したのなら理解できるけど……。


「ふむ、想定時刻通り」

「ッ!? 誰だ!」


 突然聞こえた男の声に驚きながら、その声の方向に顔を向ける僕たち。

 そこには一本の鉄骨に巻き付けられているカナタの姿。そしてその隣には黒いローブを纏った男の姿があった。


「カナタ!?」


 妹の意識がある様子は見られない。

 恐らく魔導によって気絶させられているからなのか……!?


「……お前、ただで済むと思うなよ」

「ふ、それはこちらのセリフだ少年」


 悠々とこちらに歩いてくる謎の男。

 そのローブ姿はまるで昨晩戦った暗殺者と似たような雰囲気であり、その雰囲気から僕は目の前の男の正体に何となく感づく。するとイブキが確認するように話しかけた。


「貴方が黄金の理想郷アヴァロンの構成員だね?」

「……はぁ、そこまで漏らしたかあの屑が……まぁそうだ。私は黄金の理想郷アヴァロンの一人、名を『ディード』と呼んでくれても構わないよ」


 短い間ではあるがね、と最後に補足するディードという男。

 初対面であるのに、目の前の男は全て下に見ていると分かるほどディードの目は失望に満ちている。……それが魔導の使えない僕に対して向けてきた人たちに似ていて、酷く不愉快な気分にさせてくれる。


「貴方の目的は一体なんだ?」

「邪魔するものを排除すること。実に秘密結社らしい答えじゃないか?」

「ふざけているのかお前は?」

「とんでもない。こう見えて私は多忙の身故、ふざける暇もないのだ」


 何やらどう足掻いても戦う以外の道はないらしい。


「なら、お前を倒してカナタを取り返す」

「ついでに貴方を倒して黄金の理想郷アヴァロンの正体を暴くよ」


 そう宣言する僕たちに、ディードは益々失望の感情を強めた。


「はぁ悲しいものだよ……これだからガキどもは」


 こちらは四属性全て操れる『例外者』である神凪イブキと、魔導が使えない落ちこぼれの僕。対して相手は正体不明の秘密組織に所属している魔導使い。

 戦力としては寧ろ相手の方が高いのだ。


 それでも……僕たちが負ければカナタに危害を加えるかもしれない。

 この戦いは、負けられないのだ。

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